25-4 : 理由
不可視の速度で剣が
「カカッ……カカカッ!」
それを見たリンゲルトの不気味な笑い声が、“不毛の門”に木霊する。その怒りに震える声も、生者を冷笑する笑い声も、北の四大主のものであることに違いはなかったが、今そこに
今となっては、もう教皇の内に宿る
「ゴーダよ……東の四大主よ……
聞く者を凍り付かせる薄ら寒い怨霊の声が、暗黒騎士に
「返答によっては、たとえ貴様であろうと容赦はせんぞ、ゴーダ……」
……。
一触即発。空気そのものが凍えて流れを止めたと錯覚するほどの、張り詰めた間があった。
……。
……。
……。
そして暗黒騎士が、沈黙を破り、口を開く。
「……私はそもそも、争い事を好まん。“宵の国”にも、“明けの国”にも、平穏であっていてほしいと願っている……それは私の精神衛生にも関わる事柄なのでね……」
……。
「だが、まぁ……それもあるのだが、今回に限っては、理由はもっと単純だ……」
……。
「滅びの記憶……? “災禍の血族”への恨み……? そんなもの、私の知ったことか……」
……。
「カースに次いで、四大主の顔に泥を塗ったお前の存在そのものが、ただただ、気に食わないんだよ――老いぼれ」
……。
……。
……。
「……ならば……この場で我らの歴史の
……。
……。
……。
バチリ。と、限界まで張り詰めていた空気の
“渇きの教皇”の何もない
「カカカッ……カカカカッ!」
リンゲルトを
「――“遡行召還:帝国歴”」
吹き込んだ黒い灰が空中で渦を巻き、その
“最強”の称号を頂く東の四大主と、かつて“最強”と呼ばれていた北の四大主の衝突の火蓋は、そのようにして切って落とされた。
妄執に取り
……。
……。
……。
「変換座標軸、固定……」
それに対する東の四大主“魔剣のゴーダ”もまた、魔族最高位同士のこの争いに、
「効果深度、限定制御……」
腰を落として踏み込みを効かせたゴーダが、“運命剣リーム”を真横に構え、水平斬りの構えを取る。
「“殲滅剣技”……」
暗黒騎士の魔力が清流のように
「――“六式:
……。
……。
……。
――ガシャリ。
そうして、空間
“奥行き”の次元を喪失した空間そのものが、暗黒騎士の射程を無視した斬撃の前に斬り伏せられる。シェルミアの激震の禁呪によって崩落し、渓谷の
崩落によって押しのけられた空気が風を起こし、砂埃が視界を曇らせる。東の四大主と“鉄器の骸骨兵団”との衝突は、そのわずか十秒足らずの内に決着を見ていた。
しかし――亡者の骨を震わせる声も、大地を揺らす足音も消えた“不毛の門”の
……。
……。
……。
ゴーダが、目にも止まらない
ポキリ。と、音を立てて、暗黒騎士によって払い斬られた骨の槍が地面に転がった。
……。
……。
……。
「やれやれよのう……近頃の若い者は、老人に対して敬意の
次第に晴れていく視界の先に、骨の身体を上下に両断され大岩の下敷きになった“渇きの教皇リンゲルト”の崩れかけの頭骨が見えた。紫色の
「ただ
ゴーダが怒りを隠そうともせず、そう言い捨てた。
「……カカッ……。全く、若造の相手は骨が折れるて……。ふむ、どうやら、我が“帝国歴”では、役不足なようじゃ――ナッ」
――グシャリ。最後の一声を裏返らせて、砂埃の中に現れた骨の足に踏み砕かれたリンゲルトの頭骨は、それきり言葉を発さなくなった。
「……“多勢に無勢”……そんな言葉が
砂埃の中を
「それを打ち負かすは、数の多さではない……純粋な、“個の強さ”じゃ……そうであろう……?」
そうして、個体としての実体を持たない“渇きの教皇リンゲルト”が、新たに得た骨の身体の
「ああ……その言葉には、私も同意しよう……」
薄まっていく砂埃の中にぼぉっと浮かび上がったその人影に向けて、ゴーダが肯定の言葉を返した。
「カカカッ……分かっておるではないか……渇ききったこの身体が、焼けるような血潮の流れを思い出すようじゃ……。さぁ、参ろうぞ……闘争は、始まったばかりじゃ……」
……。
……。
……。
「カカッ……」
……。
……。
……。
「――“遡行召還:英雄歴”」
――ゴッ。
何の前触れもなく吹き荒れた一陣の突風が、崩落によって巻き上がっていた砂埃を一瞬で吹き飛ばした。
「ゴーダよ……数で押し切ろうなどと、思慮に欠ける手を打ったこと、ここに一言
砂埃の晴れた先に立っていたのは、ボロボロの
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