24-9 : 小さな、祈り
黒い灰の渦が“不毛の門”に停滞し、そこから無尽蔵に“鉄器の骸骨兵団”が隊列を
「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ゛!!!!!」
払っても切り落としても、いなしても押し返しても突き出され続ける無数の
それでもシェルミアは、1歩たりとも、後ろに下がりはしなかった。
「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!」
シェルミアのその鬼神の
「カカカッ、
しかし、わずかにシェルミアが押しさえしている状況を見ながらも、リンゲルトは不気味に笑うばかりだった。
「さて……その無謀な力の発露、いつまで続くかのう……カカカッ」
「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛っ――…………――ッッ!!?」
ドクリッ。と、それまで狂った早鐘のように打ち続けていたシェルミアの鼓動が、
「カカッ……どうした……それで終わりか、小娘……カカカッ」
消耗していくシェルミアの姿を
「そんなことでは、せっかく半歩押し返した我が“帝国歴”が、また前に出るぞ……カカカカッ」
シェルミアが無防備を
その痛みで意識を引き戻したシェルミアが、赤く光る眼をぎらりと前に向ける。
「っ!!――っまだまだぁあああっ!!」
――!!!!!!!
大地を揺らす衝撃が“不毛の門”を突き抜けて、荒涼とした風景全体がグラグラと揺れた。
封を解かれた第2の禁呪が大盾に宿り、そこから放たれた激震の衝撃波が、押し寄せる“鉄器の骸骨兵団”を粉砕して一気に押し返していた。衝撃の直撃を受けた断崖の一部に亀裂が入り、崩落した巨大な岩塊が渓谷の
空気そのものを破壊の力に変換する禁呪を
「はぁア゛……はぁア゛……はぁア゛……はぁア゛……」
“明けの国”への境界線に
「カカッ……。賞賛しよう、小娘。この
「はぁア゛……はぁア゛……はぁア゛……」
「よくぞ、のう……」
「はぁア゛……はぁア゛……」
「しかし……全て、無駄なことよ……」
黒い灰の渦の中から、シェルミアがそれまで押し返してきた総数に等しい新たな“鉄器の骸骨兵団”の、慈悲なき足音が聞こえてくる。
「はぁア゛……はぁア゛……はぁア゛……」
「もうよかろう……全て、諦めよ……そして、死ぬがよい……」
……。
……。
……。
再び、“不毛の門”を亡者の波が埋め尽くす絶望的な光景が、シェルミアの前に広がった。
……。
……。
……。
「はぁア゛……はぁア゛……――ま、ダ……マだまだ……まだまダあぁああァ゛ああア゛あっッ!!!」
――!!!!!!!
大盾に宿った第2の禁呪が、もう1度空気に激震を起こす。それによって砕け散った“鉄器の骸骨兵団”を踏み越えて、更に召還された次の“鉄器の骸骨兵団”が突き進んでくる。
「――うあぁア゛ああァ゛あぁぁぁア゛ぁぁああっ!!!!」
シェルミアの
長剣に第3の禁呪が宿り、その刃から漂う白銀に陽光が反射して、きらきらと
がむしゃらに振り下ろされた長剣が空振り、空を裂くシャッという音が聞こえた。
そして次の瞬間に“不毛の門”に広がっていたのは、
「――ア゛ぁあああァ゛ぁあああっ!!」
足の止まった亡者の群れに3度目の激震の禁呪が直撃して、凍った骸骨兵たちが氷河もろとも粉々に砕け散った。その後ろには、リンゲルトに
……。
……。
……。
それが、限界だった。
……。
……。
……。
「……ァ゛……っ」
白銀の禁呪を
「……ア゛……あ……」
脚がフラフラと震え、倒れないように剣を
……。
……。
……。
「シェルミアとやら――貴様の、負けじゃ」
……。
……。
……。
「……あ……ア゛……っ」
……。
……。
……。
……。
……。
……。
「――……さン……」
……。
……。
……。
「――通……サん゛……」
……。
……。
……。
「こコ、から……先は……絶、対に……ゼッタイに……絶対に……! 通さんっ……!――」
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
――ドスッ。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
「……眠るがよい……孤独な王の成り損ないよ……」
……。
……。
……。
目の前の地面から突き生えた骨の槍が心臓を貫いて、そこに自分の真っ赤な血が伝っていくのを、濁った視界の中でシェルミアは見た。
――ドスリッ。
――ドスリッ。
――ドスリッ。
もう、痛みさえなかったが、地面から更に複数伸びてきたリンゲルトの骨の槍に、全身を串刺しにされたのだけは、ぼんやりと分かった。
右手が、剣から離れる。大盾が左腕からすり抜けて、地面に転がった。脱力したシェルミアの身体は、しかし地に伏すことはなく、全身を串刺しにする骨の槍に支えられて、膝を突いた姿勢のままその場に座り込んでいた。
眼前に、“鉄器の骸骨兵団”の黒い塊が押し寄せるのが、焦点の合わなくなった視界に映る。
……。
……。
……。
――ああ……。
……。
……。
……。
――みんなの……逃げる時間は……作れたでしょうか……。
……。
……。
……。
――せめて……1人でも……悲しむ人が、減りますように……。
……。
……。
……。
――……。……。……――
……。
……。
……。
シェルミアの身体を覆い尽くした“鉄器の骸骨兵団”が、肉を引きちぎり、骨を砕き、血を
……。
……。
……。
――“明星のシェルミア”、北の四大主“渇きの教皇リンゲルト”との壮絶戦の果てに、戦死――……。
……。
……。
……。
――。
――。
――。
「――違うな……」
「――それは、私の求める未来ではない」
「運――――」
「――命――」
「――――剣」
可能性の万華鏡に映し出された未来の1つはそうして棄却され、“運命剣リーム”が、選択された別の未来へ向けて、世界を収束させてゆく――。
――。
――。
――。
……。
……。
……。
――。
――。
――。
「はぁア゛……はぁア゛……はぁア゛……」
「もうよかろう……全て、諦めよ……そして、死ぬがよい……」
……。
……。
……。
再び、“不毛の門”を亡者の波が埋め尽くす絶望的な光景が、シェルミアの前に広がった。
……。
……。
……。
「はぁア゛……はぁア゛……――ま、ダ……マだまだ……まだまダあぁああァ゛ああア゛あっッ!!!」
――!!!!!!!
大盾に宿った第2の禁呪が、もう1度空気に激震を起こす。それによって砕け散った“鉄器の骸骨兵団”を踏み越えて、更に召還された次の“鉄器の骸骨兵団”が突き進んでくる。
「――うあぁア゛ああァ゛あぁぁぁア゛ぁぁああっ!!!!」
シェルミアの
長剣に第3の禁呪が宿り、その刃から漂う白銀に陽光が反射して、きらきらと
がむしゃらに振り下ろされた長剣が空振り、空を裂くシャッという音が聞こえた。
そして次の瞬間に“不毛の門”に広がっていたのは、
「――ア゛ぁあああァ゛ぁあああっ!!」
足の止まった亡者の群れに3度目の激震の禁呪が直撃して、凍った骸骨兵たちが氷河もろとも粉々に砕け散った。その後ろには、リンゲルトに
……。
……。
……。
それが、限界だった。
……。
……。
……。
「……ァ゛……っ」
……。
……。
……。
力の入らなくなったシェルミアの身体が、ふらりとくずおれていく――。
……――。
――そしてシェルミアが膝を地に突こうとした瞬間……ボロボロになった彼女の身体を受け止める黒い影があった。
……。
――斬。
押し寄せる亡者の黒い波が、たった一振りの剣技の前に両断される気配があった。
「……?……」
顔を上げたシェルミアが、彼女を受け止めた黒い影に、曇った赤い瞳を向けた。
「……あ……なた……は……」
……。
……。
……。
「ああ――待たせたな」
――暗黒騎士“魔剣のゴーダ”、推参。
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