18-18 : 報せ
……。
……。
……。
――“宵の国”北方、“ネクロサスの墓所”。
――“右座の剣エレンローズ”戦線離脱直後。
「……何、だ……?」
最後に残していた
目の前で、激しい
『カカカカカッ』
それを面白がるように笑う、“渇きの教皇リンゲルト”の声が、無数の鉄器骸骨の口から
『カカカカッ、愉快愉快。人間よ、貴様、何をした? カカカッ』
真紅の
『我が“英雄歴”の一撃を受け、なぜまだ立ちよる?
1度は
その戦士は背中に
『面妖な生者じゃ……』
標的を新米騎士から
グニャリ。
四つん
「……フシュウゥゥゥゥゥ……」
真紅の兜の継ぎ目から血煙混じりの吐息を吐き出し、
そこにはただ、違和感だけがあった。
『奇っ怪な
“鉄器の骸骨兵団”を器として斉唱されるリンゲルトのその言葉を合図に、50万の鉄器骸骨が再び灰に
「――“遡行召喚:英雄歴”……もう1度、この勇士の記録で
全てが幻だったかのように、“ネクロサスの墓所”を埋め尽くす亡者の群れが消え
「……シュウゥゥゥ……」
「カカッ。獣になりきりよるか。見せ物としては下の下であるが、
――ゆらり。
リンゲルトが、身体を揺らす。
……。
「……グルルル……」
……。
……。
……。
「……ガブルルァ!!」
――。
「しかし……もう見飽いたぞ、狂人めが……」
勝負は目にも止まらぬ
灰の粒子がリンゲルトの手元に集合し、密度を高めたそれが三つ
「……グル……ブッ……」
腹部を貫かれた
「しぶとい
愉悦の笑いを
宙吊りに突き上げられた赤騎士の全身から鮮血が噴き出し、リンゲルトに血の雨を降らせる。
「カカカカッ……これを
“渇きの教皇”が
「カカカカカッ! カカカッ……カカッ……ッ……」
全身の骨を震わせて笑い続けていたリンゲルトが、ピタリと動きを止めた。
「……これは……」
リンゲルトの低い声が、怒りに震える亡者の声が、不気味に空気を震わせる。
「……貴様……貴様ら……よもや……」
――ボロリ。
串刺しにされ、切り刻まれた
その兜の下に、顔はなかった。
そこには頭部もなければ、首もなかった。
「……ギシャアァァァッ!!」
人ではない者の叫びが上がり、滴る血の筋が無数の腕となって、
――ビタッ。
リンゲルトまで紙一重というところで、全ての槍がびたりと止まる。
「……人間どもよ……」
リンゲルトが、ぽつりと
「貴様ら……
教皇の拳が、固く握り締められた。
「あれを、
北の四大主の
「
……。
……。
……。
「……ああ……滅びよ……人間ども……」
……。
……。
……。
「否――この
その異形の血を渇いた灰に固められ、
……。
……。
……。
新米騎士が、焦燥した顔つきで
「
……。
……。
……。
「
……。
……。
……。
新米騎士の視界が真っ暗になり、それきり全てが停止した。
それが“死”であると理解する者は、渇望に
***
――“宵の国”、中心部。“淵王城”。
――玉座の間。
冷たい月光が、玉座を仰ぎ見る石床を照らしていた。
“大回廊の4人の侍女”たちの出払った玉座の間で、その王の座にのみ、果てなく
やがて雲一つない夜空から差し込む月光が、何かの陰で遮られ、
何も聞こえず、何も見えない玉座の間は、“何も存在しないこと”と同義と化す。
その虚無に等しい
「……リンゲルト……」
“淵王リザリア”が、少女の姿をした何かが、感情のない声で、ゆっくりと闇の中に
「……余の言葉に、背くか……」
淵王の瞳が静かに閉じられ、再び光のない世界が広がった。
“光の消えた闇”は、“光のない闇”よりも、更に
***
――“宵の国”、北東地域。古い街道。
騎馬に
使われなくなって久しい街道沿いには深い森が浸食し、その中には何が潜んでいるのか見当もつかない。
決して安全とはいえないその道を、しかしその騎馬は単騎で走り抜けていた。
騎馬は軍用に訓練された種で、大きな体格に
騎馬の目には高い知性の光があり、己を駆る主への信頼と忠義の深さが見て取れた。
何よりその毛並みの美しさが、いかにその騎馬が大切に世話され、強く育てられてきたかを物語っていた。
それは宵闇の中に溶けてしまいそうな、
そしてその騎馬を駆る者もまた、闇と同化する黒い姿をしていた。
漆のような黒塗りの鎧。その所々に浮かび上がる、金色の紋様。腰には珍しい形状をした、一振りの剣――。
手綱をしっかりと握り締めながら、その騎手は兜の下でギリリと強く歯噛みした。
「……リンゲルト……! 血迷ったか……!」
暗黒騎士、“魔剣のゴーダ”その人が、固い声で
懐の巻物にもう1度だけ目をやって、小さく舌打ちしたゴーダがそれを
暗い
……。
……。
……。
――北の四大主“渇きの教皇リンゲルト”、“明けの国”へ向け、反転攻勢。
……。
……。
……。
明けと宵の
――第2部「戦役」編、終――
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