18-3 : 戦場
……。
……。
……。
――ズドンッ。
真紅の
「……! 援軍だ……! 援軍が来てくれた! おぉぉい! ここだ! ここだぞぉぉぉ!!」
新人騎士が大きく手を振り、歓喜と興奮の声を上げた。
「よ、よかった……味方……助けてもらえる……!」
新米騎士の目に、生気が満ちた。若い騎士は背後を振り返り、骸骨兵の壁の向こう側で奮戦している新顔騎士に救援の訪れを
「もうちょっとの辛抱だ、助けがくるぞ! こんなところにお前だけ残っていい訳――」
――。
しかし、新米騎士が振り返った先から、新顔騎士の返事は聞こえなかった。その同期の騎士の姿は、どこにも見あたらない。ただそこに見えるのは、群がる骸骨兵の山の中から
「……え――」
ズドンッ、ズドンッ、ズドンッ。
騎馬に乗り猛烈な速度で救援に駆けつける
そして、真紅の装甲鎧を
早馬の騎手は盾を持たず、その背には
「――“雷刃:
双剣と、
右手に持った抜き身の剣に稲妻が
バチンと大気の
そして一瞬にして、骸骨兵の集団はただの骨の堆積物と化した。
「……」
興奮して息を荒らげている早馬をなだめながら、エレンローズが馬上から無言の視線を落とした。
「エ、エレンローズ教官……!」
新人騎士が、
「加勢いただき、ありがとうございます、助かりま――」
「
かつて王都で直接稽古をつけた若い騎士たちを見やるエレンローズの目は、寒気がするほど冷ややかだった。
「……ほ、本隊から、離れたところを、敵の伏兵に、きょ、挟撃され……」
エレンローズの変わり様に戸惑いを隠せない新人騎士が、言葉を詰まらせながら震える声で言った。
「……そう……」
エレンローズが、ぽつりと一言だけ返答したが、その声音には心ここにあらずといった無関心さが
「そんなことより……! 救護班を……救護班を……!」
新人騎士の背後から、悲痛な声が聞こえてくる。
沈黙した骸骨兵の山に半ば埋もれながら、新米騎士が物言わぬ新顔騎士の身体を抱き抱えていた。
「さっきからこいつ、ぐったりしたまま全然動かないんだ……きっと気を失って――」
エレンローズが、短く1度だけ首を振り、新米騎士の言葉を否定した。
「救護班なんて、呼ぶだけ無駄よ……もう、死んでるわ……」
丘陵地帯の
その集団は、最前列を真紅に
「すぐに、本隊がここまで来るわ……
「弱い人は、出てこないで……戦場では、邪魔なだけよ……」
早馬の横腹を蹴り、“右座の剣エレンローズ”が駆けていった。
……。
……。
……。
「……あああぁぁぁぁぁぁ……っ!!」
新米騎士は己の無力と戦場に立つことの意味の前に、ただ声を荒らげて叫ぶことしかできなかった。
***
――“明けの国”陣営、本陣。
「さて、この兵力差、そろそろ動きがあってもよいはずだが、各師団の現在の布陣状況はどうなっている?」
細身の参謀官が、情報官の背中に問うた。
「……第6師団、“墓所”東部より順調に前線を上げています。北東方面に展開中の第2、第3師団も追随、間もなく合流します。南東部、現在交戦中ですが戦況有利、突破目前です」
“神速の伝令者”による各師団からの定刻連絡をまとめた情報官が、明けの国優勢の報告を読み上げた。
「すばらしい。まさに教本事例の
地図上に並べた明けの国騎士団を模した白い駒を動かしながら、細身の参謀が感心した声で言った。
「ふん、正面切っての集団戦は、最終的には物量がものを言う。元よりあちらが圧倒的に不利な盤面であるからな。それにしても、歯応えがなさすぎである……これでは一方的な虐殺と変わらんよ」
口ひげを生やした参謀が、“渇きの教皇リンゲルト”の軍勢を模した黒い駒を指で
「絶好の好機じゃ、出し惜しみは無用……後方待機中の師団もすべて投入じゃ。一気に畳みかけよ」
3人目の初老の参謀が、“宵の国”陣営への決定打を打つべく、全軍前進の指示を出した。
情報官が、白紙の“神速の伝令者”に指令を書き込み、全師団へ瞬時に情報を伝達する。
“ネクロサスの墓所”中心部への包囲網は、確実に狭められつつあった。
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