17-21 : “第3概念”の使徒
「……死に損、なったか……
目が
「……。……駄目か。脚が折れてやがる……。野郎ども……かっこつかねぇが、魔女に一泡吹かせてやったぞ……」
踊り場の上に大の字で
コツッ、コツッ。
隻眼の騎士の耳に、何者かが
「大した
――コツッ……。
天窓から差し込む陽光が、丸く縁取られた明かりを落とし、その中心に、“三つ瞳の魔女ローマリア”の
隻眼の騎士に切り落とされた右腕から紫色の血を流し、左手と両足はバラバラの方向にだらりと伸び、首の骨が折れて不自然な方向を向いた顔の口元からは、破裂した内臓から上ってきた血が筋を引いている。
その冷たくなった身体の上には、シェルミアの魔導器“
先ほどと変わらないその光景を確かめて、ロランが再び、
――姉様……僕、姉様との約束、守ったよ。
コツッ、コツッ。
――四大主を……“三つ瞳の魔女”を、殺したよ、姉様……。
コツッ、コツッ。
――これで、シェルミアは解放されるよ、姉様……。
コツッ、コツッ。
――後は……王都に戻って、あいつを……アランゲイルを殺せば、全部終わるから……。
コツッ、コツッ。
――姉様を悲しませる
コツッ、コツッ。
――だから、姉様……またいつもみたいに、僕をからかってね? 僕の作った料理を、
コツッ、コツッ。
――ずっと一緒だよ、エレン……。
コツッ……。
……。
……。
……。
……むくり。
……。
……。
……。
背後に、階下に、間違えようのない、気配があった。
「……何で……?」
立ち止まったロランが、振り返りもせず、誰かを
「……何で……何で……お前はそうやって……!」
“怖い顔”をしたロランが、階下を振り返って、冷たい怒りに満ちた目で、“それ”を
「一体何度、僕らを馬鹿にしたら気が済むんだよ……魔女……!」
ロランが
***
明けの国、混成部隊、残存兵力……騎士40人、魔法使い12人。
わずかそれだけとなった人間たちの視線が向けられる中、“三つ瞳の魔女ローマリア”は、しかし嘲りに満ちた声ひとつ、
その首はわずかに
ロランが、隻眼の騎士が、人間たちがじっと見やる中、ローマリアの静かな頬に、涙がポロポロと流れていった。
「……腕……! いつの間に……?!」
切り落としたはずの魔女の右腕が元に戻っていることに、隻眼の騎士がはっと息を
そして――。
「――」
ローマリアの口元が、かすかに動いた。
「――α」
わずかに開かれた唇から、小さな声が聞こえる。
「――ρα」
澄み切った小さな声が、サラサラと
「――ρα、ρα、ρααα」
その連続する声は、やがて旋律を伴って――。
「――ρααα、ρα、ραα……ηυμ……」
それは、
……。
それは、もう戻らない過去を懐かしむ歌だった。
……。
それは、遠くへ行ってしまった大切な人を
……。
それは、自らの過ちを後悔する悲しい歌だった。
……。
それは、忘れられない親愛と、消えない恨みの歌だった。
……。
それは、世界の理から逸脱した存在の奏でる、歌だった。
……。
すなわちそれは、世界を侵す、歌である。
……。
……。
……。
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