16-5 : 生き残る条件
――同野営陣地。翌日。夜明け前。
夜間の間、“踏査部隊”の騎士たちは幾つかの
「……ニールヴェルト……」
「何ですかぁ、騎士団長様ぁ?」
ニールヴェルトは
「王都から出陣する前に、貴様は言ったな……『宵の国への進軍を考えるなら、南方の“
「あぁ、そぉんなことも、言ったかもしれませんねぇ……」
「適当なことを言うな……! これだけの危険と不確実さを
アランゲイルが、眠れぬ恐怖と激しい後悔で頭を抱えた。
「『こんなことなら、東か、西か、それとも北か、別の方面から進軍していた』とでも言いたいんですかねぇ? 騎士団長ぉ? 『南から進軍するとしても、こんなことなら絶対に“森”の中になんて入らなかった』とぉ?」
「そりゃあそうかもしれませんねぇ……でもねぇ、団長ぉ……殿下ぁ……あんたはきっとぉ、東から攻めようが、西から攻めようが、北から攻めようがぁ、今と全く同じことを言ってたでしょうねぇ。そしてあんたはぁ、その全ての『もしも』の選択の結末を見れたとしたらぁ、きっとこう言うはずですよぉ……『南方が1番マシだった。“森”の中に踏み込んだのが最善の選択だった』ってなぁ……」
そこまで言って、冷静だったニールヴェルトの顔つきが崩れ、狂騎士はくっくと含み笑いを始めた。
「くく……別に俺はぁ、東の“魔剣”と手合わせできれば討ち死にしても納得できるしぃ……西の“魔女”に挑めれば
まさに心情を言い当てられたアランゲイルは、ニールヴェルトの目を
「ははっ……良い目だなぁ、殿下ぁ……そんな
ニールヴェルトの言葉を聞きながら、アランゲイルは自分の顔に妙な
――ああ、私も、気づかぬ内に、この狂人の気に当てられていたのか……。
「……いいだろう」
口元を
「いいだろう、ニールヴェルト。せいぜい私を利用するがいい……。私が貴様を利用するのと同じようにな……」
その言葉を聞くニールヴェルトの口元と目は、三日月型に
「くくく……ひはは……あんた、ほぉんと、面白いなぁ……ひはは……」
……。
次の瞬間、突然、ニールヴェルトが座り込んだ姿勢のまま片足を蹴り出した。勢いよく突き出された脚は
「うぐっ?!」
後方に蹴り飛ばされたアランゲイルは、突然のことに目を見開いた。鎧越しにとはいえ、脱力していたところをいきなり蹴られたために肺から空気が抜け、呼吸ができない時間が数秒間続く。
「……かはっ……ニールヴェルト……何のつもりだ、貴様――」
「――黙ってなぁ、殿下ぁ」
真顔になったニールヴェルトが、「しぃ」と口元に指を当てて沈黙を要求する。
「死にたくなかったらぁ、死人みたいに口を閉じてろぉ……。“本命”様が、わざわざ向こうから会いに来てくれたぜぇ」
ついさっきまでアランゲイルが腰を下ろしていた場所には、先端にどろりとした粘液質の液体が塗られた矢が突き立っていた。
「……毒矢、だなぁ。ははっ、夜明けの素敵な目覚ましだぜぇ。なら、こっちもお返ししないと、なぁ!」
大弓を引いたニールヴェルトが、無数に延びる“支天の大樹”の枝の一角に向けて太矢を射放った。
樹上から息の漏れる音がわずかに聞こえ、太矢に首を貫かれた“道具を持った獣”が1体、野営陣地の
300人弱の銀の騎士たちが、ニールヴェルトの
緊張した面もちで、互いに背中を向かい合わせて全周を警戒する騎士たちの頭上、“支天の大樹”の枝の間から、ガサガサという複数の音が聞こえてくる。
「総隊長……」
隊長級の騎士が、ニールヴェルトに視線を向ける。
「まぁ落ち着けよぉ。普段の訓練とぉ、てめぇの“勘”に正直になれぇ。気合い入れろぉ……いよいよ待ちに待った“狩り”の時間の始まりだぁ……」
頭上では、依然としてガサガサという複数の音が聞こえていた。ニールヴェルトがゆっくりとした動作で大弓の2射目を構えるのに合わせて、弓を持った銀の騎士と
弓を持たない銀の騎士たちは盾と剣を構え、残る
……。
……。
……。
沈黙の中で、緊張が張りつめる。
ニールヴェルトが、騎士たちに向けてぽつりと
「……生き残るのは、“死にたくない”なんて泣き叫ぶ奴じゃねぇ……。生き残るのは、いつだって、“生き残ろう”とする奴だけだぁ……」
……。
……。
……。
“支天の大樹”の枝陰から、女の声が聞こえた。
「――我らが“
“カースと呼ばれた女”の声が、戦端を開く――。
「――肉の一片、骨の一
フィィィー。
“道具を持った獣”たち――“森の民”たちを統べる南の四大主“新たな
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