第一章
1
この世の中にアーチハンターと呼ばれる人たちがいることを、君は知っているだろうか。
ここでいうアーチとは、岩が削られてできた天然の橋のことで、一般的にはナチュラル・アーチとかナチュラル・ブリッジなどと呼ばれている。雨や風、あるいは川の流れが長年にわたって岩を削り、やがて穴が開いて橋のような形になるのだが、これらのナチュラル・アーチやナチュラル・ブリッジを訪ね歩く人々がアーチハンターというわけだ。
一般的に“アーチ”と“ブリッジ”とは使い分けられていて、雨や風による浸食で穴が開いたものを“アーチ”、川のように水の流れで削られてできたものを“ブリッジ”と呼ぶことが多い。もっとも、中にはその区分けどおりに呼ばれていないものもあるのだが、そもそもどうやって穴が開いたかなんて、誰にもわからないものだ。岩に穴が開くところを見た人など、いないのだから。
それで、ここでは両方をまとめて“アーチ”と呼ぶことにする。
世界中、ありとあらゆるところにこの類のアーチは存在するが、その中でも特に、アメリカ南西部にあるものが魅力的だと僕は思う。そこでは、荒涼として赤茶けた大地に、風雨に耐えながら泰然として立つ様々な形をしたアーチを見ることができる。
これらの中には、一帯が国立公園や州立公園として整備され、車で簡単に回ることができるものもあるのだが、それよりも自分の足で何㎞も歩いてやっと辿り着けるようなアーチの方が僕は好きだ。途中の景色を堪能することができるし、訪ねるのに苦労した分、アーチを見た時の感動も大きいと思うから。
僕とスチュはアーチハンターで、二人ともオハイオ州に住んでいる。
あまり知られていないことだが、オハイオ州にもたくさんのアーチがある。ただ、残念ながら、どれもあまり大きくはない。一番大きいのはロックブリッジと呼ばれるもので、長さが30m以上あり、岩でできた橋の上を歩くこともできる。ここは地元では結構有名な場所で、観光客も多い。僕とスチュもここで出会った。お互い同じ趣味をもっていることがわかり、二人してアーチハントに出かけるようになったというわけだ。
「ティム、今度“聖地”に行ってみないか?」
ある日、スチュが僕に声を掛けた。
言い忘れたが、僕の名前はティモシー。みんなは僕のことをティムと呼んでいる。ちなみにスチュはスチュワートの略だ。
「“聖地”って?」
「ユタだよ。オハイオでは見られない、すごいアーチを見に行こうよ」
“ユタ”と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろう? モルモン教の白亜の教会か、それとも巨大な塩湖“グレート・ソルトレーク“だろうか。それらをイメージする人も多いだろうが、僕たちの場合はちょっと違う。ティムは以前、ユタ州の国立公園巡りをしたことがあって、いくつもの大きなナチュラル・アーチを見たことがあるそうだ。僕たちアーチハンターにとってユタと言えば、何よりもまず”ナチュラル・アーチの宝庫“なのだ。僕もそれを知っていたので、迷うことなく彼の話に飛びついた。
「いいね、賛成だ。でもどうやって行くんだい?」
「もちろん車さ。トレイルヘッドまで車で行き、そこから歩くんだ。車が通れないような狭い道があるかもしれないから、自転車も積んだ方がいいな。あと、水は大量にもっていかないとね」
ちなみにトレイルヘッドとは、アーチに向かうハイキングルートの出発点となる場所のことだ。
「でも、車で行くにしても、相当時間がかかるんじゃない?」
「そうだな、ここからだとユタまで2日はかかるだろうな」
実際には3日かかった。
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