青い勇躍

幕開け

 翌週、上総、陽、美月の三人は久瀬将官に会議室へと呼ばれた。

 扉を開けると、そこには久瀬将官、徳井本部長、そして恩田最高司令官の姿があった。将官は、この間の休憩室でのことはなにもなかったかのような普段と変わらない様子だった。


 恩田はISAでのトップの他に、製薬会社会長の座に就いている。つまり、ここザ・シーフロントオフィスビル全館の最高責任者である。

 恩田たちと向かい合うようにして机と椅子が並べられており、前の席に六名、後ろの席に十二名の男女がすでに着席していた。彼らはこちらに気付くと、一斉に立ち上がり敬礼を掲げた。

 前の席に藤堂と結城の姿がある。ということは、前列は小隊長、後列は分隊長なのだろう。


 特務室の編成は、一部隊二十三名。その内訳は、一部隊に二小隊四分隊、一分隊は各五名。その他にも戦術部や技術部が存在しており、その下には予備軍がある。

 あまり存在を公にしない特務室は、これまでずっと二部隊でやって来たが、恩田最高司令官はもうひと部隊の追加を決定した。

 かくして本日、久瀬将官の下に第三部隊が発足する。


 第一部隊の小隊長分隊長は見事に全員が男性。雰囲気もどことなく上総と似ているうえ、まるで微動だにしない。久瀬が全体を見渡し姿勢を整えた。


「おはようございます。では、皆さん揃いましたね。本日は新しく第三部隊を発足するにあたり、部隊長小隊長の紹介をします。まずは、第三部隊隊長に就任された桐谷美月三佐、そして第一小隊長の佐伯さえき二尉、第二小隊長の大郷おおさと二尉。また、割愛しますが分隊長四名、以上七名を本日付けで任命いたしました。尚、先日の准尉内部試験及び昇格試験より選出しました」


 七人は前へ出て、恩田最高司令官の方へと歩を進めた。恩田が立ち上がるのに合わせて敬礼を掲げる。美月には、三佐を示す階級章が与えられた。あとの六名にも小隊長分隊長を示す紋章が与えられた。


「本日より、ここ特務室に新たに第三部隊が加わりました」


 略式だが、新しい部隊が発足される際の儀式は無事終了した。


「桐谷三佐」


 第一小隊長の佐伯が声を掛けてきた。


「初めまして。この度桐谷三佐の下、第一小隊隊長に任命されました佐伯と申します。まずは、部隊長就任おめでとうございます。私たち六名は、小隊長分隊長に任命されたとはいえまだまだ未熟者です。第一第二部隊の皆には遠く及びませんが、精一杯精進します。よろしくお願いいたします」


 佐伯は美月と背格好があまり変わらない。見た目は陽のような明るい雰囲気だが、そのまっすぐな瞳はなんだか上総を思わせる。


「こちらこそ、これからよろしく。こんな私が部隊長だなんて不安でしょうけど、皆がついて来てくれるよう私も精進します」


 美月は人が変わったかのようだった。それを見て陽は驚いていたが、上総は微笑んでいた。


「じゃあ、ちょっと会議室へ。皆にも伝えておいて」


「承知しました」


「じゃあ」


 上総と陽に軽く手を振り、美月は部屋から出て行った。


「美月、なんか急に変わったな。頼もしいリーダーだけど、少し寂しいかも」


「でも、もうあの頃の美月じゃない。それだけで本当によかった」


 美月の成長に微笑んでいた上総だが、ふと表情が一変した。その変化に、陽の心臓の鼓動が僅かに調子を狂わせる。


「あの頃……」


「まあ、そもそもあんなことが起こらなければよかった話なんだけどね」


 鼓動はさらに調子を崩す。だめだ。ここでしくじるわけにはいかない。


「……お前、さっきからなんの話をしてんだ」


「惚けるの?俺が知らないとでも。俺も本当に大変だったんだけどね」


「上総、お前は本当にいい性格してるよ」

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