魔法少女と悪魔憑き

 「私、お姉さんのそばにいたい。学校でも、魔法使いとしても」

モモは心の中で呟やき、本を開いた。

本の文章には、モモが今まで見た事がない活字が並んでいた。

しかし、不思議な事にスラスラと読める。

 (あなたは何故、この本を選びましたか)

 (あなたは何故、この本を手に取りましたか)

 (あなたは何故、この本を読みたいのですか)

 (あなたは何故、この本を読もうとするのですか)

 (あなたは何故、この本を開きましたか)

 (あなたは何故、この本を読んでいるのですか)

 「・・・  強くなりたいから」

 (強くなりたのですか)

 「そう、  強くなりたい」

 (何故、強くなりたいのですか)

 「おねえさんと一緒にいたいから」

文字を読んで行くうちに、頭に文章が響いてくる。読んでいるのか、聞こえてくるのか分らない状態になってきた。

それでも、読み続ける。いや、読まずにはいられない。

 (何故、一緒にいたいのですか)

 「好きだから」

 (何故、好きと言えるのですか)

 「いつも、一緒にいたいという気持ち。だから好きと言える」

 (一緒にいたいから好きだと)

 「そう、好きだから、一緒にいたい」

 (では、お姉さんもあなたが好きですか)

 「多分、好きと思う」

 (何故、そう言えるのですか)

 「いつも、助けてくれるから」

 (それで好きと言えるのですか)

 「そ、それは」

 (それで好きと言えるのですか)

 「・・・・・・」

返答ができないモモ。本を閉じてしまいたいが、閉じれない。

返答をしないまま、次の文へと移らされる。

 (母親もあなたが好きですか)

 「好きと思う」

 (いつもいない母親でも)

モモの境遇を知っているかのような質問がきたが、彼女が疑問に思う余裕はない。

 「ママは会社を立ち上げたばかりだから・・・」

 (父親はあなたの事が好きですか)

 「パパは・・・・・・」

 (別れた後、一度も会おうとしない父親は、あなたの事が嫌いです)

 「ちが・・う」

 (仕事で帰らない母親もあなたの事が嫌いです)

 「やめて」

 (みんな、あなたの事が嫌いいです)

 「ち が  う」「や  めて」

 (そしてお姉さんも

 「  やめてーー!!!!!!!!!!」

モモは絶叫した。いや、声に出したのか、心で叫んだのか分らない。

今の自分の状況が分らないのだ。本を読んでいるのか、夢を見ているのか。

起きているのか、眠っているのか。

今、自分が何処にいるのか。

そして、生きているのか、死んでいるのか。

 (オレを召喚しろ)

再び、頭に響く。聞こえているのか、読んでいるのか、もう分らない。

 (オレを受け入れれば、強くしてやる)

 「強く」

 (そう。強く)

 「強く・・・・・」

魔法少女は意識の最下層へと、落ちていった。




   

翌朝、智夏が登校すると、いつも正門前で見かける、ツインテール少女の姿が見えなかった。

予鈴まで待ってみたが、ツインテールの少女と会える事はなかった。

教室の前で勇者が待っていると思ったが、勇者は自席で、大人しく座っているのが見えた。

 「ミリカ、おはよー」

ミリカは一瞬ビクリとしたが、作った笑顔で「おはよーございまっーす」と返してきた。明らかに怪しい仕草に、確認しようとしたが、探偵娘が帰ってきたのでやめた。

 「おはよー智夏、ミリカ」

空気が読めない友理奈は、その場の空気を変える力がある。

ミリカの様子など気にせずに、自分の得た情報を話そうとした。

 「昨日の転校生の話なんだけど」 

 「あっ、友理奈。その話なら、昼休みにでも」

転校生(セイラ)の事を知っている智夏は、授業が始まるので、友理奈の話を止めた。食事の時に、セイラの事を話そうと思ったからだ。

一限目の授業を終えた時、友理奈がトイレで席を外したので、ミリカに近づいた。

 「ミリカ、どうかしたの?」

 「・・・  智夏、・・・  ごめんなさいでーす」

行き成り謝られて、困惑する智夏。ミリカの顔を覗きこんだ。

ミリカは、目を背けながら口を開いた。

 「私、ケッカイ・・・・切りました」

 「どこの?」

驚かずに返す智夏に、ミリカが逆に困惑する。

 「怒らなっいのでっすかー」

 「勇者としての衝動だから、予想はしてたわ」

 「オー・・   ソーリー」

うなだれるミリカの肩に手をを置き、慰める。

 「で、何処の結界?」

 「図書室でぇーす」

智夏は図書室の棚の一部に、怪しい本をまとめて、結界を張った事を思い出した。

しかし本の内容までは覚えていない。

 「放課後に調べにいくわ」

 「私もいきまーす」

 「オッケー  今度は切られない強い結界を張るわ」

智夏はミリカの肩を笑顔で叩いた。ミリカも安堵からか、自然な笑顔で智夏に微笑んだ。

   



 「えーー!!!    智夏の親戚!!!!!   ??????」

昼休み、食堂で友理奈が悲鳴に近い声をあげた。

智夏達が座る食堂のテーブルが、皆からの視線を集めた。

 「もうー  友理奈。声が大きいい」

 「だってー」

友理奈は、今まで自分が調べてきた事が、全て無駄だったと唇を尖らせた。

 「ごめんごめん  私も昨日知ったのよ」

 「昨日?」

 「そう。遠い親戚だから、連絡が遅れたみたい」

 「ふーん」

探偵娘は納得のいかない表情を浮かべた。

 「まあいいわ。また本人に聞くわ」

友理奈は、セイラへの接触宣言を出した。智夏は、セイラと口裏を合わせる項目を頭に浮かべた。 




 放課後、智夏達三人は図書室へと向かった。

ミリカが結界を切ったせいか、いつもとは違う雰囲気を感じる人がいるかもしれない。それ位、図書室内は明度が落ちていた。

 「ミリカ、何の本を借りるの?」

 「オー  ミステリー小説がいいですね」

 「じゃあ  こっちね」

ミリカと友理奈が、結界を切られた棚から遠のいた。

智夏は急ぎ、棚の中を調べるが、本の冊数が足りない気がする。

具体的に、どんな本で、何冊足りないかは分からない。

仕方がないので、今ある本をまとめて、結界を張った。

心持ち、明度が上がった気がする。

 「あれ、何か明るくなった気がしない」

グループで勉強をしている中学生から、声が聞こえた。

 「気のせいじゃないの」

 「そーかな」

 「モモがいたら何か感じたかもね」

中学生のグループから、智夏の可愛い妹(?)の名前がでた。

 「そーね。あの子霊感強いもんね」

 「でも今日、無断欠席でしょ」

 「んー  携帯も出ないしね」

 「心配だけど、勉強もあるしね」

モモに対しての不安な噂だ。智夏は特に無断欠席というのが気になった。

胸騒ぎがする。

智夏は友理奈達に、急用が出来たと言葉を残し、図書室を後にした。

モモの家に向かう途中で、携帯へかけるが繋がらない。

九に運んでもらいたいが、人目が多すぎる。

 「昨日、式を飛ばしていたら・・」

後悔を口にするが、後悔にしかならない。

息を切らしながら、やっとモモの家に着いた。

モモの家を見上げる智夏。一目で異常さに気付かされた。

モモの家から、火事の煙のように瘴気が立ち登っている。

智夏は玄関のドアノブを掴んだ。

鍵は掛かっていない。ゆっくりとドアを開けた。

家の中を慎重に覗き込むと、異様な空気が外に流れ出た。

 「やっと来てくれたね」

小動物が玄関で出迎えてくれた。

 「コリコ、どうなってるの?   モモちゃんは?」

コリコは踵を返し、「ついて来い」と言わんばかりに二階への階段を上っていった。智夏もその後に続く。

階段を登った直ぐの部屋に「モモの部屋」とドアに表札が吊るされている。

ドアの前でコリコが、首を傾げて鎮座した。

陰陽少女はドアの前で躊躇した。いや、怯んだのかもしれない。

いままで挑んだ、鬼や物の怪とはまるで違う、異質の妖気が彼女を飲み込みこんだ。

 「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、在、前」

精神統一の意味で早九字を唱え、ドアを開けた。

部屋の中は暗く、寒かった。

吐く息が白くなる。

智夏は暗がりの中で人影を見つけた。

人影はベッドに座り、背中を向けていた。

 「モモちゃん?」

智夏は白い息を吐きながら、問いかけた。

人影が、背中を向けたまま、首だけが真後ろを向いた。

智夏に向けられた頭部は、ツインテールを結んではいたが、頬は荒れ、唇は裂け、白目を剥いているかのように黒目がなかった。

ツインテールを結んだ人影が笑った。

笑声を聞いた瞬間、智夏はドアと共にはじかれ、階下へと飛ばされた。

 「智夏!  今は引け!」

九が叫んだ。今までになかった事だ。

陰陽少女は姿なき声に従って、家の外に出た。

二階の窓にツインテールの人影が写る。

智夏は唇をかみしめた。

魔法少女の家からは、瘴気が勢いを増し、夜空へと昇っていった。
















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