放課後、屋上で
陽は傾き、空は赤くなっていた
十人十色の春を孕んだ一つの施設、高等学校
ここはその屋上である
部活動やおしゃべりをする幾人もの生徒達を、見下ろすことができる場所だ
そして本来ここは、少なくともこの学校では、全国で度重なる自殺事件に恐れをなした教育委員会によって入れないはずだった
そのルールを無視した人影が一つ
青い人影だった
異形の、人間とは似ても似つかぬ人影であった
その丸い複眼の先には、同じような人影がある
夕陽に紛れて見えにくい、鈍い橙色の異形だ
《学生か》
清仁の耳に声が響いた
機械で加工されたような、とても低い音声であるため、性別は聞き取れない
そして、少し驚いた
まさか自分達異形が、喋れるとは、全く考えなかった
《何か文句でもあるのか》
出てきた声は、まるで加工したかのように不自然に低くなっていた
不快になった
こんなところまで変わらなくてもいいのに
《その落ち着きよう、戦ったことがあるのか》
相手が問い掛けてきた
図星である
《お前もやりあうつもりか》
《それ以外の何がある?》
その答えに、清仁は溜め息をついた
《あんな思いをするのはもう御免だ》
そしてそう呟いた
その台詞に、オレンジの異形が大きく反応する
《何?ふ、フハハハアハハハハハ》
そいつは突然馬鹿笑いを始めた
何が可笑しいのだろう
突然の奇行に、後ずさる
《ククク・・・それはありえない》
《何故だ》
《そういうふうにできているんだ、俺達は》
質問をした清仁だったが、意味がわからなかった
そういうふうにできているとは、どういうふうにできているんだろう
コイツは一体、何を言っているんだ
《その落ち着いた様子じゃ、もうやり合ったことがあるんだろ?》
《・・・それがどうした》
徐々に鋭くなる青の異形の視線を受け流しながら、橙色の人影は問いを投げ掛ける
何かを伝えるかのように
《満足感を感じなかったか》
その問いは、清仁の胸を貫いた
《何!?》
《例えば、敵を倒した直後、濃い充足感や強い達成感を感じたはずだ》
《貴様・・・!》
そう、あの赤と白のツートンの異形と殺し合いをしたとき、そして撃破したとき、『満たされた』ような感覚があった
人間を殺したという忌避感や罪悪感、この姿に対する嫌悪感も、それらの前には些末なものと感じる
何もかもが図星だった
この橙色の怪人は、一体何を、どれくらい知っているのだろうか
《安心した、お前も俺と同じだ》
目に見えて動揺する清仁の姿に、向こうは満足したようだ
肩を震わせて笑っている
《俺達だけじゃない、皆そうさ》
《どういう意味だ!?》
《『俺らと似たような奴等』とやり合う前に、今と同じような問答をするんだが、聞いた奴皆否定しなかったぜ》
つまり
闘争本能が著しく増大するのか
《これは食欲やら性欲やらと同じさ・・・戦っても戦ってもまた戦いたくなる、気が付いたら自分と『同じ』連中を探すために徘徊する・・・殺すためにな》
橙色の異形は青い異形の方を向いた
これが生身なら、彼は恐らくとても笑んでいる
からかうのが楽しいとでも言うように
《怪人と殺し合いをするために・・・徘徊する・・・》
心当たりは、あった
もう否定はできない
もう違うとも言えない
なんということだろうか
自分は、自分含めた異形共は皆、
互いを殺すために存在している
《お前を殺れば、俺はこの欲求不満から逃げれる》
オレンジの異形が、拳を構えた
ボクサーの構えが様になっていた
《つまりこう言うことだ、俺達は逃げられない・・・殺し合いを続けなければいけない》
その拳には、トゲが無数に付いていた
そんなもので殴られれば、一体耐えられるものだろうか
《そうか・・・そうか・・・》
清仁は深呼吸をした
大きく息を吸い、酸素を取り込む
長めに息を吐き、二酸化炭素を追い出す
《こういうことか》
拳を強く握り、相手に向ける
互いに一歩を踏み出し、全力で相手に走り寄った
その息の根を、止めるために
己が欲望のために
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