こんな夢を見た。
銀河ひろ
第1話 バス旅行で時代劇のテーマパークへ行った
わたしは男。いや、女?
女なのに男の役を演じているのかもしれない。
バス旅行で時代劇をテーマにした某テーマパークに来ている。
でもそこは夢々しい世界ではなく、性と血と死に彩られた淫靡な世界。
わたしはそこで一瞬目が合った美貌の女に心惹かれる。
女はおそらくカラダを売っている女で、そこの一番の売れっ子のようだった。
わたしはその女がほしいと女郎屋の主人に申し出る。
そこの主人は、わたしがこのテーマパークの観客に向けてある芝居を演じて成功すればその女を連れて帰れる、失敗すれば女を置いてすぐに自分の世界に帰らなくてはいけないと言うのだった。
芝居は女が鬼にさらわれて、わたしが救い出すというもので、テーマパーク内の地図をもらって、彼女が監禁されている場所を探さなくてはならない。
わたしは寺でその地図をもらった。時代劇のコスプレをしたスタッフがわたしの挑戦を大声で宣伝しており、大勢がわたしに視線を浴びせている。
わたしはトイレに行きたかったのだがトイレは行列で、その列に並ぶひとたちが「どんなお芝居なんだろうね」「面白そう」などと楽し気に話しているのを見て、トイレに入るのをあきらめて女を探し始めた。
わたしは方々を真剣に探しているのだがぞろぞろと観客がついてきて、やれ「そこは違う」だの「あっちじゃないか」だの好き勝手なことを言っている。
わたしはバスの出発時間までに女を探せるか不安で焦っているのでとてもイライラした。
女はどうやらテーマパークの中央の
わたしは入り口にいる見張りの小鬼の目を盗んでやっとその中に入った。
美しい黒髪の女がギロチン台のようなものに縛り付けられていた。
仰向けで首の所に刃物をあてがわれ、胸もあらわに赤い肌襦袢がはだけている。
女はか細い声でわたしが助けに来たことに感謝の言葉を述べた。
というのもこの世界は残酷で恐ろしく、子鬼たちがみなわたしはこない、わたしは逃げたと口々に言っていたという。
頬に伝う涙が愛しく、わたしは彼女の頭をぎゅっと抱き、必ず救い出してやると誓う。
女は小屋の裏に2つのレバーがあると教えてくれる。
ひとつはギロチンの刃物が上にあがり、彼女を解放できるものだが、もう一つはギロチンの刃物を下に落とし、首を切り落とすという。
レバーの前に立つと小鬼が笑いながら近づいてきた。
人をあざけるような嫌な笑いだ。
わたしは芝居だと高をくくっていたが、小鬼たちが変装した子供や小人ではなく、本当につのが生えていると気づき、動揺した。
しかし、観客たちはそれを知らない。
「早くしろ」だの「右だ」「左だ」と無責任に囃子立てる。
小鬼は言う。
「おいらがおしえてあげるよ」
「信用するものか」
「おいらはウソをつかないよ」
「黙っていろ」
観客は小鬼に聞いてみろと促す。
しかたなく、わたしは小鬼に言う。
「言ってみろ、だが信用するとは限らない」
「こっちが首を落とすレバーだ。そしてこっちが刃物の上がるレバーだ」
わたしは刃物があがると言われたレバーに手をかける。
逡巡していると小鬼が観客には聞こえぬ声で囁いた。
「こっちを動かせば彼女は解放されるが観客はブーイングだ。あっちを動かせば彼女の首は落ちるが観客は大喜び」
「彼女の首が落ちたら意味がない」
「だが客が怒れば彼女はお前のものにならない」
「どちらも彼女はわたしのものにならないということか」
「だが彼女の首を落としたくはないだろう? だからこっちのレバーを降ろせ」
小鬼は邪悪な笑顔を見せた。
わたしは思う、この小鬼がわたしの味方をして何になると言うのだ。
わたしは迷った挙句、もう一度彼女の元へ戻った。
「小鬼は信用できるか」
「結果がどうであれ、わたくしはあなたのものです。さぁ、お早く。もう大鬼が戻ってきます」
大きな足音が近づいてくる。
わたしは裏へまわって小鬼が示したレバーをつかんだ。
ギーギー。動かすとレバーは不快な音を立てた。
キャァァ!!
観客の悲鳴が聞こえる。
わたしは走って小屋の中に戻ると彼女の首はころんと地面に転がっていた。
わたしはその場にあった太刀を取り、小鬼の首を落とした。
キャァァ!!
再び観客たちの悲鳴があがる。
あたりは血の海だったがクスクス笑う低い声が聞こえて、わたしはその小鬼の首を見た。
「ひどいなぁ。僕は決められた台詞を言っただけなのに」
「首を落としたのにまだ生きている」
「我々鬼の眷属は首を落とされたって生きているさ。また手足が生えるのに何年もかかるけどね。ほら、見ろ」
言われて女を振り返ると女は首だけでさめざめと泣いていた。
「このような姿ではお前さまの元へはいけない。きっとお前さまはわたしを捨てる」
わたしは女に近づき、女の頭を抱く。
「こんなあさましい姿、見ないでおくれ」
女の髪が乱れ、頭部に生えたちいちゃな角が二つ見える。
わたしは彼女の頭を抱え、走り出す。
もう、バスがでてしまう。
わたしの世界へ戻るバスが。
「お捨ておきください」
「捨てて行くものか。お前をわたしの元へ必ず連れていく」
「うれしや……うれしや……」
女の首は落ちたが観客は熱狂したのでわたしの芝居は成功だったのだろう。
わたしは彼女の首を自分の家に持ち帰った。
彼女の身体、手足が生えそろうまで、実に20余年の歳月が必要だった。
ともに暮らすうち、わたしもうつつの世界に住まう鬼の眷属だと知り、その生涯を終えるのに200年以上の時を要したが生涯をこの女とともに過ごした。
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