【SS】娘はドラゴンに生け贄として差し出されたようです。
ゆきの
〈Level01:ここから始まる生け贄デイズ〉
EXP01
娘「あの……わたし、生け贄です……」
ドラゴン「今年もかよ」
娘「えっ」
ドラゴン「俺はここで静かに過ごしていたいだけなのに、あの町の奴らは勝手に恐れやがって、毎年毎年生け贄を寄越しやがる」
娘「じゃあ今までの生け贄さんは……」
ドラゴン「最初の頃は追い返してたんだが、町の奴らは追い返しても追い返しても逃げてきたと決めつけてこっちに何度も連れてくる始末だ。きりがないので最近は隣町に連れていってやってる」
娘「えっ」
ドラゴン「強制はしないがな。どうする?町に戻ってありのまま伝えてみるか?それとも、隣町に逃げてくか?」
娘「えっ、えー……」
◆
娘「ドラゴン……さん?はいつからそこにいるんですか?」
ドラゴン「あー、もう百年近くになるか」
娘「なんでそんな洞窟に?」
ドラゴン「涼しいだろ?」
娘「え、えー」
ドラゴン「雨をしのげるというのも素晴らしい点だ」
娘「ドラゴンって雨とか暑さとか気にするんだ……」
ドラゴン「ドラゴンだって生きてるんだぞ」
ドラゴン「まぁ、そういうわけでな。俺はあんまりここから動きたくない」
娘「流石百年以上の引きこもりですね」
ドラゴン「どうしてもと言うなら飛んで連れてってもいい。だが、背中に乗せて飛んでやると大体の人間は怖がってずっとしがみついてばかりでな。それはそれで辛いだろう」
娘「まぁ……わからないでもないかも……」
ドラゴン「だから、隣町へはそいつに誘導してもらえ」
子ドラゴン「キュー」
娘「えっ子供いたんですか」
ドラゴン「いや、数ヶ月前にどっかから迷い混んできたやつだ」
娘「めちゃくちゃ面倒見いいですね」
ドラゴン「そいつは飛べないから、一緒に歩いていってもらうことになるが……」
娘「隣町くらいなら自分で歩いていけるので大丈夫です」
ドラゴン「おう、そうか。じゃあ行けばいい」
娘「……私、ここに住んでもいいですか?」
ドラゴン「えっ」
娘「なんかそこに小屋あるし」
ドラゴン「あぁ、あれは人間が俺に見張りをつけようとしていた頃の名残だが……もう数十年前に建てられたものだぞ?」
娘「"雨がしのげるのは素晴らしい"でしょ?」
ドラゴン「……変わり者だな」
娘「お互い様では?」
…………
ギィッ……
ケホッケホッ……
バタンッ
トタトタ
娘「中見てきたけど、なんかすごいですね」
ドラゴン「ひどい建て物だろう?」
娘「確かにすごくほこりっぽいけど、薪は森から取れるかもだし、ないなら町に買いに行けばいいし……水は井戸が確かこっちの森の中にあったでしょ?……それに……」
ドラゴン「……」
娘「……最高です!」
ドラゴン「すごく生き生きしてるな」
娘「夢だったんです!ひとり暮らし!」
ドラゴン「それは……よかったな……」
娘「とりあえず目先のことは掃除ですね……掃除用具は流石に買いに行かなくっちゃ。ちょっと遠いけど隣町の方に行くほうがいいのかな?」
ドラゴン「……ふむ。それなら、これは俺からの引っ越し祝いだ」
キャラキャラシャラララララ……
キュー……キュー……
ガチャンガチャン……
シュルルルル……
娘「なにこれ……家がひとりでに綺麗になってく……魔法みたい!」
ドラゴン「魔法みたいじゃなくて魔法なんだよ」
娘「えっ……魔法が使えるの?」
ドラゴン「火を吹くのも魔法のひとつだぞ」ゴワーッ
娘「わ!すごい!絵本で見たことある!……薪いらないね!」
ドラゴン「発想が実用的すぎる」
◆
娘「食料はどうしましょう」
ドラゴン「ここに住もうという人間の前例がないからな、俺にはわからん」
娘「ここに住んでたっていう見張り役の人はどうしてたんですか?」
ドラゴン「町から食料を持ってきてたんじゃないか?」
娘「ドラゴンさんは何を食べてるんです?」
ドラゴン「別に食事は毎日摂らなくても生きていけるんだが……たまに気が向くと運動不足の解消がてら川まで魚を取りに行ってるな」
娘「すごく人間っぽいですね」
ドラゴン「最近は子ドラゴンがたまに魚を持ってきてくれたりするぞ」
子ドラ「キュー」パタパタ
娘「うーん、じゃあ魚を採ったりしてみようかなぁ」
ドラゴン「まぁ、困ったときは町に行けばいいんだ。そう悩むことでもないさ」
娘「……そうですね!よろしくお願いします!」
ドラゴン「あぁ、よろしく」
子ドラゴン「キュー」
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