合わせ鏡の悪魔
arm1475
第1話 はじまり
「ねぇ、お姉ちゃん、早く入ろうよぉ!」
「ちょっと、ちょっと、サリィ、そんなに慌てなくっても大丈夫よ」
その日、リンダ・マクスウエルは、十四歳の誕生日を迎えた妹サリィと共に、米・ロードアイランド州プロウィデンスに新しく出来たテーマパーク『鏡の迷宮〈ラビリンス・オブ・ミラー〉』に遊びに来ていた。
「だって、あたし、この迷宮のタイムアタックに挑戦するんだから。四十五分以内なら、来週のマスターズ・チャレンジの挑戦権が貰えるんだからね。さぁさぁ、とっととクリアしようよ!」
リンダの手を引っ張ってはしゃぐサリィが首に掛けている、小さな鏡を中央にはめ込んだエメラルド製のペンダントが、迷宮の入り口にある鏡の壁に映えた照明の光を受けて煌き、苦笑いするリンダを一瞬眩ませた。
それは五年前、リンダが十四歳の時に交通事故で死んだ母の形見であった。
母亡き後、リンダは多忙な弁護士の父に代わって幼い妹の母親代わりとして尽くし、サリィもそれに素直に応えてくれた。そしてサリィが、リンダが母と死別した年齢になった今朝、リンダは母の形見をサリィに託した。
サリィはそれを手にした時、僅かに記憶する母の面影を思い出し、赤毛の三つ編みを冠するそばかす顔をくしゃくしゃにした。
そして今、この姉妹は、サリィの誕生日に父からプレゼントされた入場券で、この鏡の迷宮を訪れたのである。
今日は二人にとって忘れられない最高に良い日になるな、とリンダも表に出さずに心踊らせていた。
迷宮の奥に大分進んだ頃、二人は通路の分岐路に立ち止まった。サリィの陽気なペースは、いつの間にかリンダにも移っており、左右の道を何度も見回してどちらへ進むべきか、本気で考え込んだ。
傍らでは、サリィはどちらへ進むべきか迷っているリンダの物真似をしておどけてみせた。
リンダはそんな妹に失笑しつつ、次に進むべき道を確かめようと右側の通路を見渡した。
突然、何かが光った。サリィの居る筈の、自分の背後で。
リンダは驚いて振り返った。
そこには妹の姿は無く、只、静寂なる鏡の虚空が漂っているのみであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます