第2話 全裸な私がヒロインなラノベ世界!?
突然な展開に頭がついていけない。
サンタクロース?
私をヒロインにする?
意味が分からない。
でも、差し当たってまず問いたださなきゃいけないことは……。
「なんで私、すっぽんぽんなんだーっ!?」
コレだ。間違いなくコレだ。ツッコミ所は色々あるけれど、まずは私が引ん剥かれた原因を知りたい。
「うむ。単なる読者サービスである」
「ふざけんなっ!」
なんだよ、読者サービスって!?
しかし、男はしごく真面目な顔で、もっと意味不明なことを言い始めた。
「ふざけてなどおらぬ。よいか、読者とは神なのだ。その神に見捨てられては、世界は存在できぬ」
「はぁ? あんた、一体何を言って」
「これまで神の支持を得られず、一体どれだけの世界が消滅したことか。しかし、喜べ、娘よ。この世界は余が守る!」
「いや、だから」
「その為にも昨今の神々に覚えもめでたい手法をまずは取ってみた」
「人の話を」
「その名も『冒頭でヒロインが脱ぐメソッド』だ」
「聞け……って、なん……だと……!?」
「ふふふ。多くの世界では主人公が偶然ヒロインの着替えシーンに立ち会ってしまうのだが、余はテンプレこそ守れどマンネリは好かぬ。故にテンプレを進化させ、余がこちらの世界に具現化する際、その代償としてお前の服を生贄にするという画期的なシステムをぶほっ!」
偉そうにのたまう男のどてっぱらに、体当たりをかましてやった。
こいつの言うことはどうにもよく分からない。
読者が神? 神の支持を得られずに世界が消滅?
なんのこっちゃ。
でもひとつだけ分かったことがある。
私が今全裸になっているのは、全てこの男が仕組んだってことだ!
許せない。
乙女の秘密を覗いた代償、きっちりと払ってもらおうじゃないか。
男が肩膝つけて苦しんでいるのをチャンスとばかりに、私は再度タックルを仕掛けて床に押し倒すと馬乗りになった。
安心してください、穿いてないけどちゃんと大切なところは両手で隠していますよ?
「くっ。いきなり何をするのだ、お前は?」
「それはこっちのセリフだーっ。私をヒロインにするとか、読者サービスとかわけわかんないこと言って、本音は単に乙女の裸を見たいだけでしょーがっ!」
「うむ。
「他人のせいにするなーっ! あんたが見たいんでしょうが!?」
「余が?」
私に馬乗りにされながら、男がぽかんとした表情で見上げてくる。
なんだ、その「考えてもいなかった」みたいな顔は?
これはこれでムカつく……って
「なっ!?」
突然あろうことか、男は両手で私のおしりをぐっと鷲掴みしてきた!
ぎゃー、こいつ、開き直って、さらなるエロース行為に及ぶつもりか!?
堕ちない! 堕ちないぞ! 私を快楽の虜にしようったってそうはいくかっ!
「いや、まぁ、たしかにお前はなかなか男が好む体つきをしておる。胸は大きく形も良いし、やや無駄な肉がついているものの腰周りも悪くない。尻のこの弾力、揉み具合もかなりの心地よさだ」
もみもみ。
「ななっ!?」
「顔つきは童顔で、おせじにも完璧に整っているとは言いがたいが、宇宙に瞬く星々のように輝きを放つ瞳、新雪のような穢れなき唇に加え、喜怒哀楽が分かりやすく万人に好まれる愛嬌のある作りだ。まさに内角高めぎりぎり、ちょっとでもバランスを崩せばデッドボールというデンジャーゾーンへ絶妙にコントロールされた、まさに神の悪戯が生み出し美少女と言えよう」
もみもみもみ。
「なななっ!?」
「しかしだな、本音のところを言うと、余は幼女の方が」
「お前もロリコンかーっ!!!!」
咆えた。
快楽責めかと思いきや、まさかの失礼極まりない品評会。
しかもまたしても幼女に完敗したし!
これが咆えずにいられるかってんだ。
ただ、殴りつけるのはぐっと我慢した。
さっきの悲劇を繰り返してはいけない。人は過去の過ちから学ぶ生き物なのだ。
でも、殴りたい。殴り殺してやりたい。
何が腰に贅肉が付いてるだ、何が内角高めぎりぎりデッドボール寸前の、神の悪戯が生み出し美少女だ、好き勝手に言いやがってぇぇ。
もみもみもみもみ。
それにいつまで私のおしりを揉むつもりだー、お前はーっ!?
その罪、万死に値する!
……んだけど、ううっ、悲しいかな、私には攻撃する手段がない。
マウントポジションで圧倒的に有利な体勢とは言え、両手で大切なところを隠していては文字通り手も足も出ないのだった。
「うるさいヤツだな。せっかく褒めておるというのに」
もみもみもみもみもみもみ。
「どこがだっ!? てか、いい加減おしりから手を離せ!」
「あまりこういうことは言いたくないが、女の子ならもっとおしとやかに……おっと、ちょっと待て」
男がおもむろに私のおしりから手を離した。
ようやく言うことを聞いたかと思ったら、どうやらそういうわけではないらしい。男は手を虚空に伸ばすと、まるでスマホでも操作するかのように人差し指を動かし始める。
「な、なにをやってる?」
「神絵師様から先ほどのシーンが早速描きあがったと連絡があった。どれどれ……」
男が何もない空間をタップする。
何もない、はずなのに、まるでそこにスクリーンがあるかのように突如として現れたその画像は……。
「ななななっ、なにィィー!?」
偉そうにふんぞり返る男を、ぱいぱい丸出しで指差す私……だけではなく、さらには背後の姿見におしりまでばっちり映っているいう衝撃的な一枚だった!
「素晴らしい。これなら
「満足させてたまるかーっ!」
なんだこれ、なんだこれ、なんなんだこれェェェェ!?
さっきのシーンを描いたのは私にも分かる。でも、その場にいたのは私とこの不審者だけ。誰もいなかったはずなのに、なんでこんな絵が!?
それに鏡ってあんなところにあったっけ!?
「だから先ほど説明しようとしたであろう? 世界は神々の支持を得なくては存えぬ。その為には世界を神々が閲覧できる形へと変換する必要があるのだ。そう、漫画、アニメ、ドラマ、映画、演劇、オペラ、小説……そしてラノベである」
「ラノベ……」
「余はラノベ・サンタクロース。世界をラノベにして存続させる者。余の行動が物語となり、ラノベになる。しかし、だからと言って、余ひとりの力で刊行出来るものでもない。一冊のラノベが生まれる影には作者だけでなく、神絵師や編集さんなど数多くの助けが必要であり、故にこの世界は常にそのような関係者たちの監視下に置かれておる」
相変わらずこいつの言っていることは無茶苦茶だ。
ラノベにして世界を存続させるとか、その発想こそがラノベ脳、うさんくさいことこのうえない。
でも、事実として私の服は突然消えたし、こいつは忽然と現れたし、宙にぼわっと浮かび上がる画像とその内容には騒然とさせられたし……。
こいつの言っていること、もしかして本当なのか?
だとしたら……。
「ねぇ、ちょっと。ちなみにその関係者とやらは一体何人ほどいるのさ?」
「機密事項ゆえ正確な人数を教えるわけにはいかぬが、後書きのスペシャルサンクスでざっと一冊分が書けるほどであると言っておこうか」
ぬおー!?
もしこの男の言っていることが本当なら、乙女の秘密があの一瞬でそんな大勢の人に知れ渡ってしまったことになる。
あははは、やっぱり信じない。
信じないぞ、コンチクショウ!
「しかもただ量を集めただけではないぞ。その質も最高峰だ。それは先ほどあがってきたシーンを見ても明らかであろう」
ウソだ、ウソだ、こんなのありえないと呟く私に、男が「ここに注目だ」と虚空に浮かぶ画像を指差す。
鏡に映った私のおしりだった。
おい、殺すぞ、マジで。
しかし、そんな私の殺気なんてどこ吹く風とばかりに、男が自慢げに続ける。
「本来の姿見はもう少しズレた位置にあった。が、インパクトを上げる為に、スタッフがわざわざこちらの世界に干渉して姿見をあの位置へと瞬時に移動させたのだ。こんな細かな仕事が出来るのはぐはぁ!」
気がついたら頭突きをかましていた。
咄嗟の行動だった。
でも、攻撃手段がないと思っていたけれど、まさかこんな凶悪な最終兵器が残っていたなんて。人間、追い込まれると何が飛び出すか分からないものだ。
感謝。読者とかいう胡散臭い神じゃなくて、ホンモノの神様に心から感謝!
「おい、こら、ヒロインが頭突きなんてするものではない」
「うるさい! 誰がヒロインだ!? 私はそんなのやらないぞ!」
「何を言っている? ここまで来てヒロイン辞退などとどわっ!」
ガツン。
さらにもう一発お見舞いしてやった。
「だからヒロインが頭突きなどやめろと言っておるであろうが」
「だからやらないって言ってるでしょーが!」
「ならば」
もう一度頭突きをお見舞いしてやろうかと振りかぶった時だった。
「この世界は終わってしまうぞ?」
「……え?」
身体が止まった。
男の言葉に心を動かされたわけじゃない。
こいつの言っていることは全部でたらめだ。色々とありえないものを見せられたけれど、断固として信じるわけにはいかない。特に大勢の関係者に私の生まれたままの姿をみられたと言うくだりは絶対に信じない。
だけど、「世界が終わってしまう」と言い放つ男の表情はとても寂しげで。
言葉よりもずっと心に訴えるものがあって、それはちょっと、ほんのちょっとだけだけど心に迫るものがあったんだ。
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