PRIDE
水無瀬
第1話 名もない町で
太陽の光も、雨さえも嫌う町。王都からも見放された名もない町に、一人の娘が立っていた。
少女に何かがぶつかる。
「おねーさん、ごめんなさい。ボク、妹が倒れちゃってあわててて…。」
小さな子供が目に涙を浮かべて彼女に謝る。
「大丈夫よ。こちらこそごめんなさい。」
少女は微笑んでぶつかってきた少年を見る。
「ゴメンね…。お姉ちゃん、この辺は危ないから気を付けてね。」
「ええ。あなたも。」
小さな子供は慌てた様子で走り出す。
「ずいぶんお人よしなんだな。」
後ろから声がかかる。彼女が振り返るとそこには、美しいヒトがいた。おそらく15.6、娘と同じくらいの年であろうに、大きな少女のような瞳に、皮肉気な笑みをたたえたような口元。それに透き通った銀糸のような美しい長い髪。黒い服に身を包む姿に思わず彼女は目を奪われた。
「…泣いている子供がいたら、お人よしになってはいけないの?」
彼女は問う。
「あんたが本来住んでいる街ならそうかもしれないな。だが、ここじゃ間違いだ…。懐を見てみな。」
彼女が自分の懐をあさり、動揺を隠そうとする。その姿を見て笑いながら
「ないだろ?財布も何も。あれがあいつの手。お前みたいなよそ者はいいカモ。プロなんだ。ちなみにあいつに妹なんていねーから。」
「…犯罪じゃない。それに私帰れない。」
彼女は途方に暮れた顔をした。
「だろーな。仕方がないだろ。…ここじゃそんな顔しても誰も手を差し伸べやしない。お前はここに興味本位できた、その罰だ。ここにいるやつらは一日一日を生きてるんでな。あいにく、どこぞの貴族の娘の道楽に付き合うほど暇じゃねえんだ。」
「なんで私のことを…。」
彼女は驚いた。
「この町じゃ、ヒールなんて娼婦でも履かねえ。邪魔だからな。それにお前さんはその服が質素だと思ってるようだが、この町ならその服一枚で半年遊んで生きていけるんでな。」
「つっ…。」
「じゃあな。お嬢さん。」
「待って!」
彼女は必死に呼び止めるが、足を止める気はない様子で、どんどん前に進んでいく。そのとき、声が聞こえる。
「レイ!」
「…!さっきの!」
「え、あんたまだ生きてたの?レイが殺したと思ってたよ。」
さっきのあどけなさを完全に捨てた少年がそこにはいた。少女はにらみつける。
「ミツル。オレはこの姫さん殺して体力を消耗したくない。お前がすった後になにかが残ってるとは思ってねえんだ。信用している。」
「待って!私を帰らせて。」
彼女は必死で叫ぶ。だが、二人はにべもない。
「自力で帰れよ、お嬢さん。」
「私にも名がある!そんな馬鹿にした名で呼ぶな。」
「生憎オレあんたの名前に興味がないもんで。なんの得にもならないからな。」
「レイ―。早く戻ろうよ。このお嬢さんのお相手するのも飽きたし。」
「そうだな。…お嬢さん。ここじゃどんなに頭が良くても、顔が良くても、力が強くても運がなきゃ生き残れない。そうだな、ミツル。オレたちについてこられたら認めてやろうか。」
「レイ、今日は機嫌がいいのか?嫌に優しいじゃん。」
「ただの気まぐれさ。ミツルがすった財布の金が多いからな。」
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