うざいマンション
zyoo
第一章 参加
「はい、それでは印鑑もいただきましたので、こちら鍵になりますね」
不動産屋の胡散臭い笑顔を浮かべた男が、103と書かれたネームプレートの付いた鍵を、賃貸契約書の上に置く。それを一人の青年が手に取る。
「マルミエール戸越……」
青年は呟く。
「あ、オートロックですし、一階ですが塀が高く歩道からはまず見えないので安心してください。セキュリティはばっちりです」
胡散臭い笑顔を浮かべた男は少し焦った様子ですかさず言う。
「ああ、はい。どうせ一日中カーテン閉めとけばいいし、気にしないです」
青年は低いトーンでそう答える。
「とにかく、物理的に丸見えにはならないのでご安心を」
胡散臭い笑顔を浮かべた男は更にフォローする。
「はあ。だから大丈夫ですよ」
青年はそういうと賃貸契約書をリュックにしまい、不動産屋を後にする。
「よいマンションライフを!」
胡散臭い笑顔を浮かべた男は出ていく青年に一言投げかける。
「マルミエール戸越、ここか。まあ築浅だし駅からも徒歩4分だから十分だな」
青年は3階建てのマンションを見上げそう呟く。
青年はもらったばかりの鍵を、マンションエントランスのオートロック解除用の鍵穴に差し込む。静かな音と共に開いたドアからマンションの中へと進む。
「えーっと103か、一番奥だな」
青年は独り言を言いながら103号室へと向かう。
とその時、ドアの鍵が開く音と共に102号室のドアが開く。中からはアンジェラ・アキのようなセミロングでパーマのかかった髪型の細見の男が出てくる。
「あ、君が103に来た人?ようこそ、いらっしゃい!いやー待ってたよ、隣がいなくて寂しかったんだよね。いやー嬉しいな、たまんないね。あ、オレバーミヤンって言うんだ。だからバーミヤンって呼んでくれていいよ!」
バーミヤンは青年の反応に構わず、青年の肩に手を回ししゃべり続ける。
「しょうゆとかいくらでも貸すからさ、言ってよ!でも一日に10回とかは貸さないよ。9回までなら全然OKだけどね」
「あ、はあ。よろしくお願いします。自分山本悟志っていいます。さとしって呼んでください」
さとしは当惑気味で答える。
「了解!さとし!取りあえずオレバイト行かなきゃだから、また後でね。面白い話いっぱいすっから楽しみにしてて」
バーミヤンはそういうと足早にマンションのエントランスから出ていく。
「なんだ?めっちゃ慣れ慣れしいやつだな。しかも面白い話ってなんだよ」
さとしはそう呟くと103号室へと入るため鍵を開ける。とその時エントランスの自動ドアが開く。
エントランスから茶髪で髪をエッフェル塔のように巻き上げた女が入ってくる。明らかにキャバクラで働いている風貌である。
「あーーーー!新入り君?いいねー、来ちゃったね。ハハハ」
エッフェル塔の女はハイテンションでさとしに話かけ、さとしの背中をバンバン叩く。
「あ、よろしくっす」
さとしはまたもや当惑した表情で言う。
「あーーーー!ごめんごめん、自己紹介。あたしハイコ、よろしくサマンサ・ベガ」
「あ、自分さとしっす」
「さとしね。ポケモンゲットだぜ?」
ハイコは問いかける。
「え?」
さとしは当惑しきっている。
「だーかーら、ポケモンゲットだぜ?」
ハイコは同じ問いかけをする。
「何すか?」
さとしは更に当惑から動揺に変わり困った顔をする。
「さとし、ポケモンゲットだぜ?」
ハイコは更にさとしに構わず問いかける。
「……ポケモンゲットだぜ」
さとしはギリギリ聞き取れるくらいの声で呟く。
「イエーイ!ポケモンゲットだよね!ハハハ」
ハイコは満足したようにそう言うと、2階へと続く階段を上がっていく。
「は?なんだあいつ。意味わかんないんですけど」
さとしはハイコの後ろ姿を眺めたまま、小さい声でそう呟く。
「ふう」
大きくため息を吐き、さとしは103号室のドアを開け中へと入る。
さとしは103号室に入ると、何もない床に仰向けに横になる。天井の電灯から垂れている紐をボーっと眺める。
「社会人になって3カ月か。仕事も思った通りそんな面白くねーもんだなぁ。まあ初めから分かってたけど」
そう呟きため息をつく。
「さっきの女はキャバ嬢かな。ハイコつったっけ。フラフラして楽しそうでいいよな。ちょっと可愛かったけど。あとあのキリストみたいな髪型のやつ。バイトつってたな。フリーターか。将来どうすんだよな、ったく」
またため息をつき、体制を変え横を向く。
「オレとは住んでる世界が違うわ」
右手で頬杖を付きそう呟きながら、ふと視線の先の窓を見る。高い塀があり歩道は見えない。その時塀からトラックの荷台が覗き見える。
「お、引っ越し屋きたな、どんだけ待たせんだよ」
そう言うとさとしは玄関へと向かう。
「さてと、ぼちぼち片すか」
部屋に運び込まれた荷物を眺め、さとしは呟く。
「ふう、終わらねぇな」
三つ目の本や文房具などが煩雑に入れられた段ボールを開くと、さとしは呟く。
「ピンポーン」
と、その時玄関のチャイムが鳴る。さとしは手にしていた「今日から俺は!!」の単行本を近くの段ボールの上に置き玄関へと向かう。
「お、やってるね!」
スーツ姿の女の子が開けられた玄関のドアから元気よく顔を覗かせる。
「もう嫌気さしてたんでしょ。ちょっとなら手伝うよ」
スーツ姿の女の子は玄関で靴を脱ぎながら言う。
「リカもう仕事終わったの?いつもより早くない?まだ五時だぞ、公務員みたいだな」
さとしは少し驚いた顔で言う。
「さとしが引っ越しで大変だろうから、早めに上がってきちゃった」
リカは笑顔を浮かべる。
「調度良かった、もう疲れ果ててたわ」
さとしは玄関の壁に寄り掛かったまま言う。
「いい部屋だね!って、何これ!ほぼやってない状態じゃん!」
リカは部屋中に置いてある段ボールを見て呆れたように言う。
「しょうがねーだろ、荷物多いんだから」
「しょうがないなぁ、じゃあサクっとやっちゃお」
リカはそう言うとスーツのジャケットを脱ぎ、ワイシャツの腕を捲りあげる。
「助かる!さすがリカ様」
さとしはおだてるように言う。
「え?リカ様?エリカ様?誰が沢尻だよ!」
リカはノリツッコミをする。
「いや、別に」
さとしは沢尻エリカの真似をして答える。
「はい、やるよ」
リカはさとしのボケを流しつつ段ボールを開ける。開いた段ボールから本や服を取り出し、床に広げていく。
「あ、何これ!ぬいぐるみじゃん。前の家にあったっけ?ちょっとはかわいいとこあんじゃん、さとし~」
リカは段ボールの奥からカラフルな色使いのペンギンのぬいぐるみを取り出し、さとしに見せる。
「ち、ちげーよ。それはガキの頃から持ってるから流れで持ってるだけだよ!ずっとしまってあっただけだし」
さとしは顔を少し赤くし、焦ったように言う。
「ふ~ん、ほら、くまちゃんもいました~」
リカはもう一つくまのぬいぐるみを取り出し、手に持ったくまのぬいぐるみを左右に揺らしながらさとしに見せる。
「それだけだよ!誰だってぬいぐるみくらい持ってんだろ」
「好きなんじゃないの~?あと恐竜のぬいぐるみと、……これだけかな!」
リカは恐竜のぬいぐるみを取り出し、先に取り出したペンギンとくまの横に置く。
「からかってないで早く片付けてくれよ」
さとしは少しイライラした声で言う。
「はいはい、やりますよ、私は家政婦です」
リカは被害妄想的にそう言うと、荷物を取り出す作業を続ける。その姿を見てさとしも近くの段ボールを開け始める。
「じゃあ友達と飲み行くから帰るね」
最後の段ボールを畳み終えるとリカは言う。
「おう、わざわざありがとな。飲みすぎるなよ」
「はいはい。明日また来るまでに完全に終わらせといてよ!」
リカはそう言うと、スーツのジャケットを片手に玄関から出ていく。さとしはリカを見送ると玄関のドアを閉める。
「あー、もう七時か、腹減ったな~」
さとしは、調度七時を差そうとしている床に置かれた壁掛け時計を見つめ漏らす。
「ピンポーン」
すると玄関のチャイムが鳴る。
「リカのやつ何か忘れたのかな?」
さとしはそう言うと玄関のドアを開ける。
「どうした?忘れ…」
とそこにはバーミヤンが立っている。
「お疲れさん」
バーミヤンは優しい微笑みを浮かべる。
「バ、バーミヤンさん、どうしたんですか?」
さとしはリカがキリストに変わった衝撃を受け、驚いた顔でバーミヤンに話しかける。
「どうもこうも引っ越し祝いでしょ」
バーミヤンは当たり前と言った口調で言う。
「え?何すか?」
「いいからついてきなよ」
バーミヤンはそういうと親指を玄関の外の方に向け合図する。
玄関を出るとバーミヤンはサンダルをペタペタと言わせながら二階へと階段を上がっていく。さとしは戸惑いながらそれについて行く。
「あの、どこ行くんですか?」
さとしは前を歩くバーミヤンに質問する。
「上だよ」
バーミヤンは振り返らずに答える。
「上?二階ですか?」
「違うよ、もっと上」
「三階ですか?」
「違うよ、もっと上だって」
さとしはマンションが三階建てであることをもちろん知っていたので更に不安になる。
(まさかこいつキリストだけにオレを天に召す気じゃねぇだろうな)
さとしは心の中で呟く。
「そのまさかだよ。このマンションには屋上があるんだ」
「え?聞こえてました?」
さとしは心の声が漏れたのかと思い戸惑う。
「え?何が?」
「あ、何でもないです」
さとしは心の声が聞こえていたわけではないことに安堵する。
「ここだよ」
そう言うとバーミヤンは屋上へと繋がる扉を開く。
バーミヤンがドアを開くと、煙が充満している。
「ゲホッ、ゲホ」
さとしはその充満した煙を吸い込み咽かえる。
「お、そうか今日は七輪ピックの日か」
バーミヤンは煙をものともせず笑顔で呟く。煙が晴れるとそこには明らかに土方のあんちゃん的な、筋肉隆々の色黒の男が団扇を片手に七輪で魚を焼いている。七輪の横にはスラっとした長身で黒髪の女が腕を組んで立っている。
「ちょっと焼き加減足りてない!」
黒髪の女は土方のあんちゃんに指示出しをしている。
「お、ごめん。気合入れるよ」
土方のあんちゃんは見た目とは裏腹に優しい声で返答し支持に従う。七輪の奥ではビールやチューハイの缶をシャンパンタワーかのように積み上げるストールを掛けた小柄な女、そして屋上に置かれた古びた茶色いソファでは、ウィスキーを片手に一人大声で笑っているハイコがいる。ハイコがバーミヤンとさとしに気付き千鳥足で近寄ってくる。
「お、さとし。きたね~、ハハハ」
ハイコが満面の笑顔で話しかける。
「さっきはどうも。飲み過ぎじゃないですか」
さとしは低いトーンで呟く。
「ハイコはこれで素面なんだよ」
バーミヤンがニヒルな笑顔を浮かべ言う。
「そうだよ、私はウィスキー飲めないから!ハハハ」
ハイコは左手に持ったウィスキーをさとしの顔の前に差出し笑う。
「え?じゃあなんで持ってんの?」
「それはね~、そこにウィスキーがあったから~、ハハハ」
ハイコは登山家のようなセリフを吐く。
「みんな、新入りのさとしが来たよ!」
そんなハイコに構わずバーミヤンが声を張り上げる。すると黒髪の女、土方のあんちゃん、ストールの女が同時にさとしの方を向く。三人に同時に見詰められたさとしは半歩後ずさる。数秒さとしを見つめた後三人は同時に声を出す。
「よくきたね、おかえり!」
さとしは軽く会釈をする。すると三人がさとしに歩み寄る。
「どうも私はテイジー、よろしく。テイジーでもテイジーちゃんでも好きに呼んで」
黒髪の女は大人びた真矢みきのような声で自己紹介をする。
「どうも。オレは通称トビ―、よろしくね。楽しくなるね」
土方のあんちゃんはゆったりとした茨城なまりの口調でそう言うと、握手を求め手を差し出す。さとしは恐る恐る手を出し握手をする。
「自分はシームレスだよ。さとしか、普通の名前だね、見た目も普通だね。佇まいも……普通だね」
ストールの女は自己紹介をすると、思ったことをそのまま口に出す。
「普通って」
さとしは少しイラッとして呟く。
「まあまあ、これがこのマンションのクルーだよ。みんないいやつだから遠慮しないでな、さとし」
バーミヤンはそう言い、さとしの肩をポンっと叩く。
「はいはい、じゃあ七輪ピック開催するわよ!」
テイジーはそう言いながら手を二回叩く。
「持ち場にもどる」
トビ―は静かに呟き、七輪へと戻る。
「これで全部焼き上がったわよ!トビーお疲れさん」
テイジーは焼かれたサバが山盛りに積まれた大皿を、古びたソファの前の木でできた机の上に置く。
「うまそうだな~」
バーミヤンがサバの匂いを嗅ぎながら呟く。
「はい、ビール。ハイコはチューハイ、トビーもチューハイね」
シームレスは机のまわりに座ったハイコ、トビー、テイジー、バーミヤンにそれぞれ飲み物を渡す。
「さとしはビール?」
シームレスはさとしに質問する。
「あ、ビールで大丈夫っす」
さとしは恐縮した感じで答える。
「ビールか、普通だね」
シームレスはそう言うとさとしにビールを手渡す。
「だから普通って……」
さとしはまたもやイラッとし小さな声で漏らす。
「はい、じゃあ後一人足りないけど、いつも通り先始めるよ!」
テイジーは音頭を取る。とその時屋上から建物内へつながる扉が開く。
「ちょっと待ていっ!」
とそこにはスーツ姿のサラリーマン風の男が、歌舞伎のようなポーズを取って立っている。
「ドン、おかえり!越後製菓!ハハハ」
ハイコがその男を見るなり大声で話かける。
「いやー、間に合った。仲間が来る日に遅刻してたら『ドン』の名前が泣くぜ!」
スーツ姿のサラリーマン風の男は主役級のキメ顔でポーズを取っている。
「もうすでに遅刻なんだよ!早くこっちきて座れ!」
テイジーは吐き捨てるように言う。
「ごめん、テイジー!」
サラリーマン風の男はさっきまでのキメ顔とはうって変わって焦った表情で謝る。
「はい、仕切り直して七輪ピック開会式だよ、飲み物持って……」
テイジーがそう言うと一同は飲み物を頭より高い位置に掲げる。
「花見スタート!」
さとし以外全員が声を上げる。
「えええ?今7月ですけど!!」
さとしは驚き声を出す。
「ところでさっきの花見ってどういうことですか?」
さとしは不思議に思いドンに尋ねる。
「花見?何言ってんの?今7月だよ?」
ドンは変な人を見るような目でさとしを見る。
「でもさっき花見スタートって」
「ああ、あーあー、もしかして『鼻見』のことだ!漢字が違うから分からなかったよ」
ドンは無駄に頷きながら言う。
「ってのは冗談。『鼻見』ってのはお互い正面から向かい合って、目を見て話すのは恥ずかしいから、ちょっと下の鼻を見てでも直接語ろう!と言うこの場のことだよ。それをみんな大好きな花見とかけたって感じ」
ドンは落ち着いた低い渋い声で説明する。
「なるほど。それで『鼻見』ですか」
さとしは分かったようなわからないような気分で一応納得する。そこへトビ―がさとしの横に座りビールを差し出す。
「遠慮しないで飲んだらいいよ」
トビーはゆったりとした茨城なまりでそう言うとサバをつまむ。
「てかサバすごい量ですね」
さとしは大皿いっぱいに積まれたサバの塩焼きを眺めながら呟く。とそこへハイコがウィスキーの角瓶を片手に現れる。
「さとし、コマンサバ?」
ハイコがさとしに問いかける。
「え?サバ?」
さとしは分けも分からず言葉を返す。
「サバ!サバだよね、よかった、ハハハ!」
ハイコはさとしの言葉を聞くと満足げにそう言い、またフラフラと歩き出す。
「フランス語だよ」
ドンは静かな声で言う。
「『コマンサバ』はフランス語で『元気ですか』だから、さとしが元気でよかったってとこだな。元気があれば何でもできる、だからサバは山盛りがいいんだなぁ」
ドンは相田みつをの詩のような語り口で語る。
「なんか皆さん変わってますね」
さとしは周りを見渡してため息交じりに言う。古びた茶色いソファでは、バーミヤンの頭からウィスキーをかけるしぐさをし、『ミドルネームはドリンクバー、ハハハ!』と叫んでいるハイコ、未だにビールとチューハイの缶でシャンパンタワーを作り続けるシームレス、サバをつまみに黙々と飲むテイジー、そんなテイジーにサバを焼き続けるトビー。
「そうかな?みんないたって普通だよ」
ドンは不思議そうな顔でさとしの言葉に応える。
「そういえばみんな名前変わってますよね?」
「そうか、まだ名前紹介してなかったよね」
ドンはそう言うと立ち上がる。
「みんな、さとしに名前紹介しよう」
ドンがそう言うと再び全員が木でできた机のまわりに集まる。
「じゃあオレからいこうか」
一瞬沈黙があった後バーミヤンが口を開く。
「オレはバーミヤン。バイト先がバーミヤンだからバーミヤン」
さとしは無言で頷く。
「トビー。とびやってるからトビー」
トビーはゆったりとした茨城なまりで言う。
「あたしはシームレスだよ。今はやりのウェブデザイナー。シームレスな時代にシームレスな性格、ってことで世の中の大体の人、50人はそう呼ぶよ」
シームレスは淡々とした口調で言う。
「50人?」
さとしはツッコミを我慢する。
「私はハイコだよ、お水だよ。テンション高いからハイコなの、ハハハ!」
ハイコは高い声で笑う。
「私はテイジー。派遣でいつも定時上りが私のポリシー。だからテイジー」
さとしは腑に落ちたといった表情で頷く。
「そしてオレがドン。このマンションで一番古株、それでドン。広告代理店ってやつで今は働いてる。苗字?小西じゃないよ加藤だよ」
ドンは聞かれてもないことを言う。
「ありがとうございます、何かちゃんと意味あるんすね」
さとしは少し感心して言う。
「さとしにもあだ名つけたいな~、さとしじゃなんだもんね」
バーミヤンが提案する。
「いいね!考えてやるか」
テイジーが言う。
「さとしは何が好き?」
トビーがゆったりとした茨城なまりで聞く。
「えーっと、急に言われても難しいっすね」
さとしは考え込む。
「じゃあさ、さとしは仕事何してんの?」
ドンが尋ねる。
「仕事は普通の部品メーカーの営業です」
さとしは小さい声で答える。
「さとしのマイブームは?ポケモン?ハハハ!」
ハイコが尋ねる。
「なんすかね、うーんコレといってないっすね」
「さとしは何が楽しくて生きてる?」
シームレスが突っ込んだ質問をする。
「え?」
「まあまあ、これからさとしを知っていく上で考えよう」
困っているさとしを見てドンがそう言う。
「そうだね!」
バーミヤンも同調する。
「まあ当面はさとしで!」
ドンはそう言う。
「このままだと知恵熱で頭燃えそう、ハハハ!」
「きっとさとしの親もこんな気持ちで当面は『さとし』にしたんだろうね、気持ち分かるわ~」
シームレスが大分失礼なことを言う。
「ちょっと!」
さとしがシームレスに向かい大きめの声を出す。その瞬間バーミヤンがさとしの肩に手を回し、語りかける。
「まあまあ、乾杯しようよ!」
「はい、改めてさとしに乾杯!」
一同は手に持った缶をぶつけ合う。
「さとしは引っ越したりしないよね?ハハハ」
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