第14話 復讐の鬼

「息子さんが自殺した年です。まさか忘れたなんて言わないですよね?」

「……」

 ハッと息を飲んだのは桜田さん。犯行理由に気づいたのかな?

「十六年前息子さんは自殺した。理由はクラス全員のイジメによるものだった。けれど、学校側も生徒も誰一人それを認めてはくれなかった。そして八年前あなたは、ご自身が警備するビルの中で社会人として働く井田さんを見た。息子さんはもうこの世にはいない。高校生まで生きただけだった。なのに、息子さんをイジメた同級生は社会人として生きている」

「だから、なんだって言うんだ!」

「これは、あなたの会社が当時警備していたビルで落書きの被害にあった壁から採取をしたものです。そして、あなたの息子さんをイジメていたクラス三十二名のうち、息子さんを除いた三十一名全て八年前の夏に行方不明になっていましたが、ご家族の協力で採取をしたDNAを比較して全てビルの壁のものと一致しました」

「……」

 もう何も言えないのか次の言葉を探してるのか。


「息子さんの自殺した当時のクラスメイト全員が一夏に消えています。そして今も行方不明です。そして、あなたの会社が警備していたビルでその全ての人のDNAが見つかった。一番はじめの被害にあったビルの中に井田さんが務めていた会社が入っています。そして、その日から起こった、失踪も落書きもです。はじめは井田さん、被害にあった壁も井田さんのDNAがあった」

「お、俺がやったていう証拠には……」

「そうですね。ならない。けれど、これを聞いてもですか? イジメはあった。井田さんを中心にあった。だけど、クラスメイト全てが加担していたわけではなかった。クラス全員でイジメていたというのはただの噂話だった。もちろん加担しなければいいってことではないでしょうが、命を奪われる程のことでしょうか?」

「だ、だから?」

「いえ、今あなたが知らなかった情報をお伝えしているんです。失踪したご家族から同僚がDNAと一緒に情報ももらいました。内田さんという方は毎年俊介さんのお墓参りに行っていました。渡辺さんは家族に何度も真実を伝えたいと訴えていたそうです」

「ば、バカな。嘘だ、そんな事嘘だ!」

「では毎年命日に見知らぬお花が供えてあったのに八年前からなくなっていませんか?」

「え?」

 社長には思い当たる節があったのだろう。さっきまでの怒りの表情が崩れた。


「これは渡辺さんの日記です。十六年前から八年前まで毎日俊介くんに語りかけてます。すまなかったと。助けてあげられなくてと」

 何冊にもわたる日記には『俊介』『ごめん』の文字が何度も書かれている。

「表に出さず家族には言わずに謝罪していた人はきっと他にもいるでしょう。あなたはいじめを止める事ができなかったことを反省し俊介くんの分も生きようとしていた彼らの命を奪った。もし、これがなくてもあなたはあなたで彼らのご家族に謝罪すべきなのでは? 今度は彼らが自分たちの子供の命を奪われたのだから」


 羽田社長は泣き崩れた。私は殺害方法も、また死体の遺棄や場所は一言も聞かなかったし言わなかった。それはおぞましいものだったから。彼らの死体は出てこない。社長がすべてを消し去ったから。残ったのは壁一面の血だけだった。だから、壁を真っ赤に塗り偽装を続けた。俊介君の死にみんな罪悪感がある。羽田さんに呼ばれれば来ただろう。

 八年前のクラスメートが消えるのに一夏かかり、三十一面の赤く塗られた落書きができた。都市伝説はもう一つあった高校の同級生が八年後に全て姿を消したと。

 証拠は状況証拠のみだ。だけど、羽田さんは証言を覆しはしないだろう。彼は殺人鬼ではなく、復讐の鬼になっていたから。復讐がなくなり、さらには復讐すべき相手ではないものを消し去ったのだから。

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