第10話 傷

 どうやら雨宮の力は私には効かないみたいだ。メンタルの問題かそれとも力を持ってるからか。挑発してみたけど、危ない奴だ。仕方ない救急車の音が遠ざかってる。桜田さんが帰って来る事を祈って雨宮の力が私に効いたフリをしよう。

 そこにあるさっき雨宮が乗っていた台に登る。輪っかを掴もうとして、あ、証拠がと、手は持ってるフリをして首を通す。

「蹴るんだ。台を」

 って、後ろから雨宮が台をガンガンと蹴っている。もうダメだ。殺されるよ。


 ドタン!


 やっと来たよ桜田さん。

 走ってきて多分さっきの学生にしたように私を抱き上げた。首が輪っかに引っかからないように少し上に体をあげて外してくれる。

 ふう。と息をつく。どうやって乗り切ろうか考えちゃったよ。


「って、感じで殺害したんですか」


 私が喋ったので二人は驚いてる。てっきり、さっきの子と同じだと思っていたようだ。

 私は見えないように入り口の横にあったテーブルの上に置いておいた携帯を取った。さっきの子を介抱している桜田さんの陰に隠れて見えない様に置いておいた。もちろん撮影モードで。さっと中身を確認した。バッチリ撮れてる。

「桜田さん現行犯で逮捕お願いします。警察官の殺人未遂容疑。とさっきの子と。二件でも十分な罪ですね」

「ワザとか!」

「さあ、証拠が少ないかったので証言が取れたらって思ったんですがね。まさか私に殺人を実行するなんて」

 いや、でも本当に。私に雨宮の力が効かないって保証はなかったし、目の前には凶器があるしね。

 かなり危険な凶器だったので私にも救急車が呼ばれて、なんか大騒ぎになった。ああ、また課長に怒られる。



 病院ではやっぱりたいしたことないって話で終わりかと思いきや、薬物検査する羽目にになった。そんなこんなで時間がかかり、直接家に帰ってもいいと言われた。

 怒られるのは明日かなと油断してたら、家に父が来ていた。父と涼、二人にコンコンと怒られた。もう、芝居で首吊りに首を自ら入れたとは言えなくなった。何だか知らないがそうなっていたと、嘘を並べてなんとか乗り切った。

 この分だと明日課長にも、桜田さんにも怒られるな。




 雨宮は自供した。女の子も私と同じように言葉に逆らえず気づけば首を入れていたと証言。全てを用意したのも雨宮であることが確認でき、さらに私が首を入れてる台を蹴ったのが決定的になった。

 雨宮は間接的には命令出来ないという欠点を見事に逮捕へ導いてくれた。その前の自殺の関与も認めはじめている。相変わらず事件は私達16課の手を離れちゃってるけどね。まあ、いいや。犯罪者が一人でもいなくなれば。


 それにしてもこの力を持つ犯罪者を捕まえる難しさと危険さを感じた。

 涼には毎日のように言われる、もういいんじゃないかと。そこまで我が身を傷つけてって、私の腕を見て言う。あの時の傷だ。涼のカッターナイフで私が自分を切った傷。

 涼には目立って見えるんだろう。私にはもう薄くなった古い傷に見えるのに。半袖の季節だから余計に目立つんだろうけど。

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