闘う少年と少女

naka-motoo

第1話 ファイティングマン

 エレファントカシマシのファイティングマンを初めて聴いた時、僕の心はグラグラと音を立てて煮えあがった。高校から帰り、うつ病の母親と、取締役を勤めていた中小の運送会社が倒産して今は日中のみのコンビニでバイトしている父親のために夕飯を作っている時、台所に置いてあるラジオから、スピーカーが歪むような音圧でギターのリフが始まり、ドラムが炸裂し、ベースが唸った。そして、怒号のようなボーカルが僕の鼓膜をびりびりと震わせる。


この世の中に、怒る資格のある人間がいるとしたら、まさしくこの男だろうと感じた。


今まで僕が見た中で、怒っているように見えた人たちは、怒っているふりをしているだけだったのだろう、と気づいた。


僕の行動はまだ変わらないけれども、僕の住む世界は、僕に「さあ、行けよ」という風に、僕を促すように、ひとりでに変わってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る