メール

八雲みつる

メール

唐突に届いた一通のメールが、僕の頭をかき乱していた。


麻紀とは三年前に別れたきり、一切の連絡を絶っていた。未練は無かったし、自分が足掻けば状況が好転するものでも無かった。だから、お互いのためを考えてそれぞれの人生を歩むことにした。麻紀は泣いていたが、きっとペットが死んだ時のような、どうしようもない物を諦めるときの涙だったに違いない。

今になって思えば、連絡を取らなかったのは未練がなかったのではなく、別れを現実として捉えることが自分にとってとても辛い事実であり、直視出来なかっただけではなかっただろうか。三年間に渡って目を逸らし続けていたものを、たった一行のメールが突きつけている。


その日、僕が帰ったのは深夜零時を回っていた。明日必要な資料を作成しなければならず、定時を過ぎてからもずっとパソコンと睨み合っていた。僕にはどうしてもこの資料が必要なものだとは思うことが出来なかったが、これまでもそうしてきたように、過去の顧客から得たデータをパソコンに打ち込み、グラフ化していく。十年以上前の手書きデータをパソコンに打つときには不思議な気持ちになる。

手書きの文字には過去がある。それは誰かがペンを持ち、確実に文字を記しているからだろうか。ただの紙なのに、向こう側に人を感じられる。パソコンというか、デジタルなデバイスは違う。事実を事実として突きつける。それは手書きの記録や記憶といった生やさしい物ではない。


二日前に届いた携帯のメールは、僕に逸らしようのない事実を突きつけていた。三年間、全く連絡がなかった相手からのメールだった。

『私、結婚します』

その短文は洒落っ気や飾り気もなく、まるで今の彼女の僕に対する気持ちのようにも思えた。

たった数文字の事実が僕の心を激しく揺さぶる。心の揺さぶりが静まらないまま、二日経った今も返信が出来ずにいた。


ソファにスーツのジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを外しただけの格好で、部屋の電気も付けずに考えていた。冷蔵庫に何かあっただろうか、そう思いキッチンに向かった。東京といえども冬はやはり寒い。靴下のままフローリングの上を歩くと、じわりと冷たさが伝わってくる。冷蔵庫から買い置きの缶ビールを取り出し、そのまま一息に飲み干す。開け放たれた冷蔵庫から漏れるぼんやりとした柔らかい光が、壁掛けの時計を照らす。午前一時を過ぎている。明日も仕事だが、このまま寝るのはなんとなく心許なかったので、もう一本缶ビールを掴んで冷蔵庫を静かに閉めた。


ソファで携帯を開きながら思考を巡らせる。確か別れたあの日も一人で携帯を見ていた。

三年前、僕は地元北陸の企業で働いていた。地元の大学を卒業し、新卒で入社した会社で、周囲ではそれなりに名前も通ったところだ。このまま順調に行けば、彼女を養うこともできるだろうと考えていた。麻紀は僕の二つ下で、同じ大学に通っていた。僕の就職が決まった時も大いに喜んでくれたし、彼女も刺激を受けて 就職活動に精を出していた。ところが、麻紀が就職することはおろか、大学を卒業することもなかった。彼女の家は、両親で喫茶店を経営していた。昭和を思い出させる古いお店だが、田舎の割にはモダンな作りで、年季の入ったレンガ造りや、古めかしいレコードが印象的だった。席数もカウンター数席にボックス席が四つほどの小さなお店だ。それでも昔馴染みが多く、それなりに盛況している。彼女のおじいさんが戦後まもなく始めたお店と言っていたが、それを聞けば成る程と思う。レコードもどちらかと言うと蓄音機と言ったほうがいい。僕はその雰囲気がたまらなく好きだった。マスターである彼女の父親は、蓄音機でガロの学生街の喫茶店を好んで聞いていた。

「喫茶店ってものは、このくらい甘酸っぱい思い出であるべきなんだよ」

そう語りながら入れてくれるコーヒーは、なんだか僕の知っているコーヒーよりも苦くない気がした。


彼女が大学三年生になった夏、マスターはいつもの買い物から帰って来なかった。帰り道で交通事故に合い、そのまま帰らぬ人となった。

夫婦二人三脚でやってきたお店にとって、マスターの存在は大きかった。それよりも、一家の精神的な支柱にもなっていた父親の存在がなくなったのが、お店よりも彼女の家族にとって大きかった。祖父母は共に他界しており、今まで両親と彼女は三人で生きてきた。これからもそのまま三人で暮らして、いつか麻紀が家を出ることになるまで、支えあって暮らしていくはずだった。マスターもそう思っていたに違いない。


葬儀は簡素なものだった。麻紀の家はお店から徒歩でも十五分程度の場所にある。昔ながらの和風建築で、お通夜も自宅で行われた。そういう造りの家は、襖を取り外せば座敷や茶の間が一つの大きな部屋になる。大体十五畳弱といった広さだろうか。あまり広くはないが、参列者の人数を考えれば十分だった。

弔問客に紛れて彼女の姿が見えた。隣には彼女の母親がいる。二人とも泣きはらしたような真っ赤な目をしていたが。憔悴しきった母と比べて、麻紀はどこか凛として見えた。


麻紀が大学を辞めるのは、あっけないものだった。僕には一言も相談せずに、四十九日の法要が済んだあと、その足で大学に出向き手続きを取ったとの事だった。母親にも辞めると一言と、ごめんねと短い謝罪の言葉を述べただけだったらしい。金銭的な部分から自発的に辞めること決意したのか、それとも母親の支えにならなければいけないと義務を感じたのか、それとも誰とも会いたくなかったのか、僕にはわからない。お通夜で見た凛とした顔が脳裏に過ぎった。とにかく、彼女は大学を辞めた。


それから僕は仕事の合間を縫って彼女のいる喫茶店に通った。麻紀と母親はよく似ていて、背丈も二~三センチ程度違うくらいだろうか。二人共、パッと印象に残る顔ではないが、表情の柔らかさが魅力的だ。麻紀はショートヘアが似合っていたが、母親を見ているとロングヘアも似合うだろうと予想ができる。そのくらい面影があった。

お店に顔を出したときは大抵母親だけが広くない店内を忙しく歩き回っていた。麻紀は裏方の仕事をしているらしい。帳簿や仕入れは彼女の仕事だ。だからホールに出ていることは少ない。

「お母さんに数字を任せたら、一週間で潰れちゃうよ」

そう言って笑っていたのを覚えている。やはり支えにならなければいけないという義務感から自主退学を選んだのだろうか。


そうして二年が過ぎた頃、僕は会社からの辞令を受け取った。その紙には、4月から僕の勤務先が変更になることが書かれていた。場所は、遠く離れた東京だった。転勤が多いと聞いてはいたが、まさか僕のような若造まで転勤はあるまいと高を括っていた。僕は逡巡する。彼女はお店から離れることが出来ない。僕は、どうする。

転勤を断ることは出来ない。会社の決定に異を唱える程の地位は勿論ない。しかし彼女もまた母親を放ってはおかないだろう。

ぼんやりしたまま定時が来た。この状態で仕事をしても捗るはずもなく、僕はタイムカードを打った。打刻音がいつもよりよく響いた気がした。


帰りの電車の中、携帯電話で麻紀に短くメールを打った。

「今日の夜会えないか?」

数分後に「大丈夫だよ。どこにする?」と返信が来た。

お店で、と打ちかけた時に躊躇った。すぐに「散歩でもしながら話そうよ」と、また短いメールを送った。お店で会うことは出来ない。何故なら、僕はこれから麻紀か彼女の母親を不幸にする。胸がギュッと締め付けられるようだった。


一度自宅に帰り、着替えてからお店の前まで迎えに行く。麻紀が出てくるのを待つ。先日の雪がまだ少し残っているが、雲は無く、星がよく見えた。

予定の時間から少し遅れて、麻紀は裏口から出てきた。

「お待たせ」

そう言って微笑む彼女を見ると、僕が抱えていることを切り出してはいけない気分になってくる。きっかけがないまま、近所の公園に着いた。

ベンチに座り、ぼんやりと空を見上げると、一月の澄んだ空気の向こう側に、爪の先の様な三日月が浮かんでいた。


「今日、会社から辞令が出て、四月から東京の勤務になったんだ。」

僕は唐突に切り出した。前置きをしたって、言うことは変わらないのだ。変わらないのなら、少しでも早く事実を伝えて置かなければならない。

「実家から通うことはできない。だから、三月の終わりには引越しをしようと思ってる」

僕が言葉を切っても、麻紀は無表情で、頷くでもなく僕を見ている。彼女はきっとわかっているのだ。僕がこの先に続けようとしている言葉を。

「僕と、一緒に行かないか」

麻紀は、俯き、目を閉じた。永遠にこのまま時間が止まってしまえばいいのに。答えなんか聞きたくない。

「少し、考えさせて。」

雪に溶けてしまいそうな小さな白い吐息と共に、彼女は言った。それきり、何も話せなくなった。


どのくらいの時間が経っただろう。お互い無言のままベンチに腰掛けていた。麻紀がゆっくりと立ち上がり、弱々しい笑顔でこちらを向き、今日は帰ると言い、歩き出した。僕もゆっくり腰を浮かせて、彼女の後に付いていった。


帰り道も言葉を発することが出来ず、麻紀の後姿を眺めていた。罪悪感からだろうか、彼女の姿が遠く見えた。麻紀を家まで送り、僕も帰宅することにした。帰りの電車の中で、伝え忘れていたことをメールする。

『週末、返事を聞かせてくれ』

今日は水曜日。三、四日で返事を聞くことになる。それまでは仕事にも身が入らないだろう。そわそわしていたら落ち着きの無い奴だと心配され、転勤が取り消しにならないだろうか。そんな都合のいいことも考えていた。


僕にとっての運命を決める返信は、その翌日に届いた。

『今日、仕事終わったら会えない?』

麻紀からだった。週末まではまだ時間がある。もう返事がくるのだろうか。それとも決めあぐねていて、もう一度整理するための話だろうか。戸惑いながらも僕は短文で返信した。

『じゃあ、この前の公園で』


喫茶店が終わる時間に合わせてタイムカードを打つ。昨日と同じ時間だ。会社を後にし、ゆっくりと歩き出す。足が重い。期待は無かった。胸にあるのは、選択を突き付けた罪悪感だけだった。僕と麻紀は昨日と同じ時間に、昨日と同じ公園にいた。ベンチに腰掛け、黙って座っている。僕は大きく息を吸い込み言った。

「返事を聞かせてくれるかい?」

俯いていた彼女は、顔を上げて、そのまま空に目をやった。消え入りそうな三日月のそばで、名前も知らない星が瞬いている。

「私は、一緒にいけません」

予想していた言葉だったのに、その一言はとても重かった。心臓を掴み、ぐいぐいと下に引っ張るような、そんな重さだった。

「そっか」

それきり言葉が出なかった。でもせめて謝りたい。そう思い麻紀を見ると、彼女は泣いていた。いや、泣いているというよりは、涙を流していた。表情は泣いていない。無表情で空を見上げ、ぼんやりとした表情に不似合いな涙。自身はそれに気付いていないようにも見えた。

それきり、何も話せなくなった。



 耳障りな電子音で目が覚める。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。携帯のアラームが六時半を知らせている。いつもならもう少し目覚めがいいのだが、昨日は結局眠れずに昔を思い出していたからだろう。

携帯を開き、アラームを止めると一通のメールが届いていた。


『もうお腹に子供もいるし、それはきっと無理だね。でも気持ちは嬉しいよ。ありがとう』


一瞬、思考が止まる。昨日の夜はどうした?確かあの後もビールを二、三本飲んだが、一向に酔うことができず、キッチンにあったスコッチの栓を抜いたような記憶はある。慌てて送信メールを見返す。

『そうなんだ。じゃあもうやり直せないね……』

小さく舌打ちをして大きく息を吐いた。何をしているんだ。こんなことを言うつもりは無かった。ただ一言、おめでとうと言ってあげるつもりだったのに。彼女を追い詰めるような事ばかりを言って、これでは三年前と全く変わっていない。メール作成画面を開き、すぐに文字を打つ。

『ごめん、昨日は酔っていたんだ。気を悪くしないで。本当にごめんね』

送信完了の画面を見て、もう一度大きく息を吐いた後に、寝起きの頭を抱えたまま洗面台に向かった。返信を待ってはみたものの、あれ以上に交わす言葉があるのだろうか。疑問を裏付けるように、待てども返信は来なかった。


月日は再び動き出す。 僕は盆も正月も返上して働いた。働けばその分、彼女の思い出が消えていく気がした。飲み会や合コンにも誘われた。しかし、参加することはなかった。仕事をしている時だけ、現実を忘れることができた。くだらない仕事もあったが、それでも何かを考える時間を潰すには調度良かった。


それから一年も経ったある日の事だった。母から電話が入った。伯父が入院したので見舞に行けという事だった。正直なところ、僕は帰りたくなかった。仕事に穴を空けてしまうことが嫌だったし、何より実家に近づくのが嫌だった。近づけば思い出してしまう事がたくさんある。それは最早、嫌悪というよりも恐れに近かった。しかし、流石に伯父を無視するわけにはいかず、上司に事情を説明することにした。返事は非常にあっさりとしたもので、有給を使ってすぐにでも行って来いとの事だった。その際添えられた言葉は、「ここ一年程無理しすぎている。ゆっくりしてこい」だった。自分の無神経さに愕然とした。周囲を見ることができていなかった。結局、自分のために働いていた。仕事はホワイトノイズでしかなかった。


適当に荷物をボストンバッグに詰め込む。どうせ二、三日だから大したものは必要あるまいと思い、着替えと文庫本だけを持って東京駅に向かった。実家までは二時間強ある。文庫本に意識を落とし込もうとするが、先日のメールが頭から離れず集中できない。文庫本に栞を挟み、雪がちらつく外の風景を眺めながら考える。僕はこれからどうすべきなんだろう。答えは出ない。ガラガラの新幹線の中、僕は一人外を眺め、ため息をついた。ため息で曇ったガラスは、まるで僕の心をそのまま表している様だった。


北陸の冬は暗い。湿った空気の中、鈍色の空から降ってくる雪がみるみるうちに足元を白く染めていく。僕はタクシーに乗り込み、伯父の入院先に向かった。


病院の中は暖かく、外とは全く別世界だった。母から聞いていた病室に向かう。伯父と会うのも久しぶりだ。

伯父は思っていたよりも随分元気だった。ほとんど検査入院に近く、胃に良性のしこりがあったのでそれを切除したのだという。それでも僕の記憶にあった伯父よりは一回り小さく見えた。伯父は退屈して会話に飢えていたようで、いつの間にか昔話に花が咲いていた。

その内、麻紀の話になった。僕は胃をグッと掴まれたような感覚に陥りながらも、平然を装って話を続けた。

今でもお店は営業を続けていることを聞いた。麻紀の母が今も頑張って切り盛りしているらしい。麻紀もきっと一生懸命手伝っているに違いない。それを聞いた時、僕の中にある気持ちが生まれた。時間を進めよう。地元を離れたあの日以来、僕の時計は止まったままだ。僕はもうきっと、彼女を幸せにすることはできないだろう。だから、一言『おめでとう』と、そう伝えようと思った。


病院を後にすると、再びタクシーに乗り込み喫茶店に向かう。僕は心からおめでとうと言えるだろうか。いや、言うしかない。僕にできることはもうそれだけしかないのだから。


喫茶店の前でタクシーを降り、深呼吸をする。中には人の気配がない。今は午後五時。雪も絶え間なく降り続いている。時間帯に悪天候が重なり、客足は遠のいているのだろう。古めかしいドアを開けると、やはり僕以外の客の姿はなかった。ただ麻紀も母親の後ろ姿だけが見えた。カランコロンとドアベルが鳴る。振り向いた麻紀の母は数年前よりくたびれた顔をしていた。白髪も増え、苦労が滲んでいる。

「いらっしゃいませ」

僕であることに気づいていない様だった。僕はブレンドコーヒーを注文し、店内を見渡した。あの日から何も変わらない景色がそこにあった。あの日に戻ったような錯覚にとらわれる。コーヒーが運ばれてきた。

「ブレンドコーヒーです……。あら、あらあら!」

ようやく僕であることに気付いたようだった。

「久しぶりじゃないの。元気にしてたの?」

「はい、お陰さまで元気にやってます。あの、ところで麻紀は?」

「あの子ならお墓じゃないかしら。今日は月命日なのよ。毎月欠かさず行ってるのよ。私よりマメなくらいだわ」

「そうですか」

麻紀の父のお墓の場所は知っている。熱いコーヒーを胃に流し込み、精算を済ませると、僕は雪の中傘もささずに歩き出していた。お墓は歩いて五分程度の所にある。新雪を踏み締めるギュッ、ギュッという音だけが響いている。


墓地に人影はなかった。ただ、麻紀の家のお墓の前に、まだ新しい足跡が残っている。僕はそれを辿った。足跡は、僕を導くようにあの公園に向かっていた。

公園のベンチに麻紀は座っていた。雪を意に介さず、傘もささずにぼんやりと空を見上げている。僕に気付いていないようだった。真っ直ぐに麻紀の方に歩み寄る。彼女はこちらを見て一瞬戸惑ったような表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、悲しそうな笑顔をこちらに向けた。

「麻紀、久しぶり」

「ええ、久しぶりね。どうしたの?こんな雪の日に」

「麻紀を探していたんだよ」

「どうして、今さら?」

僕はすうっと息を吸い込み覚悟を決めて言った。

「結婚、おめでとう」

麻紀は遠くを見ている。空白の時間だった。一分、いや、二分くらいだっただろうか。彼女はこちらに目を向けた。

「あのね、あなたに嘘をついたの」

「嘘って、どういうこと?」

「結婚、嘘なの」

僕の思考は数秒固まってしまった。

「嘘って……。どういうこと?」

同じことを二度聞いてしまった。

「私ね、あの日から時間が止まったままだったの。それはきっとあなたも同じじゃないかなって思った。だから嘘をついて、時間を進めようと思ったの」

僕が仕事を詰め込んで忘れようとしていたこと、それは麻紀にとっても忘れようとしていたこと。時間は全てに平等だ。しかし、二人の時間はちっとも流れてなんかいなかった。

「もう今日で終わりにしましょ。これでいいじゃない。二人の時間は進み始めたのよ」

麻紀の頬を涙がつっと伝っていった。僕は首を縦に振り、泣いている麻紀の涙を拭った。

一瞬ビクッと体を震わせた麻紀だったが、小さな声で「これ以上優しくしないで」と言った。

僕は再び頷き、「それじゃあ」と小さく挨拶をして場を後にした。


いつの間にか雪は止んでいた。空にかかる叢雲に霞む月は、今の僕達を的確に表している様に感じた。

僕は、もう二度と会うことはない彼女に最後のメールを送った。


『またね。』


送信画面を確認した後、僕は携帯をアスファルトに叩きつけた。その時、僕の中で秒針が音を立てて動き出したような気がした。

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