烈空武装イナヅマン(ご当地ヒーロー大戦)
はくたく
序章 イナヅマン誕生
第1話 ご当地ヒーローへの道
『ぴんぽんぱんぽーん 二年四組の、
昼休み恒例の眠たいクラシックを中断して流れたのは、突然のアナウンス。
「げほげほっ!!…………何? 何? 俺??」
特撮研の部室で一人、弁当の握り飯をパクついていた俺は、思わずむせた。
俺は
腐杭県立不治縞高校の二年生。創部三十年の伝統ある特撮研究会、その唯一の現役部員でもある。
それにしても、いったい何があったのだろうか? 高校生になってから……いや、小学校、中学校、ついでに言えば保育園時代を合算しても、校長室へ呼び出されたことなど、一度もない。
俺には呼び出される理由など無い……はずだ。品行方正、清廉潔白。まあ、新入生へのクラブPRで多少、派手な演出をしすぎてクラス担任に説教を食らったのは事実だが……それもステージで花火を爆発させた程度だし、万引きやいじめ、不純異性交遊その他、呼び出されるような行為をした覚えも一切無い。
思い当たるとすれば、海外へ長期出張中の両親のことくらいしかない。治安の悪い地域だと聞いているが、まさかとは思うが武装ゲリラに拉致されたとかか?
特撮研の部室のある文化部棟。
通称”部室長屋”は、真新しい北校舎と南校舎の谷間に取り残された木造建築で、築四十年のボロ屋だ。俺はガタつく引き戸を強めに閉め、毎朝自分で作る握り飯弁当、その最後の一個をほおばり、何とか呑み込もうと四苦八苦しながら校長室へ向かった。
ここから校長室へ行くには、校舎の中を通るよりも、校庭へ出てから職員玄関へ回った方が早い。途中で放送を聞いた友人に冷やかされる可能性も低いだろう。
俺は両手に内履きをぶら下げ、校庭脇の道を抜けて職員玄関からそっと校長室へ。
「失礼します」
「おお、君かね。我が校の特撮研究会、唯一の部員……というのは?」
「は?……はい。堤敬太郎です」
「報告通り、なかなかのイケメンじゃないか。よし、決定」
「校長先生? 何をおっしゃってるんです?」
「……というわけで、君にはご当地ヒーロー、イナヅマンになってもらいたいんだ」
『というわけで』って、何の説明もしてない。本当に教育者かこの人は。
俺は思いっきり眉根に皺を寄せて言った。
「はあ? イナヅマン? なんスかそりゃ?」
「知らんのかね? 我が校の立地する、腐杭県 腐杭市 稲津町公民館の皆様が考案した、ご当地ヒーローだよ」
そういえば、先週の腐杭新聞に載っていた。
地元公民館の方達が、地域興しのために名称だけ付けて、デザイン、設定、ストーリーを公募している、とかいう話。特撮好きの俺としては、当然気にはなっていた。が、予算の都合上、賞金は無し。しかも、発案者本人が主人公として出演するのが賞品代わりという、いわば罰ゲーム付きコンテストとでもいうべきものに誰が応募するというのであろう。
そりゃあ、その道で認められたいとは思っていたが、俺の希望はクリエイターだ。さすがにアクション俳優になる気はない。
「結局、応募者が一人もいなくてね。困り果てた公民館長から相談があったんだ。高校の文化部になら、それっぽいのがあるんじゃないか、ってね。この館長っていうのが、実は私の叔父で、どうにも断れなくってな……っておいおい堤君、どこへ行くんだね?」
「じゃ、失礼しました」
「待て待て。ちょっと君待ちたまえ!! おーい、堤君!!」
校長は、重い木のドアを閉めて出て行こうとする俺の手を握り、ずるずると部屋の中ほどまで引き戻した。
「放してください。いくら校長先生でも、いきなりそんなワケの分からないものになれ、などという指示に従う義務は生徒にないはずです」
俺は校長の手をふりほどく。
「話を聞いてなかったのかね? 私は立場上、どうしても断れないんだ」
「それは校長先生のご都合でしょ? なんで俺が。どうしようもないなら、校長先生ご自身でヒーローなさったらいいじゃありませんか」
「バカを言いなさい。私は教育者だぞ。そんなイカレた格好が出来るはずがないだろう?」
生徒ならイカレた格好していいってのか? 俺は心の中で突っ込みを入れながら、無言で校長を睨んだ。
まあだが、たしかにこの中年太りを通り越して、肉だるまと化したオヤジでは、ヒーローは無理だろう。
中だるみの第十五話目あたりに出てくる、やられ役の怪人がいいところだ。
「君は特撮研究会の部員なんだろ? こういうのは喜んでやってくれると思ったんだが……」
「俺は視聴オンリーなんです。自分で
その能力がない、とは言わない。
むろん視聴オンリーというのも、断るための口実に過ぎない。こっそりオリジナルライダーや戦隊の原案を作っていたし、造形の基本も習得している。マン研や文芸研にも籍を置いていて、別ネームで学内誌に発表したこともある。
だが校長の依頼とはいえ、この話はなんだかヤバイ。食いつくと後でえらい目に遭う。俺には、予感というより確信に近いモノがあった。そう、動物的カンってヤツだ。
俺は校長に手を引っ張られながらも、出て行く素振りを崩そうとはせず、校長とも目を合わせないようにしていた。
だが、校長は説得をやめない。さらに押し被せるように言ってきた。
「だから、そこで相談なんだよ。イナヅマンは、地域環境を守るヒーローだ。活動費は腐杭市から公民館への補助、という形でちゃんと出る。部費の足しになるのはもちろん、少しは個人的な小遣い稼ぎにもなるだろう。しっかりやってくれれば、ボランティア活動への従事、ということで内申書に書く。成績がいまいちでも、推薦入学も可能じゃないか。悪い話ではないと思うがね?」
「お金とヒマはそれでいいとしても、部員が俺一人なんですよ? 人手が足りなきゃどうしようもありません」
「それも大丈夫だ。公民館の方達の中に、造形に詳しい人がいるらしくてな。ウデはプロ並みらしい。君がデザインを考えてさえくれれば、すべて造っておいてくれる、とのことだ。どうだ? これでもやらんかね」
「…………うう」
俺は唸った。条件が良すぎる。ヤバイ臭いがぷんぷんだ。引き受けたら、間違いなく深みにはまる。
だが、俺のデザインをプロ並みの造形師が現実化してくれるなんてチャンスもまた、滅多にあるものではない。もしかすると、かなり複雑なギミックまで作って貰えるかも……
「やらないなら……私の勘違いで、我が校に特撮研究会、なんてものは無かった、という言い訳を公民館長にしてもいいんだがね?」
俺の迷いを読み取ったのか、校長は口元に微笑を浮かべて、更にダメ押しの言葉をぶつけてきた。
「…………お取りつぶし、ってことですか?」
「人数が部活規定に達していないんだろう? 本来なら、その時点で部活動としては活動停止となる……まあ、職員会議に掛けるかどうかは君次第、といったところだが……」
「…………わかりましたよ」
俺は大きくため息をついた。どうやら選択の余地も無さそうだ。
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