エピローグⅡ あるいは、プロローグ

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 同日同刻。

 スラムマンション・シングジャンク店前にて。

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「こちら大陸東部『光陽』支部。帝都『炎安』本部、どうぞ」

『请您介绍一下目前的情况来看、凛明美リンミンメイ、送信』

「はい。東部五区にて観測されました暗黒波動は、この街に潜伏しております。どうぞ」


 私は、目の前に飛んできた人魂のような緑の光にそっと囁いた。

 渋い壮年の男の声が聞こえてくる光の玉に。

 スラムマンションが立ち並ぶ通りに、風が吹きぬけていく。

 さらっと私の長い黒髪が風になびいて流れる。

 嫌な匂いね。

 腐ったどぶ川。まさしくそうだわ。

 でももうじき、私は天上へ帰ることが出来る――


『我明白。车队派遣到你、送信』

「博士も喜ぶと思います。では到着を、お待ちします。どうぞ」

『请以维持现状。关闭线、送信』

「了解!」


 数日前、東部戦区にほど近い所で、派手派手しい「天使の越境戦闘」を目にして以来。このジャンク店に本格的な監視がつけられた。

 今日は赤毛の女装子がこの監視地点に来訪している。

 きっとアホウドリサイズの機霊をまた改造するのだろう。

 店選びはここで大正解だわよ、ボウヤ。

 そう言ってあげたくてむずむずするわが身を、おのが腕で抱きしめる。

 

「ふふふっ。武者震いかしら」


 ぺろりと上唇を舐める私。

 いよいよね。

 長らくお互いに正体を隠して、お互い何食わぬ顔で過ごしてきたけれど。 

 みごとに暗黒機霊を復活させたあの腕前。これがあの伝説の技師でなくてなんなの?

 きっと間違いないわ。

 この世は常に新しいものを求めている。

 古きものは、忘れ去られ、無残に捨て去られるのが、世の必定だけれど。  

 

「翼を背負って交戦。そんな原始的な戦い方が、これから一変する……。古き物は、新しいものに生まれ変わる。博士の研究のおかげでね……」


 下界にこそ、逸材がいる。輝く宝石たちが。

 私が見込んだ博士の研究を実現すれば。わが祖国は、きっと次回の戦でエルドラシアに勝てる。

 どきどきするじゃない?

 機霊を、もっと進化させたものにするなんて。

 新しい時代に、再び古きものが輝くのよ。

 帝都から来るお迎えに、きっと目標も観念してくださるはずだわ。

 だって伝説の技師の祖国は、私の祖国なんですもの……。


「ふふふっ。私、小さいころから、あなたのファンだったのよ。もう逃げられませんわ、太・上・老・君・様♪」 

 

 私はにっこりしながら、シングジャンク店の扉を押して中へ入った。

 片手で、黒縁めがねをかけながら。

 

「ごめんくださぁーい」


 一オクターブ高い声を出せば。一秒も経たずに反応が来た。


「うひょおお! メイ姉さん! 今日はどんな御用でええ?」

「あのねえ、新型のメケメケをねえ……」

「えっ、もうどっか調子悪くなったの?」


 店の奥からさっそく出てきた少年に私はにっこり。

 ふふふっ。

 この子、本当にかわいいんだから。

 後ろについてきた目つき悪い新米助手がちょっと気になるけれど、まあ、たいしたことないわよね。 子どもなんか私の敵じゃないわ。


「ううん、海底神殿にまた調査しにいくことになったから。だからぁ」

「おおおー! 潜水機能つけてほしいんっすね! 任せろおおお!」



「くわしく依頼の内容を説明してもいいかしらー?」

「どーぞどーぞ、さああ、うちの台所にぃっ」


 黒髪の少年が背を向けたすきに、私はまた上唇をなめた。

 ふふふふ。

 逃さないわ。

 この黒髪少年も。この子のおじいさまも。そして、祖国も。

 近い将来、すべて私のものになるのよ。

 すべて……


 そう、未来は。

 私の未来は。きっと明るい――。





 機霊戦記Ⅰ 黄金の女神編 ――了――








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ご高覧くださいまして、ありがとうございました。

Ⅱにつながるプロローグでもって、機霊戦記Ⅰ、終幕となります。

これにていったん連載完結とさせていただきます。

続きとなるⅡは原稿がある程度書けてから、随時更新していきたいと思います。

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