在りし日の時の彼方へ
在りし日の時の彼方へ
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大丈夫。
1000年なんてあっと言う間だ。
だからそこで待っていてくれ。
すぐに追いつくから。
そう言って抱きしめたら、もう一つはまるで赤ん坊のように泣き声を上げたんだ。
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晴天の空に人々の嘆きがこだまする。
偉大なる賢者:オヤマダ・コージの死に白亜の神殿に設置された祭壇の前には多種多様の種族が集まりみなそれぞれに惜しみ悲しみに暮れた。
エルフの大司教リーフベルによる鎮魂の詩が厳かに紡がれる中、漆黒の喪服のドレスに顔を黒のベールで隠した女性が顔に傷のあるリザードマンに支えられ祭壇の檀上に上がり詩を紡ぐ大司教のそばにより一例する。
彼女は身重なのか、リザードマンに支えられてやっとと言うその動きは実にゆっくりとしたものだ。
一礼のあと詩が止み、リザードマンは下がる。
大司教リーフベルが壇上に残された女性の肩に触れて頷くと、女性は嘆く民衆に向き直り口を開いた。
「お集まりの皆さま…」
その声は、まるで天から降り注ぐように何十万と集まった民衆すべてにまるですぐ傍で語りかけるように広がる。
女性に肩に乗った手が、淡く輝いている所を見るとそう言った魔法が使われているのだろう。
「我が夫、賢者:オヤマダ・コージは先の大戦でその力を使い果たし病に伏せっておりましたがこの度皆の祈りも虚しく女神様の元へ旅立たれました」
淡々とした声に、民衆はむせび泣く。
「病の床にありながらも、夫はこの世界の為あらゆる努力を惜しみなく注ぎその功績は後の世にまで語り継がれるでしょう…」
そういうと、女性は自分の顔を覆っていたベールを外す。
長く豊かな金色の髪に金色の目。
狂戦士:ガラリア・ガルガレイは、気丈にこらえているのか涙こそ流れていないがその顔は強張り肩が微かに震える。
「お…夫は…夫は…」
言葉を詰まらせるガラリアに、肩を掴んでいたリーフベルがそっと耳打ちすると落ち着きを取り戻したのかガラリアは深く呼吸をした。
「わたくし、ガラリア・ガルガレイは賢者の眠る神殿をこのクルメイラの地に建立し賢者の偉業を後世に語り継ぎます」
ふわりと、一礼し退席するガラリアに民衆は拍手と歓声をあげた。
◆◆◆
白亜の神殿の石畳の床に靴音とドレスのすそを引きずる音が反響する。
「ふぅ…も、いいよねっ!」
ガラリアは、ぐっと伸びをしてコキコキと鳴らして身震いした。
「なーにが、『いいよね!』れちか!」
背後からの声に、ガラリアは振り向いて『てへぺろ』と舌だす。
「もー! ガリィしゃん! 原稿、ちゃんと覚えるように言ったれちに!」
幼稚園児ほどの背に喪服姿の銀髪が、『ぷんすか!』とじだんだをふむ。
「だって長いんだもん!」
「むっきー!! この新・精霊王のメイヤと大司教リーフベルが夜なべして考えた最高のものでちのに!!」
不機嫌に飛び跳ね始めたメイヤをしり目に、ガラリアは身に着けていた喪服のドレスの裾をたくし上げる。
「あ! ガリィしゃん! 走っちゃだめれちよ!」
メイヤがそう言った時には、ガラリアはあっと言う間にその場から走り去った。
「…もう、みんな心配し過ぎだよ!」
長い長い廊下を疾走するガラリアは、突き当りの壁の前で速度を落として立ち止まった。
「ふぅ。 も、ついてきてないね」
振り返っても長い長い廊下の先には、メイヤの姿は見えない。
ガラリアは、たくし上げていた裾を整えて目の前の壁に手をつく。
すると、平らな白亜の壁に青白い魔法陣が浮かびゴゴゴっとスライドし地下へと続く階段が現れる。
薄暗い階段の入り口。
それは、下へ下へと続くが先は暗闇に包まれている。
ガラリアが、躊躇することなく階段に足を踏み入れるとそれに合わせて背後で壁が閉じた。
普通の人間には、まったく見えない暗闇。
しかし、獣人であるガラリアはそんなの問題ではない。
「あ」
すたすたと、階段を下っていたガラリアは不意に立ち止まりそっと自分の腹に手を当てるとすっと手をあげパチンと指を鳴らした。
ババチチッチ!
指がこすれた瞬間、散る黄色い火花。
すると、火花が乗り移ったのか壁に灯りがともる。
どうやら壁には作り付けの燭台があり、その蝋燭に一気に火がともったようだ。
「気おつけろって言われてたや…」
ぼそりと呟いたガラリアは、下へ下へと続くらせん状の階段をゆっくりと時間をかけて降りる。
小一時間。
それだけ下って、ようやく淡い光が差し込む終わりが見えた。
「あ、ふふふ…」
ガラリアは優しくほほ笑む。
そこは円状の広い空間。
分かりやすくいうなら、奴隷などを戦わせる闘技場のような場所だか通常の三倍くらいの広さはありまるですり鉢状に彫り下がった中央には高さ15m・幅10mはあろうかと言う強大で透明な氷のような物が鎮座する。
それは、恐ろしく純度の高いクリスタルだ。
それほど巨大なものは、現存する事すら『理』に反するだろう。
それが大きなものを中心に、大小様々な大きさの物が寄り集まって一つの塊になっている。
クリスタルの放っている光のお蔭か、階段付近とは違いこの空間は真昼のように明るい。
ガラリアは、そのすり鉢状の上から中央のクリスタルに視線を向けなおほほ笑むように見えたが違う。
よく見ればその視線はクリスタルではなく、その前に佇む人影に注がれていた。
「どうした? もうお終いか?」
見事な上腕二頭筋がしなり、栗色の瞳を細めながら問う。
「う…くっ…!」
その視線の先の小さな黒い短髪が子猫のような耳を震わせ、まるでポンポンのような短い尻尾をぶわっと膨らませてキッと睨み返す。
年の頃はまだ5歳くらいだろうか?
短パンに黒いシャツと言う動きやすそうな軽装の男の子は、擦り傷のある膝の痛みをこらえながら地面を蹴った!
「やあああああああ! ぎゃん!?」
べしゃ!
渾身の一撃を払われ、男の子は石畳の叩きつけられる。
「甘い!」
「う…ううう…み"や"ぁ…」
さっきまでの威勢はどこへやら、男の子はべそべそと泣き出した。
「泣くな! それでもお前は狂戦士の血を引いているのか!」
飛ばされる激に、男の子はペタンと地面に座り込む。
「だって…だって…グラチェスおいたんに勝つなんて…ぼく…ぼく…」
うるうると黒い瞳に涙をためる幼子に、近衛師団長:グラチェス・ノームはため息をつきがしがしと頭を掻いてため息をつく。
「レンブラン・コータ・オヤマダ」
名前を呼ばれた幼子は、ピスピスと鼻を鳴らしながらグラチェスを見上げる。
「お前には狂戦士の母と俺の勇敢な親友…それとあの男の血が流れてる」
「…しってるよ…でも…ぼく、 うにゃっつ!」
ふて腐れたように俯く頭をグラチェスの大きな手がガシガシとぶっきらぼうに撫でると、小さな耳とポンポン尾がプルプルと動く。
「尾が短い事がなんだ?」
「でもっ! …猫の獣人でしっぽ短いのは弱っちいしょーこだって…ぼく、よく転ぶし、上手く飛べないし、生まれつき短いなんて変だって、賢者と狂戦士の血引いてるのに半端者だって…」
大きな瞳からぽろぽろとこぼれ出した涙をグラチェスは、ぐいっと指でぬぐってやるとその小さな肩にぽんと手をおいて目線を合わせた。
「いいか、コータ…あの男…お前の父は、確かに凄い力を持っていたが他の誰よりも脆くか弱かった…それでも世界に喧嘩を売ってお前の母を守り抜き、今この瞬間もお前たちを守り仲間を救う為に奔走している…あの男に『諦め』の文字は存在しない…お前にはそんな男の血が流れているんだ」
「…」
「お前の母だって、大戦のさなか尾を失ったがどうだ? 今やお前の父以外彼女に敵うものはいない」
「…グラチェスおいたん…ぼくも…ぼくも…強くなれるかなぁ…」
「ああ、諦めさえしなければお前はきっとあの二人よりうんと強くなれるさ! 保障するよ」
『うん!』っと、元気よく答えた幼子は涙をぬぐい己の師であるグラチェスに向き直って一礼して構える。
その様子を声もかけずにじっと見ていたガラリアは、不意に背後に感じた気配に振り向いた。
「あれま、流石だねぇ…」
「カランカ…」
気配で何者か感知していたとは言え、これほどまで近づかれた事にガラリアは素直に驚く。
「来てたんだ」
「ああ、葬式なんて聞いたから見物にきたのさ」
剣士:カランカ。
あの大戦後、そのまま放浪の旅に出てしまい音信不通になっていた英雄だ。
「アレは…はは…見事なまでにアイツの子だねぇ」
隣に並んだカランカは、クリスタルの前で飛び跳ねるよく知る顔と瓜二つの幼子に目を細めてからガラリアの方をちらりと見てる。
「…全く、あの男と来たら身重のアンタをほっぽって何処ほっつき歩いてるんだい?」
呆れたようにため息をつくカランカに、ガラリアは微笑む。
「コージはね、コージでいられる間にやらなきゃならない事がいっぱいあるの…だからガリィはこの子たちとここで待ってる」
気丈なガラリアの言葉に、『へぇ…』っと言葉を濁したカランカはニッと笑う。
「なーにが、『待ってる』だい? しおらしい事言って…あの時のアンタからじゃ考えられないねぇ~変わるもんだ」
「へっ!? うっ、だって!」
顔を真っ赤にしたガラリアは、あうあうと言葉を詰まらせる。
「忘れたとは言わせないよ? あの後、何故だか様子がおかしくなったアイツがアンタを手放すと言った時ったら…」
「だって! だって! コージったらもう大丈夫だからサヨナラだってガリィを置いてどこかにいこうとするんだもん! だから…」
「あー…そりゃもう、すごかったねぇ…放す放さない好きだ愛してるってもう…あんたらにとっちゃ可愛い幼夫婦の痴話喧嘩だったんだろうさ…アンタらにとっちゃね!」
カランカの視線は虚空を泳ぎ、悪夢だったと振り返る。
「あの賢者の能力と狂戦士のフルパワー…アンタらの通った後の大地は地形と生態系が変わってたよ…アタシにとっちゃクロノスとの一戦よりもよっぽどこの世に終わりだって思ったよ」
「だってぇ~」
顔を赤らめもじもじするガラリアにカランカは壮大にため息をつく。
「で、最終的に両手両足へし折って観念するまで軟禁とか死んだレンブランでもそこまではしないねぇ…」
「…コージったら頑固なんだもん…飲まず食わずで『お願い』して10日はかかちゃった…」
カランカは、ガラリアの言葉に『10日って…初耳だね』と呟き思わず顔をしかめる。
「コージは何もわかってないんだよ、ガリィ為でも離れるなんてダメなのに」
すっと、無表情になったガラリアにカランカはうすら怖いものを感じながらもくすっとほほ笑む。
「…まったく、レンブランが生きてたらなんていうか_______」
ため息をついたカランカは、視線を闘技場に戻して目を細めた。
「カランカ…まだコージの事許してくれないの?」
「…ああ、許さないさ」
ガラリアに不意に問われ、カランカは視線は小さな影を追ったまま答える。
「でも! お兄ちゃんが死んだのは!」
「違う! アタシが許せないのはソレじゃない」
カランカは、ガラリアの言葉を打ち消し続けた。
「クロノスを殺さなかった…それが許せないのさ」
その言葉にガラリアは口を噤む。
「アンタは知ってるんだね…なんでアイツがクロノスを…レンブランの敵を取らなかったのか…」
「カランカ…それはねっ あの…」
何事か答えようとしたガラリアをカランカは手で制す。
「アンタが答え無くていいい…あの女神を殺さなかったのはそれ相応の事情がある事は明白さ…けどね、許せないんだよ」
『この気持ちはどうしようもないんだ』と呟いたカランカは、闘技場とガラリアに背をむけ階段の方へ歩きだす。
「カランカ! ごめんね! どうしても今はクロノスは殺せなかったってコージ…」
ガラリアの声から逃れるように、巨人の亜種である大柄な体があっという間に階段の闇に消える。
その姿をガラリアは胸が締め付けられるような思いで見送った。
「ごめんねお兄ちゃん…カランカに悲しい思いをさせて…でも、今はまだ敵を取ってあげられない…1000年…1000年だけ待って」
消え入りそうな声でつぶやいたガラリアは、そのまま闘技場の方へとゆっくり下った。
◆◆◆
「えい! でやぁあああ!」
「どうした! もっと拳に力を乗せろ!」
小さなコータが、ありったけの力でグラチェスに立ち向かい何度張り倒されても立ち上がってはまた吹き飛ばされる。
「うっ…くっ…!」
「いいぞ、その調子だコータ! 今日もし一発でも俺に食らわせたら『特性のパンケーキ』を作ってやろう」
パンケーキと聞いて、黒い耳がぴんと立つ!
「ぱんけーき…おいたんの特製…」
「ミサイルビーの蜜のホイップ付きだ」
その言葉に、小さなコータの周辺の空気が渦巻く。
「全く…普段からそのくらいでいてほしいな」
小さな弟子の変わりように、グラチェスは冷や汗を浮かべる。
バチチチ…!
コータの体中に小さな黒い稲妻が走ったとグラチェスが思った時には、その姿は眼前からきえ失せたように見えた。
「っち!」
グラチェスが不意に避けるとバガアアアアン! と、避けた場所にの地面が割れる!
「ぱんけぇええき!」
黒い閃光。
確かに視界に捉える事は出来ないが、その動きは単純な為グラチェスは辛うじて避ける事が出来る。
「ぱんけぇええき! ぱんけぇええき!」
繰り出される拳も、早いが軌道が単純だ。
「まだまだだなっつ!」
「ぎゃん!」
動作を合わせて凸ピン一発。
その衝撃で、黒い閃光はあっさりと地面に叩きつけられる。
「う"にゃぁ…!」
「…速さは十分だが、軌道が単純。 いつも注意している事だぞ? …これじゃパンケーキは____」
ズキン。
脇腹に走り、グラチェスは膝をつく!
「くっ!」
浅いが爪の形に裂け血の滴る脇腹を抑えるグラチェスの頭上に迫る黒い閃光が、その小さな手のひらに黒い稲妻を奔らせ見すえる。
その目の色は左側だけが金色。
「コータ」
それは優し気な猫撫で声。
すかっ!
ずざざざああああああ!
硬直したグラチェスの頭上を目測を外したコータが通過し、床を滑って壁に突っ込んだ!
「あらら~ふふふ」
にこにこ笑うガラリアに気が付いたグラチェスは、そのまま片膝をついて頭を垂れる。
「まんま!」
壁に突っ込んでいたコータが、ボコッと顔あげ満面の笑みを浮かべ駆け出す!
「まんまーー! まっ…」
両手を広げ飛びつこうとしたコータは、急ブレーキをかけてスピードを落とそうとしてそのまますっ転んだ!
「コータ、大丈夫?」
派手に転んだコータは、すくっと立ち上がってもじもじとする。
「まんま…う…あのね…」
コータは、もじもじしながら優しくほほ笑む母の顔とその膨らんだお腹を交互に見るともの欲し気に耳をピコピコとさせた。
「ふふふ、いいよ。 優しくね?」
「わぁ~い!」
待ってましたとばかりに、コータは膨らんだガラリアの腹に優しく触れてそっと耳をあてゴポゴポとなる水音に嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
「…妹…ぼくの妹達…大好き…早く会いたいよ」
ガラリアは、息子の頭をふわりと撫でる。
「あら? 妹だなんて…わかるの?」
「うん! ぽかぽかあったかいの! もうちょっとだって!」
コータは、きらきらと目を輝かせてすりすりと頬ずりした。
いつまでも腹に顔うずめたまま離れない息子の背中を、ガラリアはとんとん叩く。
「ほら、コータ。 いつまでもグラチェスさんを待たせちゃだめでしょう?」
「はっ!」
コータは名残惜しそうに腹から離れるとトコトコと、片膝をついて控えるグラチェスの元へ走る。
「グラチェスおいたん! ぼく、できたよね? ちゃんとできたよね?」
「ああ、約束だ。 おやつの時間に食堂に来い…その前に魔法史と科学の講義を済ませるんだぞ?」
講義と聞いて、小さな耳がしゅんと畳む。
「返事は?」
「…はぁい…」
コータは、しょんぼりしながらガラリアのそばを通り抜けてすり鉢状の闘技場を抜けらせん階段を昇って行く。
ガラリアは、その小さな背中がらせん階段に消えるのを見送るとグラチェスの方に向きなおった。
「グラチェスさん、顔をあげて」
ガラリアの声にグラチェスは、ようやく顔をあげ立ち上がると姿勢を正す。
「貴方はお兄ちゃんの友達なんだからそんなに畏まらなくていんだよ?」
その言葉に、グラチェスは首をふる。
「いいえ、俺は貴女様とコータに仕える近衛師団の長です」
グラチェスは、背筋を伸ばしてぴしゃりとした口調でガラリアの申し出を一蹴した。
「仕えるって…ガリィがグラチェスさんのご主人様ってこと?」
「はい、そうなります」
「ふぅん…じゃ、グラチェスさんはガリィの言う事は何でも聞くってことなんだ?」
「はい、不可能な事でない限り貴女様のご命令に従いましょう」
「へぇ…」
そう聞いたガラリアが、まるでいたずらっ子のように微笑んだのを見てグラチェスは『しまった!』と顔をしかめる。
「…そう…じゃ、命令! 今だけお兄ちゃんの友達のグラチェスさんに戻って♪」
にっこりほほ笑む親友の妹に、グラチェスはため息をついて顔をあげた。
「まったく…いつまでたっても子供だなぁガラリア…お前はそれでもこのクルメイラの領主でコータと腹の子の母親か?」
グラチェス・ノーム。
ガラリアと兄レンブランを、小さな頃から気にかけてくれた兄レンブランの親友。
コキコキと首を鳴らすグラチェス姿は、いつものむすっとした近衛師団長などではなく近所の世話好きなお兄さんと言った感じがしてガラリアは懐かしそうに目を細める。
「それで? 俺になにか用か? 上ではアイツの『葬儀』をしていたんだろ?」
何か問題が? っと、首をかしげるグラチェスにガラリアは首を振る。
「ううん…それは問題ないよ、後はリーフベルが指揮してくれるって」
「よくやるな…」
グラチェスは呆れたように言うと、眉間に皺をよせた。
「…やっぱり、グラチェスさんもコージの事怒ってる?」
ガラリアの問いに、グラチェスは視線を落とす。
「レンブランが死んだことを言うなら俺は決してアイツを許さな…が、アイツがこの世界に現れなければお前は救われなかったしこの世界も時を進める事は出来なかった…レンブランの願いをアイツは叶えたんだ」
グラチェスは、拳を握りしめる。
「けど、憎い…俺から親友を奪った、賢者:オヤマダ・コージが!」
「グラチェスさん…」
「…が、それと同時に哀れだとも思ってる」
「え?」
グラチェスの言葉にガラリアの耳が瞬く。
「アイツは…賢者は、この世界と友を救う為ユグドラシルと契約して永遠の生を得たと聞く…それは傍目から見れば羨む事なのかもしれないが正直俺ならお断りだ。 考えても見ろ、周りの愛しい者たちが死んでいく中で自分だけが生き残るなんて考えただけで俺なら気が狂うだろう」
ソレを…っと、言葉を続けようしてグラチェスはガラリアを険しい表情で見た。
「……ガラリア、何故そんな事をした?」
ほほ笑んだままのガラリアは、自分の腹をそっと撫でる。
「悪い事だとは言わな…いや、この場合それは賢者を苦しめる事になるとは思わないのか?」
「…」
「お前もコータもその子供たちも、いつまでも傍には居られない…賢者を置いて先に行ってしまうんだぞ?」
グラチェスの咎めるような口調を受けても、ガラリアはその笑みを絶やさない。
「ガラリア____」
「だからだよ」
ほほ笑む唇が震える。
「コージは、誰よりもうんと長生きになった…けど、それはいつまでもコージでいられるのとは違うんだよ」
「しかし…」
「コージは、少しづつだけど自分じゃなくなるって言ってた…それは10年先なのか1000年先なのか分からないけれど混ざって消えてなくなるかもしれなくてその時まで約束を覚えてられるか不安なんだって」
ほほ笑んだままの表情とは裏腹に、その金色の目には涙が浮かぶ。
「駄目…それだけは駄目…忘れちゃうって、消えるのと…死ぬのと同じだから…でも皆が死んで一人ぼっちになっても覚えてるって痛くて苦しいと思うからホントは忘れちゃう方がいいのかもしれない…でもそれはコージの『願い』とは違うから」
「ガラリア…お前…」
「ガリィはね…うんと長生きになったコージの傍にいてあげれないけど、もしもコージが忘れちゃってもきっとこの子たちの子供の子供がコージの思いを届けてくれる…きっと、1000年先…在りし日の時の彼方へ」
震えるガラリアの肩に優しく触れたグラチェスが、ふと背後で輝くクリスタルを見上げる。
クリスタルは、二人を映して暖かな光を放っていた。
クロノブレイク0~可哀想な小山田くんの話~ 粟国翼 @enpitsudou
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