魔王③
「何故ダ賢者ヨ…何故、貴方ハソコマデスル?」
闇の精霊獣は、羽を振るわせ俺を見上げる。
「気に入らねぇんだよ…この世界の全てが」
その言葉を聞いた闇の精霊獣は、一瞬呆気に取られたような顔をしたが次の瞬間にはその紫の瞳は狂喜するように色めいた。
「イイダロウ…イヤ、貴方ニ従オウ賢者ヨ」
闇の精霊獣は、ふわりと膝をつき頭を垂れ俺はその上にそっと手をかざす。
「いくぞ」
「待って!」
コードモードを展開しようとした俺の肩にガリィちゃんの爪がギギッと食い込む!
「ガリィちゃん?」
「コージ、それ、その子もガリィと同じにするの?」
ガリィちゃんは、どこか不満げと言うか不機嫌にじっと俺を睨む。
「え、ああ? 形式としては同じな感じになるけど?」
「…赤ちゃんの為、なんだよね?」
「まぁ、そうだけど…?」
「わかった」
そういうと、俺の肩に食い込ませた爪をそっと抜きしゅんと耳をたたみ俯いたガリィちゃんはちょこんと闇の精霊獣の隣で座ってた赤ん坊を抱き上げてくるりと背を向けて座り込んでしまった。
「え、あのっ?」
『フッ、隅ニ置ケナイト思ッタガ案外鈍イナ賢者ヨ』
闇の精霊獣が、そう言うやいなや俺は背後から何やら殺気を感じ振り向く。
「コココココ!」
そこには、首をねじ切れんばかりによじったコッカスが俺を血走った目で睨みその獰猛なくちばしを乙女心を読めない鈍感賢者の全裸の生尻めがけて振り下ろさんとしていた。
「ちょ! まって! つぎゃ!? ヘルプ! ガリィちゃん助けて!!」
ガリィちゃんは、ちらりと俺の方を向いたがプイッとそっぽを向く。
あ、え?
なにそれ、焼きもちって…あ、可愛い。
短くなったシッポがなんかポンポンみたいにぶわってしてふりふりしてる…って、痛ぇ! やばっ! 口ばしやばっ! 裂ける! ケツに割れ目が増えるって!!
逃げ回る俺をみた闇の精霊獣が、腹を抱えて笑ってる!
ちくしょ!
覚えとけ!
俺たちの賑やかな声は、大陸の半分を失った精霊の国ファエリアに空の上から木霊した。
◆◆◆
------------------------------------------------------
『あ~大体こんなもかなぁ~…及第点』
あ"?
なんだって?
『なんでもな~い テヘペロ☆』
------------------------------------------------------
…じ…コージ…
「起きてよ! コージ!」
ガクガク揺すられ、俺は目を覚ました。
『コノ程度デ倒レルトハ、ナント頼リナイ』
覗き込む金色の瞳と、漆黒の羽。
ああ、そうか。
俺、闇の…レヴィのコードをリンクさせて…それから…。
ぐぅぅぅぅぅ…っと、俺の腹の虫が例の如く限界を知らせる。
「…腹へった…」
「コージ! しっかり! 寝ちゃダメ!」
ガリィちゃんが、意識がグダグダな俺を抱き寄せて頭を膝にのせる。
あ、いいなこの感触。
硬すぎず、柔らかすぎず…ふぁ…ねむ…。
「こっじ! こっじ!」
赤ん坊が慌てたように、俺の頬を叩く。
痛い! 痛い!
心配してんの嬉しいけど、痛い!
「…なん だ ?」
手の平にざらっとした感触がして、俺の意識が一気に覚醒する!
「わっ! なんだ? どこココ!?」
心地よいガリィちゃんのお膝から飛び起きた俺は、辺りを見回す!
砂。
見渡す限りの果ての無い砂、砂、砂、砂、砂……。
そして、灼熱!
「…砂漠…?」
砂漠と思しき砂の中心で、俺は呆然とする。
『ココハ『デッドスフォール』ト呼バレル場所ダ』
鈴を振るような声と共に、俺の眼前にふわりと漆黒の羽が舞う。
デッドスフォール。
その言葉に、左目の奥が軋みレンブランの記憶が語る。
「…そっか…ここが…」
時の掃き溜め。
死の砂漠。
実りも無く、何も生み出さない『無』。
そして、この何処かにいる。
魔王が!
◆◆◆
「此処ダ」
その場所は、実にあっさりと見つかった。
つーか、考えても見れば賢者レンブランの知識を持つ俺(多分18歳くらいにパンプアップ)と闇を司る精霊獣と狂戦士に勇者(5歳児br)に機動力は天駆ける巨大鶏コッカス。
これで探せないわけが無い。
けど…。
「おい、本当にここであってるか?」
俺は、コッカスから飛び降りて、あたりを見回すがやっぱり見渡すばかり砂だらけだ。
ちなみに、今俺は全裸ではない。
いきなり体がデカくなったせいで、着てきた学ランなんかピチピチになって着れたもんじゃなくなったがそこは闇の精霊獣レヴィが『フシギな魔法』でちょちょいっと全く同じデザイン同じ着心地のサイズぴったしのを用意してくれた!
それだけじゃない、ガリィちゃんはデニムホットパンツに黒ブーツ、黒レースのミニタンクトップに機動力を重視した最小限のプロテクターを着用して…ああ、いい…。
コッカスの背中から、物音を立てずに砂の地面降り立ったガリィちゃんが動くたんびにポンポンの尾がふりっとして少し食い込むようにフィットしたホットパンツからヒップが見えそうで見えない…。
追った視線の先で、にやりと闇の精霊獣が笑う。
ちっ!
計ったな!
もどかしすぎるぜ! この小悪魔!
「こっじ! こっじ! だっこーー!」
頭上から白いシーツの固まりが、俺に受け止められることを疑うことなく降ってくる!
「ふぬっ、ぐはっつ!!」
「きゃ! きゃ!」
受け止めたは良かったが、バランスを崩し砂の上に倒れた胸の上で赤ん坊が嬉しそうに笑う。
はぁ、これから魔王に会うってのに暢気だな~。
ま、戦うのが目的では無いけれど…。
俺は、はだけたシーツを赤ん坊に巻きなおしてやる。
赤ん坊はシーツの下には何も着ていない…と、言うのも闇の精霊獣であるレヴィの属性は当たり前だが『闇』んで勇者の基本属性は『光』相性は最悪。
つまりは、レヴィの闇属性の『フシギな魔法』で作成された衣類なんて触ったらアレルギーを起すってんで仕方なくシーツを巻きつけてるだけって言う…。
しかし、今から魔王の所に殴りこむぞって時に装備品がシーツのみってのは中々チャレンジャーな勇者だ。
「んで? これからどうすん だ?」
俺は、赤ん坊をひょいっと抱き上げながらなにやら周りを警戒しているレヴィに問う。
『ホウ、流石ノ賢者ニモ此処カラ 先ノ事ハ知ラナイノカ…』
「んなこと言われてもよぉ…」
レヴィは、『意外ダ…』とぼそりと 呟き何かを探すように砂の地面ギリ ギリをぬうように飛び回り始めた。
いくら万能を司るレンブランの記憶でも、本人が到達した事の無い此処から先の事は分からない。
それは、今まで攻略本片手に旅をしてきたような俺にとってかなりの不安がのしかかる…恐ぇ…マジで恐ぇ …。
俺は、胸のあたりがうずいた気がして思わず自分の胸倉のあたりを握りしめる。
比嘉…。
俺が魔王に会あわなければならないって、一体どう言う事なんだ?
瀕死の重傷の中聞いた比嘉の言葉…やっと、やっとここまでたどり着いた。
「こっじ?」
無意識に力が入っていたのか、抱かれていた赤ん坊が少し不安そうに俺を見上げる。
「なんでも無い…魔王の所についたら良い子にするんだぞ?」
よしよしと頭をなでてやるが、『魔王』と聞いて赤ん坊の目が少し色めきだち柔らかな亜麻色の髪がチリチリと逆立つ。
これは『勇者』としての本能だろうか?
「こらこら、駄目だぞ?」
「う…」
まるで、下敷きで静電気起こしたみたいな逆立った髪をなでつけてやると手の平にチリチリとくすぐったい感触が走る。
『賢者ヨ!』
レヴィの声に、俺は顔を上げ視線を移す。
先ほどまで飛び回っていたレヴィが、砂の少し上に静止してこちらに手招きしたので俺はそちらに向かおうと足を踏み出し______。
「駄目! コージ、危ない!!」
ガリィちゃんが俺の腰のあたりにしがみついて、そのまま砂地を蹴る!
「うおぉう!?」
バクン!
そのまま脱兎のごとく真後ろに引きずられた俺の眼前で『何か』が、口を閉じ生温かい生ごみのような臭いを残し口惜しそうに砂の地面に崩れるように消える!
は!?
あれって…。
久しぶりに左目がうずき、レンブランの記憶が教えてくれる。
「サ…サンドワーム!?」
それにしては、異常にでかい!
あの咬みついてきた頭部だけでも、電車くらいはある!
ガリィちゃんは、殆ど俺を担ぎあげるような形で疾走するが砂地をまるで海のように泳ぐサンドワームは正確に俺達を捕え迫る!
「うにゃあああ! なんでっつ???」
流石のガリィちゃんも、アンドワームの追跡に苦戦しながらもその猛攻を巧みにかわしてはいるがこのままでは埒が明かない!
サンドワームは、砂の中でガリィちゃんの足音を聞いて正確に場所を把握してくるからまずはそれを何とかしないと行けないんだけどさ…。
「コージ! ねぇ! どうしよう…あれ?」
それに気が付いたガリィちゃんの表情が固まる。
「……コージ…赤ちゃんは?」
ガリィちゃんの目に映るのは、手ぶらで揺られる俺。
「わりぃ、落とした テヘペロ☆」
「に"ゃああああ! コージの馬鹿ああああああ!!」
だって、急に狂戦士がトップスピードで爆走すよ?
平均的な人間の筋力で、とっさに対応できませんって!
「ど、何処!? 何処に落としたの!!!」
ふしゃーー! っと、剣幕を露わにするガリィちゃんに俺はへろりと指をさす。
フゴオオオオオオオオオオオオオオ!
そこには、当然砂地をうねりながら追跡してくるサンドワームが。
「に"ゃあああああああ!!」
あは☆
ひきつりながら叫ぶガリィちゃん、ゲロ可愛いなぁ~♪
「た 大変だっつ! 早く、助けなきゃっつ!」
「あ~、大丈夫だって、あの子お腹減ったら勝手に帰ってくるのよぉ」
「コージ! なに言ってるの?? 赤ちゃんは赤ちゃんだよ! しっかりしてぇ!!」
「ああ、ガリィちゃんマジかわいい」
「うにゃぁ! もおおおお! 耳噛まないで! 何とかして!」
もう!
気持ちい癖に素直じゃねーなぁ…って、やばいやばい…また理性がすっ飛びそうになってら…。
現在、俺の脳は赤ん坊を追跡する為サンドワームをコードで可視化して分析中だ。
おかげで例の如く、理性のタガが緩みっぱなしでヤバい。
油断すると、この場でヤリそう…いい加減コードモード使うとこうなる使用さ何とかなんねぇかな?
体が成長した所為か、なんだか一気に性欲が増してる気がしてならねぇ。
…さて、気を取り直そう。
「ガリィちゃん、できる限り距離を保って走ってくれ!」
「う、うん! 早く助けてあげてね!」
邪念を強制的に封じた俺は、脳みそをフルに使て動きまわるサンドワームを数値化し可視化する。
肉眼には、砂を高質化した鱗に覆われた電車なみにでかい獰猛なサンドワームも今の俺には1と0の寄せ集めにしか映らない。
さ~て、俺の王子様はどこかな…っと。
砂地をまるで泳ぐようにうねるサンドワーム、その喉元に…いた!
「ガリィちゃん! サンドワームの喉!」
「わかった! 今行くか______わぷっ!?」
ガリィちゃんはサンドワームに向かって反転するが、急ブレーキでもかけたように殺せなかったスピードの蛇足で体半分が砂に埋もれる!
そして、獲物のそんな状態を見逃すようなサンドワームではない。
フゴオオオオオオオオオオオオオ!
「にぎゃ!?」
「げっ!」
バックりと口を開けたサンドワームが、俺とガリィちゃんの上から降ってく______
ボコっ!
ボコボコボコボコボコボコ!!
迫りくるサンドワームの顔が、まるで内側から急激に膨らみ凄まじい爆発を起こす!
「なっ、なに!?」
俺を抱き寄せたガリィちゃんが、舞い上がる砂埃のなかようやく目を開けサンドワームを見上げた!
が、ガリィちゃんが目の当たりにしたのは先程まで迫っていた大口を開けた頭部が跡形もなく消し飛んでその代りに頭部があったであろう場所には白い光の球体。
「赤ちゃん…?」
ぽかんとしているガリィちゃんに気が付いたのか、その白い光の球体が震え次の瞬間まるで鳥の翼のようなものを生やし一気にこちらに向かって急降下してきた!
「こっじ! まんまーーーーー!」
迫った光の球体は、その寸前でポフンと音を立て見慣れた姿に変化して問答無用で俺たちに突っ込んだ!
ぐはぁっ!
いくら、成長したからって人外たちと俺とじゃ体の強度がっ!
「だいじょぶ? こっじ、まんま!」
俺の胸に飛び込んだ赤ん坊は、短い手で必死にしがみついて背中の羽も震えている。
「赤ちゃん? どうしたの? 怖かったの?」
ただ震える様子に、砂から抜け出したガリィちゃんがそっと頭をなでてやる。
「まんま…やなの! なくなるの、ぼく、もう一人はやぁああああ!」
今度は、ガリィちゃんに飛びついた赤ん坊はその胸に顔をうずめて声を殺して泣く。
勇者。
それは魔王を倒す只それだけの存在。
それ以外に、存在する意味のない只のエネルギーの塊。
自我もなく、決められた行動にのとって繰り返し繰り返し同じことをしては消えてまた眠りにつく。
その事にコイツ自身もなんの疑いもなかった…いや、疑う自我すら持ち合わせてはいなかった…今までは。
俺は、ガリィちゃんにしがみつく小さな背中を二人まとめて抱きしめる。
「…安心しろ、お前もガリィちゃんも必ず俺が守って見せる…だから我慢なんてしなくていい」
「そ、だよ! コージは弱くて脆いけど誰よりも強いんだから!」
ガリィちゃんと俺に挟まれた小さな勇者は、まるでせきを切ったように大声で泣くだけ泣いて後は安心しきったようにカクンと眠ってしまった。
「寝ちゃったね~何だか本当にガリィたち家族みたい_____」
赤ん坊の涙をペロッとなめ取ってしたガリィちゃんが、そう言いかけていきなり顔を真っ赤にする。
「え? なんだって?」
「ぅ…ううん! なんでもないの! もう、放してよコージったら!」
これまでになくらい顔を真っ赤にしながら俺の腕の中でもだもだするガリィちゃん…さっきはレヴィに『鈍い』なんて揶揄されたけど流石に分かります!
いやぁ~こっちも成長してくれて助かったよ…ホント。
『賢者ヨ…取リ込中スマナイガ!』
ようやく追いついたレヴィが、俺とガリィちゃんの眼前にぬんと小さな体をねじ込む!
「うを!? 近! ん、だよもうちょっとくらい_____」
『連レガ追イツイタヨウダゾ?』
レヴィが、俺の背後と指差すよりも早くヒタリと冷たくも切れ味のよさそうな感触が肩口に乗る。
「砂漠のど真ん中で、勇者を挟んでラブシーンかい? 世界の命運が掛かってるってのにいいご身分だねぇ~オヤマダ!」
凛とした中にもどす黒い殺意のこもったカランカの声。
「あ~ら~皆様、呼びもしないのにお早いお付きでぇ~」
そこには、勇者の従者:剣士カランカ、魔導士メイヤ、僧侶リーフベルの最強パーティーが般若の形相で俺をにらみつけている。
そのなかでもメイヤは酷い。
ぼさぼさに乱れた髪に鼻汁よだれ涙目が怒りを通り越してぐちゃぐちゃになってらw
「な"に"す"る"でち"がぁあ"あ"あ"~~~!!」
あー『精霊契約』…やっぱ、解除不完全だった臭いw道理でこんなに早く正確にこいつらが追いついて来たわけだ。
「オヤマダさん…いいえ、賢者オヤマダ」
リーフベルが、ふわりと砂の地面に膝をつく。
「よぉ…」
俺の前で深々頭をたれるリーフベルをレヴィが無言で見下ろす。
レヴィの大事な『王』であった光の精霊獣。
それをあんな無残な状態に追い込んだのは紛れもなくリーフベルの兄、直接的には関係ないと頭ではわかっていてもその感情は契約を結んだ俺にも流れ込む。
「かっかどぅどぅどぅ~…」
晴れ渡った灼熱の空を、コッカスが鶏っぽい鳴き声をあげながら円を描いて旋回する。
「はぁ~…追いついて来たもんは仕方ない…取り敢えず、ずいぶんと離れた場所まで来ちまったからさっきの場所まで戻るとしよう」
俺の号令で、全員が動く。
小一時間ほどで俺たちは、レヴィの指し示した先程の地点まで移動した。
「ホントに此処かい? なーんにもないじゃないさ!」
カランカが、見渡す限りの砂ばかり光景を目の当たりして問うがレヴィはそんなカランカなどには目もくれず赤ん坊を抱いて砂地を凝視する俺の眼前にふわりと舞う。
『…賢者ヨ、魔王ヘ繋ガル門ノ位置ハココデ間違イハ無イ…タダ…』
レヴィの言いたいことは、なんとなく察しがつく。
「おk、おk、大方、『完全体のゆーしゃがいないと門とか現れません テヘペロ☆』とかゆーんだろぉ~あーメンドイ!」
俺の言葉にレヴィが固まり『コレガ賢者ノ力…!』とかほざいてるw
あはw
んな訳ねーだろw
こんなのテンプレじゃんw
◆◆◆
「ガリっ もちゃ もちゃ…ごくん! ブチッ! げふっ! ゴクゴクゴクゴク…!」
「コージ! もっと焼く?」
「ぶじゅぶじゅ! くちゃくちゃ!(時間勿体ねぇ! 生焼けでいいから!)」
「わかった! いくよ~!」
べしゃ!
「…相変わらず喰い汚いねぇ~…」
ガリィちゃんが愛情込めて解体したサンドワームの半生の心臓っぽい肉を、上半身裸で紫色の体液まみれになりながら獣のごとく貪る俺をカランカが冷やかな目で見下ろす。
「うぐぐっ…ごきゅん! …ッさっきまで飲まず食わずだったし…ゴリッ…今から、ひと仕事すんだ…カロリー摂取しねぇと」
ちらりと向けた視線の先には、俺とレヴィの構築した子供用プールくらいはある『魔法陣型数式陣』。
そこには、レヴィ、メイヤ、リーフベルが俺の指示にしたがって魔法陣に魔力を循環させている。
「ありゃ何してんだい?」
「簡単に言うと、俺とレヴィのオリジナル魔法陣に魔力を循環させて結界を弱めてるとこ」
体液まみれの体を拭きながら答える俺に、カランカはますます分からないといった表情を浮かべた。
「結界を弱めたとしても、完全体の勇者でなければ魔王への門は開かない…あそこには7つの精霊石ろはめ込む穴があるはず…しかも精霊石と言えば_____」
「精霊石とは、精霊獣の力を吸収した勇者の体内で具現化される魔力の源…排出には精霊獣をすべて倒し完全体になって後勇者自身が行う必要がある…と」
レンブランの左目は、軋みながら俺知識を見せる。
はっきり言って、俺は赤ん坊を勇者になんてするつもりはないし魔王と戦うつもりもない。
本日はあくまで『話』をしに来ただけなのだ。
「んで? どうするんだい? あの闇の精霊獣を勇者の糧にする…ってのはアンタの主義じゃないんだろう?」
最後の肉を咀嚼する俺にカランカが問う。
「ああ、これからちょっくら門をだましてやるのさ」
俺は、シーツにくるまってすぅすぅ寝息を立てる『勇者』に視線を落とす。
そう、俺は魔王に問わなければならない。
俺は、赤ん坊を抱いて魔力の十分に行き渡った魔法陣の円の中心に立った。
精神統一。
コードモード展開。
俺の中にあるガリィちゃんのコードとレヴィのコードに赤ん坊のコードを重ねて、データのみで脳内に『完全体の勇者』を疑似的に作り上げる。
…こうしておけば、恐らく門とやらは俺を『勇者』と勘違いするはず…って!
なにこれ!?
計算きつぅ~気ぃ抜いたらマジで破裂するか魔法陣が砕けて足場が崩壊するわ!
兎に角…集中…気ぃ抜いたらマジで終わる…。
俺は、聴覚以外の神経をすべて演算に回す。
「ガラリア、あたしゃ認めないよ」
俺の事を心配そうに見つめていたガリィちゃんの背後から唐突にカランカが咎めるように言った。
「…認めない? なんの事?」
その問いの意味を理解できなガリィちゃんは、訝しげに眉を寄せる。
「とぼけるのかい? 可愛げがあるのはいいけど、そんな事ではごまかされないよ!」
カランカはまるで、娘か妹を咎めるようにムッとした表情を浮かべ腕を組んだ。
「なんなの? ガリィ、お前がなに言ってるのかわかんないよ!」
フーッ! っと、不機嫌にしっぽを膨らませたガリィちゃんはギッとカランカを見上げ牙をむく。
「…オヤマダの事だ」
「コージ? コージがどうしたの?」
ガリィちゃんは、ますます分からないとくるんとカールした耳を神経質に震わせ困惑する。
「ガラリア…オヤマダとは種族が違うんだ…アンタがいくら思ったってどうこうできる事じゃないんだよ…」
カランカは、膝をついてその大きな手でガリィちゃんの肩を抱きそっと抱きしめため息をついた。
「いくらレンブランがアンタをオヤマダに託したからって、それとコレとは違う…わかるだろ?」
「ぶぶ?? なに? 放して!」
抱きしめられたガリィちゃんは、カランカの弾力のあるくぼみにはまりあぷあぷもがく。
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