鍍金の賢者④

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 暗く淀んだ空間。


 音も光も無く只、混沌と渦巻く時が堪えず繰り返されるだけの何も生み出す事無い『無』。


 それが、___の鎮座する場所。


 どさっ。


 上の方から何かが落ちる。


 ああ、またか。


 むくりと起き上がったソレは、コツコツと足音を立てながら___の前に立った。


 ソレは、無言のまま手に持っていた光り輝く剣を振り上げ___の体を破壊する。


 ソレと__の体は瞬く間に飛散し、またこの世界時が"巻き戻されて"いく。


 飛散した体は、小さな塊に戻りまた同じ場所で鎮座する。


 また時が満ちるまで、混沌を喰らいながらソレが現れるのを待つ事になるだろう。

 ___はナニか?


 アレは何故あのような事をするのか?


 それを幾ら考えても答えが出ない…只、全身を貫かれバラバラにされるのはもう嫌だ。


 ___は、生きたい只ソレだけが望みなのに。


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 「うおっと!?」


 「うにゃ!? コージ足元きおつけて! あっ! そこにも小石があるんだよ?」


 真っ暗な、一寸先も見えない洞窟でガリィちゃんに手を引かれる。


 こうも暗いと俺とコッカスは目が利かずやむなく赤ん坊を抱いた俺はガリィちゃんと手を繋いで、荷台を引いたコッカスはカランカに手綱を引かれてガラガラと漆黒に包まれた洞窟の中を練り歩く。


 明かりが欲しいと思ったが、どうやらガリィちゃんを含めほかの連中はこの暗闇にも関らず全く気にしない様子…なんで見えんの?

 生物学的に構造が違うのか? 誰か一人眼球くれないかな? じっくり解剖してみたい…。


 なんて自分でもクレージーな事とか考えてみるw


 しっかしマジで暗いな~…。


 あまりの暗闇に荷台に乗っておこうかとも思ったが、コッカスがかなり神経質になっているので出来るだけ荷物になる事は避けようと全員歩きな訳だけけど…。


 ガッ!


 「いって~~~~~!?」


 靴の上からだと言うのに、足の小指に激痛が!!!


 「に"ゃあ!? こっ、コージ! なにしてるの! わわっ、赤ちゃんガリィがだっこするよ!」


 片足で跳ねる俺の腕から、赤ん坊の重みが消える。


 「情けないね~このくらいで周りが見えなくなるなんて、どんだけか弱いんだい?」


 カランカのせせら笑う声が洞窟に響く…何この屈辱感!


 何なの? 

 何で見えんの!

 ったく! 

 この人外どもが!!!


 「ほら、おいでコージこっちだよ」


 ガリィちゃんに、小さな子供のように手を引かれる俺をメイヤもリーフベルもクスクス笑って見ているのだろう…。


 恥ずぃ…俺、いま絶対変な顔してる!


 ガリィちゃんに手を引かれながら、俺は洞窟の壁に手を当てる。


 洞窟と表現するには、あまりに凹凸のないつるつるの壁…どちらかといえば人工的なトンネルに近い。


 「あ~あ~コージの焼いたお肉たべたかったなぁ~」

 「冗談じゃないよ! あんな気持ち悪いの出されてまたるもんか!」


 ガリィちゃんのぼやきに、コッカスの手綱を引いていたカランカが憤る。


 「少し、もったいなかったわね…」

 「本気れちか!? リーフベル!?」

 「勘弁しとくれ! …まったく跡形もなく吹き飛ばしておいて正解だったよ」


 カランカは、溜め息をつきならが言った。


 そう、カランカは魔王の魔力で暴走した巨大な牝牛型の『森の番人』を跡形も無く吹き飛ばした。



 『大地の双剣』


 地の神オオコトヌシ・地の女神ハニヤマヒメの加護を受けた二つで一対の大剣。


 その強力な魔力の為、いつもはカランカの体内に封印されている。


 その威力たるや、あらぶる巨大な牛の乳房などものともせず大地をさらいエルフ領を遮る山脈にこんな馬鹿でかくクソ長い穴をあけた。


 カランカの手ごたえでは、向こう側のエルフ領まで突き抜けているとの事…まーじーでーすーかー????


 姉御マジ怖ぇぇぇ~今後逆らうのはよそう…わりとマジで。


               ◆◆◆


 どれくらい歩いただろうか…俺にとって、永遠に感じた漆黒の闇の向こうに点っと光が見えた。


 「コッ! コココ!!!」


 コッカスが歓声をあげ、手綱を引いていたカランカの前に出ようとする。


 俺たちは、調子を取り戻したコッカスの引く荷台に乗り込み遠くに見える光を目指した。


 「う"!」


 眩しさに俺は思わず目を閉じる。


 「なんだい? 今度は眩しくて物がみえないのかい?」


 「うるせっ!」


 目を覆いながら悪態を着く俺を、カランカが鼻で笑う。

 

 「さぁ、みなさん着きました…ようこそエルフ領へ」


 リーフベルの鈴を鳴らすような声に、俺はようやく光に慣れた目を薄く開ける…おお!


 目に飛び込んで来たのは、深緑の森。


 先ほどの悪夢の森とは大違い、マイナスイオン満ち溢れ…うぷっ!?


 俺は、突如襲ってきた吐き気に慌てて荷台の外に飛び出して胃の中のモノをぶちまける!


 と、言っても赤ん坊にカロリーを吸い尽くされすっかり消化の終わっていた胃は空っぽのだったでビチャビチャとうす黄色くすっぱい胃液しか吐けない。


 「こっ、コージ!? 大丈夫!?」


 突然の事にガリィちゃんが、俺の背中をバシバシ叩く…って!


 いっ、痛! そこは優しくさすってよ!!


 「どうしたんですか!?」


 リーフベルが、駆け寄ってきてガリィちゃんを押し退けて俺の背中に手をあてる。


 『詩』


 なにやら回復系の術を使っているようだが、俺にはなんの効果もない。


 「う"…無駄だって…ガリィちゃ…リュックもってきて」


 俺は込上げる吐き気の中、ガリィちゃんにレンブランのリュックを持ってきてもらい中から幾つか薬品の入った小瓶を取り出して順序良く中身を飲む。


 ああ、クソ不味い…!


 飲んですぐに効果があわられ、吐き気がすっと引いていき俺はようやく顔を上げる。


 「大丈夫?コージ」


 「ああ」


 深緑の森の木々が、風に吹かれてさわさわ揺れ柔らかな光が差し込み立ち込める清浄な空気が…いや、この森そのものが異物に俺に牙を剥く!


 「リーフベル…この森って…?」


 自分の回復魔法が俺に効かなかったことに呆然としている僧侶に、俺は確信を持って聞いた。


 「え? 此処? この森の事ですか? はい…この森は『加護の森』です。 その昔、この世界を救うべく勇者に力を与える為に女神様が最初に降り立ったとされる森でその名の通り女神様の加護を受けて邪悪な魔物や不浄なるモノを退け浄化して更にはこの森に訪れるだけで簡単な傷や疲弊した体力なんかも回復するんですよ」

 

 リーフベルは、得意気に俺に説明し『すぐに気分も良くなりますよ』と付け加える。


 それは無いな。


 息を吸うたびまるで焚き火の煙でも吸い込んでいるみたいに鼻の粘膜が刺激され、車の排ガスの中にいるみたいに眼鏡越しにすら目がしばしばする。


 拒絶。


 俺は、この加護の森に立ち込める『女神の加護』とやらにとことん嫌われているらしい。


 「何してるんだい! 日が暮れちまうよ!」


 馬車のほうから痺れをきらしたカランカが、不機嫌そうに声を上げる。


 ああ、同感だ。


 早いとここの不愉快な森を抜けたい!


 俺は、ふら付く足で何とか立ちあがり馬車の荷台に乗り込む。


 そんな様子の俺を、リーフベルは訝しげに見詰め首をかしげて後に続いた。


 「お帰りなさませリーフベル様!」


 ようやく森を抜け馬車が止まり、外からそんな声が聞こえてきた。


 少しの停車のあと、馬車がまたガラガラと動き出す。


 「コージ! 街にはいったよ!」


 「ああ…そうみたいだね」


 俺は、未だに不調の体を起こしガリィちゃんが少しまくった幕の隙間から見える街の様子を伺う。


 隙間から伺える町並はあたり一面緑の群集だった。


 無理もない、此処はエルフ領。


 伺える緑の髪に尖った耳の方々は全てエルフの皆様で、それ以外の種族は見受けることは出来ない。


 ふぅん…やっぱ、種族ごとに住むところが別れてんだなぁ…ガリィちゃんの村もこいつ等が兵士を連れて駐屯しなければ獣人しかいなかったしな。


 「こら! あんまり外を見るんじゃないれち! 姿をみらりたらどうするれちか!」


 ガリィちゃんの背中に、まるで背後霊のように佇む銀髪の座敷わらし___もとい、ちびっ子年増魔道士メイヤが不機嫌そうに繭をハの字に歪ませる。


 不本意ながらガリィちゃんと精霊契約をしてしまったメイヤは、制約により契約者からあまり離れる事が出来ないのであんな感じで四六時中一緒にいるのだがずっと無言だったからうっかり存在を忘れちゃってたよ~ww


 「なんでコージにそんなイジワルいうんだよ!」


 ガリィちゃんが、メイヤをキッと睨む。


 「そんな黒髪黒目の種族なんて、臆病なエルフたちがみたら驚いてそうこうげ_______」


 『総攻撃でちぃ!』と言い掛けて、メイヤは恐る恐るそこを見る。


 「エルフは保守的な種族ですから…」


 エルフの僧侶リーフベルは、まるで聖母マリアのような慈悲深い笑みを浮かべているがそこにはなんとも言えない凄みを放っていた。


 「んん…うにゅ…」


 荷台の床に敷いたタオルケットの上で、もぞもぞと赤ん坊が寝返りをうってパチッっとそのライトブラウンの目をあける。


 「うぁ…こっじ? こっじ?」


 寝ぼけているのか、まるで見当違いのほうを向いて俺を探す。


 「おいおい、こっちだぞ~」


 俺は、ひょいと赤ん坊を抱き上げて膝にのせる。


 赤ん坊は、俺を見上げてぱぁぁっと嬉しそうに笑う…おおう!

 

 天使! 天使がいる!!

 

 今はっきり言ってぜっ不調だが、この笑顔だけで幾らか気分も良くなるってもんだ!


 「なぁ、リーフベル…あとどのくらいで着く? 多分もうそろそろコイツに『食事』させなきゃなんだけど俺『からっぽ』なんだ」


 俺が、そういうと『あら、大変!』っとリーフベルはコッカスの手綱を引くカランカにしつこい取り巻きは何人かはねてもいいからスピードを上げるように言った。


 何ソレ、えげつない!

 コイツは本当に僧侶なんだろうか?


 「おっ、おい!」


 流石にまずいと言いかけた俺だったが、時既に遅くコッカスが何か踏んだらしくガタンと荷台が揺れる。


 「ぐふっ♡ 早く食事を…乳児×平凡眼鏡♡ もう少しで完成する…入稿準備を…今度のイベントは…ふひひひ♡」


 『何人たりとも邪魔などさせぬわ~』と禍々しいオーラを放つ背中に、僧侶と言う皮をかぶった腐女子を超えたナニカが見え隠れして…まずい!

 俺と赤ん坊が濃厚に絡む薄い本が生産される前に、どんな手段を使ってでも駆逐しなくては!

 

 「大丈夫だよ!なんだか良く分からないけどコージも赤ちゃんもガリィが護る!」


 俺の思考が漏れ出たのを拾ったガリィちゃんが、パリッと電流を走らせながら言う。


 おふぅ!?


 こんなとこでぶっ放すのはやみて…つか、仮にも仲間を背後から狙うなよ!


 「前はっ…前は、あんなんじゃなかったれち…どうして…女神しゃまがかなしみまち…いっそ一思いに」


 なに物騒なこといってんの!


 どたばたと馬車の荷台で当人は気が付かないまま命の駆け引きが行なわれている中、馬車が急に止まりゴゴゴゴと何か大きな物が引きずられるような音がしてゴウンとぶつかり途絶える。


 「おっ?」


 「皆さん、着きました! 出て大丈夫ですよ!」


 リーフベルの合図を待って、荷台から降りようとした俺のYシャツの裾をメイヤが掴む。


 「まつれち! あんしゃんと勇者にはこりをつけてもらうれちよ!」


 メイヤが、ずいっとそれを俺に渡す。


 「え? ああ…ん? 茶色のローブ?」


 それは、リアルなネコ耳の着いた子供用のローブだ!


 「うう?」


 俺は、全裸の赤ん坊に早速着せてみる…ああ、なんと言う事でしょう!


 「テラかわゆす!」


 「うわぁ~ガリィと同じみたいに見える!」


 え?


 ガリィちゃんの言葉に俺は違和感を覚える…『同じに見える』って、同じ種族に見えるって意味?


 たしかにネコ耳ローブを着た赤ん坊は、ネコっぽく見えないこともないが流石に同じ種族には________


 「あ、コレって…」

 「流石れち、気が付いたれちね! このローブにはこのメイヤ様の幻覚魔法が編みこまれてまち!」


 メイヤは、得意げにふふんと鼻を鳴らす。


 ああ、それでガリィちゃんには赤ん坊が自分と同じ種族に見えるわけか…まぁ、世界を救うはずの勇者がこの状態じゃこんなカムフラージュが必要なのは仕方ない。


 気が付くと、メイヤが眉間に皺を寄せながら俺を見上げている。


 「なんだよ?」


 「やはり、あんしゃんには効いてないれちか…」


 チッと、幼女の外見らしからぬ舌打ちをしたメイヤはローブと一緒に手渡したソレを俺につけるように言う…やっぱりつけないとダメか…。


 俺は残されたこの『黒いネコ耳カチューシャ』を溜め息混じりに自分の頭にはめる。


 うう、ネコ耳は好きだ萌えるけど自分がつけるのはこんなにも不愉快だとはっ!


 こんなの比嘉に見られたら…いや!


 あいつの方がもっとヤバイから大丈夫!

 なんせ自分の姉の下着を着用するような変態だ俺なんてまだましだ!!!


 そう自分に言い聞かせてふと急に黙ったガリィちゃんの方をみる…そんなに酷いのか?


 「…どうしたの急に黙って…そんなに変?」


 そう聞いてみると、ガリィちゃんはぶんぶん首を振る。


 「ううん! そんな事ないよ…コージなんだかお兄ちゃんみたい…」


 ガリィちゃんは金の目を潤ませて、俺にひしっと抱きついた…おおう?

 嬉しいような嬉しくないような…。


 「ふむ…その髪の色だけは誤魔化せなかったれちか…まっ、突然変異の個体っていっておけばいいれちね」


 メイヤは、頷きながら何処からか取り出した分厚い革紙のつづりになにやら書き込んでる…あ、それ読みたい!


 後でかしてくんないかな?


 そんなこんなしてたら、荷台の外から痺れをきらせたカランカが『さっさと出てきな!』と怒鳴ってきた。



              ◆◆◆



 ぎゅるるるるるるるるる~…。


 「全く、節操のない腹だね」


 「しょうがねーだろ!」


 エルフ領の誇る女神クロノスを祭る大聖堂。


 その、白亜の鉱石で出来た美しくも荘厳で厳粛な空気に包まれたクソ長い通路に響く俺の腹の虫。


 すれ違う、僧侶と思しきエルフたちは此方に挨拶しながらも一応に繭をひそめる。


 「先ずは食事です、もう少しで食堂ですから頑張ってくださいね」


 前を歩く僧侶と言う肩書きの腐女子を超えたナニカはグフフフっと、その背中から相変わらす禍々しいオーラを放つ。


 ここ、仮にも神聖な場所だよね?

 誰かあの聖職者の皮をかぶった悪しき者に天罰とか落とさないの?


 …まぁ、女神になんて期待する方が間違いだけど。


 リーフベルの案内で、俺たちは突き当たった先の木製の女神を象ったレリーフの彫られた開き戸の中に通された。


 上手そうな匂いと目の前に広がるのは、ざっと100人ほ度はゆうに超える大勢のエルフたちが縦長のテーブルに腰掛け食事をする姿。


 ざわっ!


 その場にいた僧侶と思われる白いローブに身を包み、各々に食事をとっていたエルフたちが一斉に此方を見て動きを止める。


 そして、『リーフベル様がお戻りに…』 『ああ、遂に…』 『儀式を…』 など口々にひそひそ呟く。


 にしても、さっきからと言うかこのエルフ領にはいってからずっと気になっていたのだがエルフたちは________


 「会い変わらずすがすがしいくらいに無視されてるねぇ…」


 「全くれち!」


 憤慨するカランカとメイヤに、リーフベルはすまなそうに『保守的な種族ですから…』と呟く。


 やっぱりか。


 ずっと気になってきたこと、それはエルフたちが誰一人リーフベル以外の俺やガリィちゃん含め仮にも勇者の従者であるはずのカランカとメイヤに挨拶しない…というかまるで空気のように無視する。


 「『エルフ以外は女神の民にあらず』だっけ? それは思想的にどうかとあたしゃ思うよ!」


 「はぁ…えっと…」


 困ったように微笑むリーフベルとカランカの間にメイヤが割ってはいる。


 「仕方ないれちよカランカ、そえかエルフの『教えと理』れち他の種族が口出しはできんれちよ」


 話の内容にレンブランの知識をプラスして説明すると、このエルフの国フリージア教国の定める『国の宗教』女神クロノスを最高神とした『俗称:女神教』では女神クロノスが勇者に力を与える為最初に降り立った地であることと最初の勇者がエルフであった事から己の種族が『女神に選ばれたこの世界で最も尊い存在である』という思想のもと構成された宗教であると…ふっw


 何ソレw バカスww


 俺とガリィちゃんは、そんな会話をする三人を尻目に空いていた席にさっさと座った。


 だって、今まで大人しかった赤ん坊がなんだか不機嫌になって来たしなにより腹が減って死にそうだ。


 それに、そんなカルト的宗教とかどーでもいいー。



 信じるものは救われる。


 信じないものは切り捨てる。


 仮にも『神』を名乗るなら全てのものを平等に扱えよ、自分のファン以外そう無視とか…まぁ宗教なんてそんなも______ぐぎゅるるるるうる~。


 ああ、も 限界 


 「うにぁ!? コージ!! しっかりしてぇ!」


 「う? こっじ? ううう~」


 ふふ…ネコ耳の金とブラウンの天使が見え…やばい召されそう。


 低血糖を引き起こし朦朧とする俺の口に、パンと思しき物がねじ込まれる。

 正直硬いしあまり美味しくないがこの際なんでもいい!


 「ガツガツ…ごっく…ブッチ!」

 

 「どうぞ、スープです」


 コトンと置かれたマグカップをすかさず奪い、ゴッゴッゴッゴっと一気に飲み干す!


 あ、スープがぬるくて助かった…つーか味薄っ!!


 糖類の塊であるパンと、うっすいコーンスープ的なスープのお陰で狭まっていた視界がようやく開けてきた。


 「パンとスープなら山ほどありますから…肉類は無いですけど」


 リーフベルはすまなそうに言い、俺の目の前に黒ずんだ固いパンを山のように積みスープは鍋ごと果物は適当に切ったものを大皿に。


 この情景に、エルフ以外スルーしてきた僧侶達も目を奪われる。


 「全く、どれだけ喰えば気が済むんだい?」


 パンの山の向こう側にいると思われるカランカが、呆れたようにいう。


 「うもも、もううもぎゅっももももう(あんたも、自分の子に授乳させる頃にわかるさ)」


 そういうと、山のむこうから『馬鹿言ってんじゃないよ!』って…つか、何で今の聞き取れてんの!?


 俺の喰いっぷりに、危機感を覚えたリーフベルが修道女と思しきエルフに追加を頼む。


 「あっ、あの、リーフベル様…此方の獣人の方々は一体どういったご関係なのですか?」


 パンとスープの追加を頼まれた修道女は、訝しげに繭を潜める。


 無理もない、世界を救う勇者ご一行様には女神に選ばれた者しか同行出来ないのだメイヤやカランカ以外の従者がいるはず無いと言いたいのだろう。


 「あ、えっこっこの方々は…」


 上手く説明できずしどろもどろになるリーフベルの様子に更に訝しげな表情をした修道女だったが、突然『ああ、そう言う事でしたか』と急に納得したように微笑んだ。


 「聖地での洗礼希望の方々ですね! この度はおめでとうございます!」


 今まで多種族は無視といった感じだった修道女が、にっこり微笑み人が変わったように好意的になる。


 「ごきゅ?」


 かったいパンが、喉を這うように通るのをスープで流し込む…何? どゆこと?


 「ねぇ、コージ…センレイって、な_______むぐっ!?」


 「え、ええそうなんですよ! 洗礼! 洗礼を受けに来たんですよ! あはっははは」


 リーフベルが、喋りかけたガリィちゃんの口にパンをねじ込み黙らせ乾いた笑い声を上げた。


 「明日は満月ですし、洗礼にはこれほど良い条件はありません! どうぞお幸せに…来世ではきっと我が種族の同房に転生される事とをお祈りしております!」


 修道女は、『お代わりおもちしますね!』そう言ってぺこりと頭を下げるとその場を走り去ってしまう。


 「ごくっ…なんなんだ?」


 心なしか、周りのエルフたちからの視線も優しくなったような…。


 「ふぐっ…ごくっ、けふけふ! なにすんだ! もごっ!?」


 「後で説明しますから今はだまっていてください!」


 パンをねじ込みながら凄むリーフベルに、ガリィちゃんは耳を畳んでコクコク頷く。


 おお、僧侶が狂戦士を気迫でまかしたぞ! パネェ!


 「うう~こっじ! こっじ! まんまっまんまぁ~うえっええっつ」

 

 俺の膝の上でライトブラウンの目にいっぱい涙を溜めた赤ん坊が、空腹に耐えかね遂に泣き出す。


 「おい! なんだよ、我慢したのか? ほら、いいぞ来いよ」


 ぶちゅぅぅぅぅぅぅうぅうぅぅぅ!


 ざわっ!


 突然の公開ディープキスに、僧侶達がざわめく。



 「なっ! 何やってんだい!!」


 「TPOをわきまえるれち!」


 「ぶしゅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 「う"に"ゃぁぁぁぁ!! 血ぃ! 血がぁぁぁ!!!」


 リーフベルの鼻血をもろに浴びたガリィちゃんがパニックになり、若干光り始めた赤ん坊を隠すようにメイヤが自分のローブをかけカランカが俺の頭を叩く!

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