狂戦士

狂戦士

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 ああ…またこの夢。

 僕は、じりじり痛む頭を抱えた。


 いや、『夢』というには少し御幣があるかもしれない。


 僕は、いつものように真っ暗な空間に立っていた。


 目の前には、青い半透明の球体。


 中には、羽をもがれ背中から血を流し横たわる小さく哀れな精霊。


 名前はリリィ。


 時と時空を司る女神クロノスの加護を受けた精霊。


 僕らの関係は、魂を混ぜ合わせる事で僕を主、リリィを従とした契約__『精霊契約』を交わした間柄だ。


 正に僕らは、『一心同体』。


 互いに離れる事は出来ず、どちらかが死ねばもう一方も死ぬ。


 本来、精霊契約は契約に十分な素養を兼ね備え何より契約する精霊との信頼関係が必要になるが、僕とリリィの場合は違った。


 姉さんを連れ戻す為、羽をむしり契約を迫る僕を前に相手に直接攻撃する術を持たないリリィは精霊契約に応じることで素養の無い僕の自滅を計ろうとしたが僕は乗り越えた。


 これは、リリィにとってかなりの誤算だっただろう。


 結果。


 魔力も気力も持たない僕と契約した哀れな精霊は、傷も枯渇した魔力も回復することは出来ず未だに血を流し続けている。


 契約者が魔力を持っていないんだ、回復できる訳も無い。


 さて困った、今回ばかりは精霊の力が必要になると言うのに。


 ガイルを体よく寝かしつけた僕は、ミケランジェロに乗り一人崩落したエルフ領の首都へと向った。

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 「う ぐすっ…ふううぅぅぅぅ…」


 俺は、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくるリーフベルの背中をさすっていた。


 「おいおい、泣くなよぉ~」


 泣きじゃくる女ってのは、そそる…そそるけども!!


 もっと泣かせてやりたいと言う湧き上がるような衝動を抑え、目の前の美少女エルフを慰める。


 兎に角、誤解を解かないと…これ以上追い回されるのはごめんだ!!


 「悪かったよ…言いすぎたよ…」


 ポンポンと、背中を叩く。


 「ぐすっ…いいえ、貴方には感謝しています…」


  涙で腫れあがった深い緑の瞳が、俺を見上げる。


 「貴方はっ…ぐじゅっ…私の長年の心の闇を消してくれた…いいえ闇で無いと教えてくれた」


 リーフベルは、そっと俺の手を握る。


 「おおう…!? いやっ、参ったなぁ~」


 が、俺を見上げる瞳から大粒の涙が零れた。


 「貴方は恩人です、ああ…でも、でも…女神様は何と…」


 不意に伸びた手が、俺の首筋に触れた。


 「うわっ!」


 ひんやりとした感触が皮膚を撫でる。


 「使命の為には、恩人の貴方を殺さなければならない…!」



 は? しまっ________



 「コージ!!!」


 俺の背後から黄色い閃光が奔る!


 「がはっ!??」


 俺の手の触れていたリーフベルの体がビクンと跳ね、白目を向いて真後ろに倒れた。


 え? 何?


 「動くな!!」


 振り向くと、レンブランがコッカスに跨り決死の表情を浮かべ猛然と此方に向かってくるのが見える。


 んう?


 何でそんな顔してんだ?


 「レんっごぶしゅ!?」


 あれ?


 「ゴッポッ! ブブブッ!!」


 俺の言葉は、まるで炭酸飲料をストローで吹いたようにゴボゴボとおよそ声とは言えない音に変わる。


 俺は、自分の首に触れた。


 手は鮮やかに赤く染まり、ポタッと雫が朝露に濡れた草に落ちる。


 いつの間にか、コッカスから飛び降りたレンブランがブクブクと赤い泡を吹く俺の首筋に素早く手を当て押さえつけた!


 あっコレ。


 ガチでヤバイやーつーwwwww




                 ◆◆◆



 「かはっ!! ごほっ! ごほっ!」


 朝露の匂いの漂う爽やかな森でDrレンブランによる開放的な手術が、麻酔無しの激痛の中修了した。


 「ふぅ。 大丈夫、傷は塞さいだよ~全く無茶するなぁ~」


 レンブランは、俺の首から余分な糸を切った。


 皮下20針。


 頸動脈縫合、声帯の修復及び器官からの血液の摘出。


 うん、激痛とか生易しいもんじゃなかったね!


 日本語って痛みに対する単語もっと増やした方がいいと思うよ!


 てか、何なの? 何で麻酔とか無いの?


 つーか! 


 この世界に来てからというもの、キバだらけの巨大ニワトリに脇腹かじられ内臓デデ~ンの挙句今後は頸動脈ザックリってか!


 何なの?


 俺、この世界にとって完全部外者だよね?


 俺、ゆーしゃとか違うし!


 まおーとか知らねーし!


 この世界が滅ぼうが関係ねーよ! 


 マジ帰りたい!!



 ぶちっ。


 「げふっっ!?」

 「あっ、ごめ~ん」


 顔が笑ってるぞ!

 この、マッドサイエンティストめ!!


 「は なせ よ」


 俺は、両腕を踏みつける巨大ニワトリを睨みつけた。


 「コッコココッココッ」


 コッカスは、さも愉快そうに喉を鳴らす。


 この野郎~…いつかチキン南蛮にしてやんぞクソが!

 

 「どけて、コッカス!」


 レンブランの命令に、コッカスは渋々太い足の指を退けた。


 「で マジ……かんべん…」


 「喋んない方がいいよ」


 Drレンブランは、縫いつけた傷に謎の薬を塗りこむ。



 「あち"ち"ち"…」


 「全く! コージは無茶する…こんなに脆いのに」 


 レンブランがぶちぶちと、小言を言いながら俺の首の傷を観察する。


 そうだ…リーフベル…は…?


 「ああ、彼女ならほら」


 俺の表情に察したレンブランが、顎で指す。


 そこには、何処から持ってきたのかぶっとい鎖でグルグル巻きにされたリーフベルが見えた。


 「だいじょぶ なのか?」


 「呆れた~首切られたのに敵の心配?」


 レンブランが呆れて様にため息をつきながら、俺の首に包帯を巻く。


 「ホント、コージってお人好しだね…今までどうやって生きてきたのさ!」


  ギリッっと包帯がきつめ巻かれた。


 「今、君に死なれる訳には行かないんだよ」


 え?


 緑の瞳は何処か、思いつめたような色を浮かべた。


 それって、どういう______



 ぺた。


 俺の頬に冷たいモノが触れる。


 「あーうー」

 「こら、駄目だよ! コージは怪我してるんだから!」


 亜麻色のふわふわの髪に、それと同じ色の瞳が嬉しそうに微笑み俺の頬を叩く。


 黒い箱から救出した赤ん坊は、顔色こそあまり良くないが小さな手で地面を掴み______?


 え?


 もう、ハイハイ出来るの?

 赤ん坊ってこんなに早く育つモンだっけ?


 「あなた達…こんな事をして、タダで済むと思ってるの!」


 少し離れたところで、ぶっとい鎖にぐるぐる巻きにされているリーフベルが俺たちを睨みつける。


 「へぇ~」


 レンブランが、俺の頬に触れる赤ん坊を抱き上げた。


 「この子、本当に『勇者』なんだね~」


 赤ん坊は、嬉しそうに手足をバタつかせる。


 「アナタ! どういうつもりなの?」


 リーフベルは、此方を睨み付けたままもぞもぞと体を動かしどうにか体を起こす。


 「…ボクの部屋見たんだ? 酷いなぁ…」


 ゾクっと、背筋に冷たいものが走る…!


 なんだ?


 レンブランの瞳から、先ほどまでの『優しさ』が消え失せる。


 「あーうー」


 あどけなく微笑む赤ん坊の首に、レンブランのふくふくとした手がそっとそえらえた。


 「な!?」


 「動かないで、少しでも妙な真似したら『勇者』が死ぬよ?」


 レンブランは、微笑んだままリーフベルを見据える。

 

 「じ、自分が何をしているか分かっているの!? もし! 勇者に何かあれば世界が…このイズールは!!」


 「…くくく…あはははははは!!!」


 「な、何が可笑しいの!」


 突如、笑い出したレンブランにリーフベルは怪訝そうに眉を寄せた。


 「分かって無い! 君達は何も!!」


 レンブランが声を荒げた瞬間、森の木々の隙間からその背後に赤い炎の塊が放たれた!


 「あぶねぇっ!!!」


 地面に転がっていた俺は、何とか立ち上がり迫る炎の塊の前に立ちはだかった!


 ゴウウウウウウ……フシュン!


 炎は、俺の眼前にせまった瞬間飛散して消える。


 「え? こ_____」


 俺は、振り向きざまに渾身の力を込めてレンブランをぶん殴った!


 ガクンっと、レンブランの頭がのけぞりその体はバランスを崩す!


 俺は、力の緩んだふくよかな腕から赤ん坊をもぎ取るように奪った!


 「何考えてんだーーーーー!!!」


 「い…痛いよ、コージ」


 レンブランは、さも痛そうに拳のヒットした鼻をさする。


 「嘘付け! 効いてねーだろ?」


 俺の右手は手首からズキズキと痛む…レンブランの顔はまるで分厚いタイヤを殴ったような感触で拳の方が負けてしまったらしい。


 全力で殴ったのに、レンブランにはダメージらしいモノは感じられないなんて…化物かよ。


 「やだなぁ~冗談だよ~」


 「目がマジだったぞ!」


 レンブランが、取り繕うとするが流石の俺も今しがたこの獣人が何をしようとしたかくらいは分かる!


 レンブランは、赤ん坊を殺そうとした________!


 「あ、次が来るよコージ」

 「げっ!!?」


 先ほど、炎が放たれた場所から今度は先端の鋭く尖った巨大な氷の塊がまるでミサイルのように此方に向ってくる!


 「うほぉぉぉぉぉ!?」


 ゴカッ! パキィィィィィィン!


 炎の時と同じく、氷も俺の眼前で飛散し砕け散る。


 「ふわぁぁ~流石だねコージ!」

 「流石じゃねーよ! マジびびるから!」


 俺とレンブランは、炎と氷が放たれた方角のひときは太い木を凝視した!


 しんと、静まり返った森の木々を風が揺らす。


 ジャリ。


 「「!?」」


 背後からした金属音に、俺とレンブランは振り向く!


 そこには、鎖で簀巻きにされたリーフベル____の傍らにいるのは?


 リーフベルの背後にしゃがむ影。


 アレで隠れているつもりなのか、ボロボロのローブの裾にフワフワの髪がリーフベルの腰の辺りからはみ出ている。


 「っ…逃がさないよ!」


 レンブランの手の平から、黄色い閃光が放たれる!


 「____光の道、我求む道を示せ____てっ転移れちっ!」

 

 フシュンと二人の姿が消えたのと同時に、閃光が地面を叩いた!


 「空間魔法…流石『鍵』なだけあるね」


 レンブランは、冷たい声で言うとくるりと俺の方を向いた。


 「れ レンブラン」


 「じゃ、ボク等も行こう。 魔法専門のあの二人ならともかくあの大剣の女騎士に襲って来られたら厄介だからね」


 パシ!

 

 差し出されたレンブランの手を思わす払い、俺は後ずさった!


 「コージ?」


 「お前、なんか恐ぇよ! 一体何で!」


 俺は、腕の中の赤ん坊をしっかりと抱き寄せる。


 「『恐い』 ボクが?」


 ふっと、呆れたように目の前の獣人は笑う。


 「大丈夫! ボク、その子の事は殺すかもだけどコージの事は絶対に殺さない…必ず守るよ?」


 獣人は、まるで小さな子供を諭すようにゴロゴロと喉を鳴らす。


 な…何言ってんだよコイツ…?


 「だって、コージは魔力も無いし体だって脆いし武器としては魔力に対して一切影響を受けない事だけど…ソレは同時にその『恩恵』にも預かれないって事みたいだし、その子抱えてたんじゃ『友達』を探す所か生き残れないよ?」


 『さっ』と、小さく呟き獣人はそのふくよかな手を俺に伸ばす。


 「答えなんて分かり切ってるじゃない? 手を取ってよコージ!」


 レンブランの言う通りだ。


 悔しいが、俺一人では赤ん坊を抱えてなくたって到底生き残れない。


 ましてやこの状態で、二人を探す事なんて無理だろう。


 あ"あ"!!!

 霧香さん! 比嘉ぁ…何処に居るんだよ!


 俺は、差し出されたふくふくしい手を取った。


 「いい子だね、コージ」


 レンブランは緑色の瞳を細くした。


 「ああ、お前の言う通り俺は一人じゃこの世界で生き残れねぇ…そういう意味で本当に世話になってるし感謝してる…けどな_____」


 俺は、満足げに微笑むレンブランの手をありったけの力で握り返す。


 「もし、この赤ん坊に何かしてみろ…お前を絶対に許さねぇ…!」


 「うん、わかった! 気おつけるよ」


 レンブランは、にっこりと人懐こい笑みを浮かべた。






              ◆◆◆



 「あーうー…」


 俺の腕の中で、赤ん坊は力なく笑う。


 「ねぇ、コージ」


 コッカスの手綱を握るレンブランが、前を見据えたまま振り向かず俺に話しかける。


 「その子、放って置いても長くは生きられないと思うよ」


 「っ!」


 レンブランは、悪びれも無く言った。


 「そんな顔しないでよ~『勇者』であるその子が何でそんな中途半端な状態なのか知らないけど、食べ物を摂取できない以上『生物』として生命維持が困難なのは仕方ないじゃないか!」 


 レンブランは間違っていない。


 ついさっき殺しかけたとは言え、その前は徹夜でコイツの食えそうな物探してくれてたし…たぶんやれる事は全部やってくれたんだと思う。


 けど!


 顔面蒼白の赤ん坊は、もはや虚ろな瞳で俺を見上げる。


 多分…コイツがこんななのは、俺の所為だ!


 四角い箱の中での事を思い返しても、この赤ん坊が入っていたあの植物のようなものは俺が触れてから発動したとしか思えないし姿形がこの世界に存在しない筈の人間と変わらない事からほぼ間違いないだろう。


 「なぁ、何か他に栄養を取らせる方法とか無いか? そう…例えば点滴みたいな!」


 「テンテキ? なにそれ? 聞いたこと無い! どんな方法なの?」


 前を向いていたレンブランは、こちらを向き興味津々に瞳を輝かせる!


 「え~っと、何て言うか…栄養の入った袋とかから管と針を使って直接流し込むみたいな?」


 「何それ! 超斬新!! え? 腕とかに刺して血以外の物を体に直接入れるって事!?」


 ぐいぐい食いついてくるマッドサイエンティストは、もはや前など見てはいない!


 「前見ろよ! それに、ちゃんとそれ様に作られてる物だから! いきなりそこら辺の物注射したら死ぬって!」


 な~んだ、っと言うとレンブランは再び前を向き少し考える素振りを見せた。


 「…少し違うけど、栄養というか生命力を分ける方法なら…在るには在るけど…」


 「マジか!?」


 「けどね、治癒魔法はボク使えないしとなると…やっぱり…」


 レンブランは、言葉を詰まらせる。



 「勿体つけんなよ!」


 「…与えればいいんだよ…生命を『命』そのものをね」


 は?

 命を与える? 


 「あんまりお勧め出来ない方法だよ、与える側は寿命削れるし受け手との相性が悪かったらそれこそ両方死んじゃうかもだからね」


 「それってどうやんだ?」


 「ええ? まぁ…一般的にには術式描いて手かざしかな? もっと効率よくするなら口移しとかだけど…って! うえぇぇぇ!?」


 嫌な予感がしたレンブランが振り向くと、そこには赤ん坊にディープキスする俺の姿があった。


 「ちょっとぉぉぉ! 何考えてんさぁぁぁぁ!!!」


 レンブランは、走らせていたコッカスを急停止させる!


 そして、なおも赤ん坊から唇を離さない俺に、ため息をついた。


 「コージ、気持ちは分かるけど…そんな事しても無駄だよ『命』を分けるなんてそうそう簡単に_________」


 レンブランは目を疑った!


 突如、赤ん坊が淡く光りだし蒼白だった頬に赤みが戻り力なくうな垂れていた手足が動きを取り戻す。


 「不味い! コージ! それ以上は駄目だ!」


 慌てたレンブランは、俺の腕から赤ん坊を取り上げる!


 じゅぼっと、妙に卑猥な音を立てようやく二人を引き剥がしたレンブランは固まったように動きを止めた俺の頬を叩く!


 バチン!


 「いてぇぇぇ!!!」


 「信じらんない! 行き成りなにしてんの!? ボクの話聞いてた!? 頭に綿でも詰まってんの君!!!!」


 「口ん中切れたじゃねーか!」


 「全く君って奴は_________」


 「きゃっきゃっ」



 レンブランの腕の中で、赤ん坊が笑う。


 「嘘っ!」


 「おお! うまく行ったじゃん!」


 俺は、呆然とするレンブランの腕からすっかり血色の良くなった赤ん坊を受け取り心底嬉しそうに抱きかかえる…何だか知らんが元気そうだマジでよかった~~~!


 「信じられない…! 術式無しで直接生命力を、自分の命を流し込んだって言うの?? でも、コージからは魔力の反応なんて無かった筈だし…何より、ほんの少しでも『自分の命』を消費したって言うのに何でそんなにピンピンしてんのさ!?」


 レンブランが、なんとも言いがたい表情で俺を見る。


 「全く…君には驚かされるよ、コージ」


 目の前で死に掛けてる奴がいて、方法があるなら助けるのは当然だと思うんだが…やっぱり今般的な考え方の違いって奴なのか?


 「…とにかく、その方法かなり危険だからもうやらないでね」


 「え、そうなのか?」


 「…人の話ちゃんと聞いてよね」


 不機嫌そうに眉を寄せたレンブランは、コッカスの手綱を引き走らせる。


 「なぁ? 今何処に向ってるんだ?」


 「う~ん、とりあえず魔力の感じる方向かな~君の友達が空間魔法とかでこの森に飛ばされて来たなら必ず魔力の痕跡が残るからね…」


 そう言うと、レンブランは何やら物思いに深けているのか黙り込んでしまった。


 俺は、赤ん坊をあやしながらふとましいレンブランの背中を見る。


 この世界に来てから、本当に世話になりっぱなし…てーか!

 

 レンブランにしてみたら村をたたき出されるわ命を狙われるわ人生滅茶苦茶状態になってんだ…きっと精神なんてボロボロだろう。


 だから、赤ん坊を殺そうとするなんて血迷った行動に出ようとしたのかも知れない。


 …早く比嘉と合流して、俺が別の世界から来た事を村の連中やあの女三人組に説明して早くレンブランを元の生活に戻してやらないと________




 ゴロロロロロロ…。


 「?」


 よく晴れ渡った青空に鳴る不釣合いな音に、俺は西の空を見上げた。


 西の空には、黒々とした雨雲が見えるんだけどソレはパリパリと音をたて雷と思われる黄色い筋がまるで生き物のように雲中を走り回る。


 なんか変じゃね?


 雨雲にしては、規模が小さいように思えるし色だって黒すぎるそれに________


  カッ! と、一瞬空が白く染まる!


 「っ!?」



 ほぼ同時に、まるで空を砕くような轟音とともに大気が揺れ衝撃で木々がなぎ倒される!


 「うわぁ!?」


 俺は、赤ん坊を抱いたままコッカスの背中から投げ出された!

 

 地面に背中を強打し、俺は呻き声を上げる。


 背中から落ちたお陰で、赤ん坊は無事だが衝撃で息が上手く出来ない…。


 「ごほっ! なんでこんなんばっか…!」


 「うあぁぁん」


 投げ出された衝撃に驚き、赤ん坊が泣き声を上げる。

 

 「ごほっ…ゴホッツ! 大丈夫か…?」


 俺は、胸に赤ん坊を乗せたまま何とか上体を起こした。 


 「よーしよし、泣くな~驚いたな~」


 泣く赤子の背中をさすりながら辺りを確認する…いや驚きだね。


 木々はなぎ倒され、土がむき出しなったそこはまるで荒地だ。


 それより、この森にきて二度目の大爆発こんな通常ならありえない異常事態に俺が慣れてしまったと言う事が何よりの驚きだ。


 まぁ、内臓縫われたり首切られたりとかリアルに死にかけたりしたら大抵の事じゃ驚かなくもなるわ!


 それにしても一体何が…あっ!


 レンブラン!

 それとあのクソ鶏! 何処行った!?


 辺りを見回すが、レンブランとコッカスの姿が見えない。


 「レンブラーン!」


 取り合えず、大声で名前を呼ぶ。


 もし無事なら俺に見つける事は出来なくても、ぎゃん泣きする赤ん坊の声たどってレンブランなら直ぐ此方の位置が分かる筈だ!

 

 パキッ!


 背後で枝の折れるような音がした。


 「良かった! 無_________」


 振り向いた俺は、時が止まった様に固まる。


 だって、振り向いた俺の目の前にいたのは金髪の腰まである長い髪をなびかせくるりとカールしたけも耳にふさふさの尻尾の全裸の美少女。


 しかし、何故だろう?


 全裸であるにも関らず、全くエロスを感じないだと!?


 俺は不能にでも成ったんだろうか?


 「グルルルルルルルルル…」


 けも耳全裸少女が唸り、視線が俺を捕らえ金色の瞳には無数の赤い血管が走る!


 あ。


 死んだコレ。


 「駄目だ!」


 俺の眼前にふとましい背中が割ってはいる!


 「レンブラン!」


 今にも飛び掛って来そうな全裸少女の前に立ちふさがったレンブランは、身じろぎ一つせず相手を凝視する。


 「ガリィ…ボクだよ! 分かる? お兄ちゃんだよ…!」


 丸い背中は、苦しそうな今にも泣き出しそうな震えた声で少女に言った。


 「ガリィ…!」


 レンブランは、唸り声を上げる全裸少女にじりじりと近づく。


 お兄ちゃん…って…?


 俺は、村の牢屋で聞いた筋肉マッチョの言葉を思い出した。


 太い足がずずっっと、地面を進むたび血走った金色の瞳が険しさを増す。


 「ぐるるるるるるるぅぅぅぅぅぅ!!!」


 バチィ!


 レンブランが、手を伸ばし頬に触れようとした瞬間派手に弾き飛ばされる!


 「っ!」


 「おい! 大丈夫かよ!」


 俺は、派手に吹き飛ばされしりもちを突くレンブランに駆け寄った!


 「大丈夫…!」


 苦痛に顔を歪めうずくまるレンブランの右手が、激しく焼け焦げ所々炭化している!


 「うわっ、ひでっ! 何処がだ大丈夫だよ!?」


 けも耳全裸少女は、唸りながら一歩また一歩と此方に向ってくる!


 「そんな…! 早すぎる!」


 自分の怪我の苦痛など、気にも留めていないように緑の瞳は迫り来る金色を切なげに見る。


 「おい…あのBカップ、妹なんだよな? 何でお前にこんな事____つーか逃げないとヤバくね?」


 レンブランには悪いが、向ってくる全裸Bカップにはとてのもじゃないが『理性』が在るとは思えない!


 「ガリィ!!」


 俺の言葉に耳を貸さず、焼け焦げた手を妹に伸ばす兄。


 「止めろ! どう考えても危険だ!!」


 赤ん坊を片手に抱え、空いた方の右手でレンブランの肩を掴んだがビクともしない!


 あ"あ"あ"あ"! こんな時にあのクソ鶏は何処行った!!!


 「がああああああああああああああああああ!!!!!」


 全裸Bカップが雄たけびを上げると、森全体が揺れ大気が震える!


 金の髪は逆立ち、その白い肌にはまるで小さな雷のようなものが這いソレが両手の平に集中していく。



 あは★ オワタ\(^o^)/



 妹は、兄とその他向けて両手を突きだす。


 その手に集まった黄色く輝く稲妻の塊は、兄とその他に向けて無慈悲に放たれた。




               ◆◆◆







 迫る黄色い稲妻!


 逃げられないと判断した俺は、片手で赤ん坊をもう一方の手をレンブラン首に回し硬く目をつぶった!


 こうなればもはや、自分の未知なるこの能力に頼るしか無い!


 思わず俺は、『神』に祈った。


 ……………何故か、爆笑されて『テラワロスwwwww』と言われた気がしてムカついた。



 「______聖なる光の盾_____ガディアンシールド」


 まるで歌うようなソプラノが、空間に響く!


 ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


 次の瞬間、強いフラッシュを連発したような目蓋の閉じた目も眩む程の光と激しく何かがぶつかり合うような鈍い音。


 どの位続いたか…ようやく静かになり、俺はそっと目を開けた。


 赤ん坊は、驚いたのかきょとんとした顔をしていたが無事。


 レンブランも黙ってはいたが、回した腕が上下したので息はしてる。


 そして_________。


 「リーフベル? …助けてくれたのか…?」


 レンブランの肩越しに捕らえた鮮やかな緑が真っ赤な顔で振り向く。


 「かっ! 勘違いしないで下さい! あっ、貴方は恩人です! せめて、私の手で殺します! こんな所で『狂戦士』になんか殺させません!」


 『狂戦士』という言葉に、レンブランの左手が微かに動いた気がした。


 「レン________?」


 「止めな、獣人」


 レンブランの脳天すれすれに、大剣が突きつけられる。


 「流石ですね…『大剣の鍵:剣士カランカ』」


 レンブランが冷たい声で言った。


 あれ程の長身とダイナマイツボディにも関らず、こんなにも近づくまで俺はともかく気配に目ざといレンブランに気がつかれないなんて!!


 コレが、『気配を消す』ってヤツかぁ~生で見れるとかマジ感動!


 「コージ、なんでにやけてるのか知らないけどコレかなり不味い状況だよ」


 「うえ!? マジで!?」


 まっ、そらそうだわな…。


 俺たちを殺そうとしてる女たちに加え、何故か理性を失い殺意むき出しのレンブランの妹…うん、助かる気がしねぇ!!!


 「獣人、殺す前にお前に聞きたい事がある」


  脳天に大剣を突きつけたカランカが、殺気に満ちた目でレンブランを見下ろす。


 「もしかして、ボクの研究の事? 説明した所で巨人のそれも出来損ないの亜種なんかに理解出来ないと思うけど?」

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