第十九話 不知火先輩の後継
ある日、鶫が謎の気まぐれでバスに乗って登校したら、拝がいた。
「おはようございます、拝君」隣に立って挨拶すると、
「ああ、おはよう、鷹無さん。今日も学校とか行くのだるいね」
と、やる気なさげな答え。鶫は改めて、拝君は背が低いな、と思った。鶫も小柄なほうだが、拝はそれより頭ひとつほど低い。おまけに竜胆には負けるがかわいい顔をしているので、かなり年下に見えた。この若さが不知火先輩のいらつきを加速させているのだろうということも容易に推測できた。
「鷹無さん、オレの身長低いな、って思っていたでしょ?」
「え? いやそれは、図星なのですけど、そんなことは……」
「いやー良いよ、気にしなくて。オレみたいな低身長な男子は、クラスの女子に『かわいい!』って言われて、『かわいいなんて言われるの嫌だ』っていう人も多いけど、オレはそうじゃないし。快感だし。とはいえ鷹無さんに侮蔑の気持ちがないとは言い切れない……」
「いやないですよ拝君、たぶん」
「そうかな。ならいいけど。オレも大変なんだよ、人生。周りに駄目人間が多くて。この前なんか竜胆のやつと一緒に映画見に行ったら、あいつ『つまらない』と明言しやがってさ。普通そういうことその場で言わないでしょ。あいつは常識なさすぎなんだよ。お先真っ暗だよ」
「え?」鶫は驚いて拝の顔を見た。「竜胆君が誘いに乗ったんですか?」
「誘いっていうか、あいつの方から行きたいって言ったんだよ。だのに『つまらない。僕の食指は虚無的に不動だぜ。疲れた』とか抜かすわけ。あり得ないよね」
「いや不動って言うか、竜胆君こそ不動だと思ってました。彼を朽葉先輩とか秋葉君が誘ってもまったく来ないのに」
「行く必要ないよ、あいつのコミュニケーション能力はマイナスどころか虚数だよ。パブリック・エネミー・ナンバー・ワン、イマジナリー・ナンバー・ワンだよ。もう永久に家でRPGとかSRPGとかTRPGでもやってりゃいいんだよ。オレはあいつの自室にRPG撃ち込みたいわ」
拝君は悪態のつき方とか結構不知火先輩に似てるな、と鶫は思った、確かにこの少年は不知火先輩の言っていた通り、将来の部長候補にふさわしいのかも知れない。
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