第18話「王宮へ」

俺、テランスさん、そしてオベール様、奥様のイザベラさんは、

ヴァレンタイン王国南方の町、エモシオンから、王都セントヘレナまで一気に跳んだ。


転移魔法で飛ぶ感覚は独特のものだ。


俺も転生して初めて転移魔法を体験した時は、

オベール様ご夫婦やテランスさんのように、結構な違和感を覚えたものだ。


しかし、管理神様から授かった俺の身体はレベル99。

とんでもなく頑丈。

順応性も高く、転移魔法の違和感など、すぐに慣れてしまった。

とまあ、説明が少し長くなったが、ようは平気って事。


さてさて!

俺の転移魔法が発動して、ぱっと周囲の光景が切り替わり、レイモン様執務室隣室の控室へ。

つまり、エモシオンへの転移と同じパターン。


すかさず俺は、外へ気配や音が漏れぬよう、

隠形おんぎょうと防音の魔法をかけた。


これで物音や話し声がしても、通路に居る護衛の騎士が気付く事はない。

まあ、レイモン様の部屋なら防音を配慮して造られた構造だとは思うけど、念の為だ。


一方、

「ほえ~」と周囲をきょろきょろ見回したテランスさんが驚き、素直に言葉を発しようとしたその瞬間。


俺はすかさず、


「テランスさん!」


と大きな声で呼び、ちょっと厳しい表情で首を横へ振った。


テランスさんもそこまで、勘が鈍い方じゃない。


慌てて「うんうん」と頷き、言葉が漏れぬよう、口元を引き締めた。


そう、テランスさんは目の前のレイモン様の控室とオベール様の控室を比べ、言葉を発しようとしたのだ。


「いやあ、さすがは宰相様、王族のお部屋は立派だなあ」とか……


……まあ、はっきり言って俺もそう思うし、

そう言われても、今の穏やかな性格となったオベール様ならば、豪快に笑い飛ばすかもしれない。


でも、それは『大人の度量』って事であって、

けしてオベール様が、本当に愉快になる事ではない。


沈黙は金、言わぬが花という言葉がある。

これからいろいろな方と仕事をして行くテランスさん。


余計な災いを招かぬよう、彼を俺の生きる世界へ「引き込んだ」俺が、

いろいろとサポートするのは責務である。


真剣な表情を一転させ、俺がニッと笑って、アイコンタクトを発したら、

テランスさんも「すみません」と、無言で苦笑し、応えてくれた。


ちらっと見やれば、オベール様とイザベルさんは、

控室にあるレイモン様のおびただしい蔵書、渋いながら豪華な調度品を見て、

なごやかな雰囲気で、夫婦ふたり話していた。


うん!

大丈夫!

今日の打合せはきっと上手く行く。


俺は確信し、執務室へ通じる扉をノックしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おう、ケン達か、入ってくれ」


俺のノックに応え、レイモン様のさわやかな声がした。


「失礼します」


俺は返事をし、オベール様、イザベルさん、そしてテランスさんが続く。


オベール男爵家の宰相が俺の正式な俺の本業――まあ、現世においてだが、

レイモン様を始め、妖精王オベロン様、

エルフことアールヴ族の長ソウェル・イルマリ様の顧問でもある。


あ、一応、天界所属の『B級神』でもあったっけ。


さすがにそれは一部の者しか知らないが、最近はドワーフことドヴェルグ族にも正体を明かし、各種族との橋渡しをしている。


皆さんもご存じの通り、エルフ――アールヴ族と、

ドワーフことドヴェルグ族は犬猿の仲だ。


しかし、俺が時間をかけて説得し、管理神様と彼らの祖である妖精の王オベロン様の大きなフォローもあって、和解と交流が始まった。


神様以外の、俺の立ち位置を知るオベール様、イザベルさんは、理解してくれ、

気も遣い、いろいろ応援をしてくれる。

少し前に寄り親がレイモン様に代わって、愛息のフィリップもお目通りが叶い、

大喜びしたのは、記憶に新しい……


と、まあ話がだいぶそれたが……

俺達がレイモン様の執務室へ入ると、キングスレー商会のマルコさんも居た。


事前に話があったし、気配も感知して分かってはいたが、

レイモン様と打合せをしながら、待っていたようだ。


キングスレー商会を動かし、建築、運営にかかわらせる。

やはりレイモン様は、王都の公衆浴場事情を変える事に本気なのだ。


「皆さま、本日は宜しくお願い致します。どうぞ、こちらへお座りください」


丁寧に挨拶し、頭を深々と下げるマルコさん。

俺達を応接のソファへ誘った。

彼がレイモン様の代わりに司会進行をやってくれるようだ。


ここで、満を持してという趣きで立ち上がったレイモン様。


「うむ、では打合せを始めよう」


と、おもむろにおっしゃったのである。

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