第16話「テランスさんがやって来た!」
翌日、昼前に……俺がランチに招待した、
風呂職人テランス・バイエさんは、我がユウキ家へとやって来た。
これまでに複数回、先述しているが……
ボヌール村の移住希望者に関して、俺は厳しくチェックする。
「わけありと緊急の時以外は使わない」と己へ厳しくローカルルールを課した、
読心の魔法をこの時は存分に使う。
移住希望者が提出して来た書類を念入りに見た上、
実際に面接して、その際に答えた内容の真贋をしっかりと確認するのだ。
俺の基本スタンスのひとつ、
ボヌール村の入村前に徹底的にチェックし、不心得者は排除するようにしている。
第三者から「排他的だ」「寛容さがない」「器が小さい」等々言われても全然平気だ。
村長を辞したが……
オベール男爵家の宰相を務め、ボヌール村を統括する俺は、
立場上、性善説を信じない。
やたらめったら人間を疑うわけではない。
だが、世の人全てが善人だと信じ込むお人よしではない。
もしも新たな移住者が意図的にトラブルを起こし、村民に迷惑がかかったら、
まず大部分が俺の責任である。
そして、現在村長を務めるリゼットの責任にもなるからだ。
元村長のリゼット父ジョエルさん、副村長を務め門番ライフワークのガストンさんからも厳命されている。
郷に入っては郷に従えルールを守れない者は、移住は勿論、入村を認めるなと。
そう、ボヌール村のルールを守らず、協調性がない者は、
村では上手くやって行く事は不可能なのだ。
このテランスさんも移住の応募をしてきた際、俺とリゼットが王都へ会いに行き、
人となりを、しっかりと見極めた。
テランスさんは、身体頑健で常識人。
風呂職人として、素晴らしい匠の腕を持っている。
現在、ボヌール村には居ない人材だ。
性格は真面目で熱血漢。
世をすね、斜に構えた部分はあるが、少し、シャイなだけ。
子供好きで、結婚願望はあるが、これまでお相手に縁がなかった独身男子の35歳。
十数年前……俺が来た頃、いろいろあってボヌール村には美少女が多かったが……
何故かボヌール村は女子が多く生まれる傾向。
そして移住者も圧倒的に、若い女子が多い。
という事で、現在も結婚適齢期の美女、美少女があふれている。
論より証拠。
ずっと独身を守って来た、ソフィことステファニーに忠実だったオベール家の従士、アベル、アレクシ、そしてアンセルムのデュプレ3兄弟。
彼ら3人も、ボヌール村へ移住したら、あっという間に全員が結婚してしまった。
その事例が、テランスさんの移住を後押ししたのは、想像に難くない。
前振りが相当長くなってしまったが……
昨夜の事もあり、更に心の距離が縮まったテランスさん。
明るく朗らかに、笑顔でやって来たのだ。
「こんにちは、ケン様。昨夜はいろいろありがとうございました」
「おお、良く来ましたね。さあ、入ってください」
対して俺も笑顔で、テランスさんを、我が家へ迎え入れたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
平日の我が家のランチは、生徒として、教師として、学校に居る者、
そして用事がある者以外、極力全員で摂る。
今日も不在にしている者以外で食べた。
当然というか、嫁ズ、子供達と圧倒的に女子が多い。
レオとイーサン、ポールの男子組が学校に行っているから尚更だ。
俺以外の男子は、赤ん坊のローランしか居ないもの。
そんな女子軍団とワイワイ美味しくハーブ料理を食べたテランスさんは、
終始、羨ましそうに俺を見ていた。
食事が終わり……
俺は温かい紅茶のポット、そしてカップをふたつ持ち、自分の部屋へ。
扉が閉まると……
テランスさんは大きく、
「はあ~……」
と、息を吐き出した。
「おや、どうしました?」
「いやあ、いろいろです。びっくりする事が、いろいろありすぎて、思考がついていかないんです」
「いろいろ? 思考がついていかない?」
「はい。まず、昨夜の夢が本当だった事です。半信半疑で、ケン様のお宅へ伺いましたが、やはり見たのは『正夢』だったのですね」
確かに、俺の魔法を知らない者は、
いろいろと一種のカルチャーショックを受けるだろう。
「ええまあ、約束して、会って、一緒にメシを食ったから、正夢ですね」
「ふうう……ケン様は魔法といい、人脈といい、ものすごいですよ」
「まあ、何とかって感じです」
「謙遜ですね。それと家庭環境も、正直羨ましいなと……ケン様のお宅はまさにハーレム。王族、貴族以上の一夫多妻ですよ」
「まあ、そうかもしれませんね」
同意した俺は紅茶を入れ、テランスさんへ勧めた。
テランスさんは恐縮しながらも、カップに口をつけ、ひと口飲んだ。
紅茶を飲んだテランスさんは話を続ける。
「加えて、奥様方は皆健康、美しく理知的。頂いたハーブ料理を始め、家事に堪能で働き者。とんでもなく最高じゃないですか」
「まあ、確かに俺には過ぎた嫁達ですね」
「いや、昨夜の夢で改めて認識しましたが、ケン様も凄いお方ですから……高望みはしませんが……俺も、いつかは結婚したいです。そしてケン様のお子さんみたいな、可愛い子供がいっぱい欲しいですよ」
「テランスさん」
「はあ……」
「村には適齢期の独身女子がたくさん居ますし、何かあれば、応援しますよ」
と、俺がフォローしても、テランスさんは相変わらずネガティブである。
「何かあればですか……まあ、多分俺には何もないでしょうから、一生独身でしょう……それより、どうやって、レイモン様とお会いするのですか?」
「ええ、連絡が来ます。俺、レイモン様とは心の会話が出来ますから。もしくはこれで話します」
俺が机上に置いた連絡通話用の魔法水晶を指すと、テランスさんはびっくりした。
「俺、王都に魔法使いの知り合いも居ますけど……ケン様は魔法使いってレベルじゃない。超が付く賢者様ってレベルですよ」
「いえいえ、俺は賢者様って柄じゃないですけどね」
「ええっと、ケン様、それで結局どのように王宮へ行くのかと……」
「ええ、この部屋から転移魔法で、王宮へ行きます」
俺がしれっと言えば、
「えええええっっっ!!?? こ、こ、この部屋からあ!!??」
テランスさんは驚き、のけぞってしまったのである。
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