第12話「19人の村営会議」
9割を遥かに超える村民から委任状が出され、当初はへこんだ俺であったが……
ユウキ家以外の会議参加者6名から、委任状提出理由の説明があり、
至極まっとうな内容であった。
同時にリゼットからの絶妙なフォローもあって、俺は気を取り直し、村内会議を再開した。
改めて村内会議の参加者をいえば、俺、嫁ズ12人、そして6人の仲間の計19名。
全てではないけれど、ある程度ユウキ家の事情をカミングアウトしているから、
この6人とは気心が知れ、
MC役の村長リゼットが声を張り上げる。
「今回の議題は、1km四方先へ延長した事で拡大されたボヌール村敷地の利用法、及び割り振りです」
「………………」
俺達家族は議題を精査し、『仮案』を立てて来たのだが、
今回から参加する6人には、改めて考えて貰う事になる。
とりあえず、俺以下18名は黙って聞いている。
「用途は大きく分け、農地、宅地、その他となると思います。一応、ユウキ家から仮案はお出ししますが、まず皆さんのご意見、ご希望をお聞きしたいと思います。ご自由にお考えをおっしゃってください」
リゼットが微笑むと……
家族以外の会議参加者が話し易いよう、嫁ズのクーガーとサキが口火を切り、
他の嫁ズもいろいろざっくばらんに話し始める。
気楽な感じで話す嫁ズに釣られ、アンリとエマが、そして無口なデュプレ3兄弟もいろいろゆっくりと話し始める。
そして最後にマチルドさんも自分のアイディアを出して来た。
各自が出したアイディアを取りまとめる。
結果……出たアイディアが、必須の農地、宅地以外には、公園を兼ねた子供の遊び場、子供向けとは趣きを変え、大人も落ち着いて休める公園、そしてランニングや武技の訓練が可能なトラック付きのトレーニング場、武道場などであった。
俺から見たら、どれも「あり!」」だ。
これらの案に、ユウキ家が作った仮案を照らし合わせた。
そして、ここで公衆浴場――『銭湯』も、
この地の一画に建築しようと考えていたから、参加した6人に対し、初めて建築計画が明かされた。
だが、この世界の者達は公衆浴場は、レイモン様やオベール様夫妻が持つ中世西洋のモノと同じ犯罪がはびこる悪の社交場という『負のイメージ』を持っていた。
「公衆浴場ですか……身体を清潔にするのは素晴らしい事です。……でもなあ」
「夫の持つ懸念の通り、私もいかがなモノかと思いますわ」
と、渋い顔のアンリ、エマ夫婦。
「犯罪の温床になる!」
「賭博、売春等々をこの平和な村にはびこらせてはいけません!」
「我々3兄弟は、反対です!」
と、アベル・アレクシ・アンセルムのデュプレ3兄弟。
「私も皆さんと同意見です。お嬢様達、子供の教育にも良くありませんわ」
と、マチルドさんもきっぱり。
……6人は反対であった。
うん!
分かる!
レイモン様もオベール様夫妻は勿論……
実は最初、嫁ズも猛反対する者が居たから。
でも俺は猛反対した嫁には先行して夢の中で実際のイメージを見せ、
懸念に対しては解決方法を説得し……
最終的には俺の子供の頃の
俺の旧い記憶とは……
子供時代の俺が亡き母、祖父母と4人で『スーパー銭湯』へ行き、団らんした記憶。
記憶をたぐり、再現したら……
不覚にも俺自身、懐かしさに涙が出た。
優しい母の笑顔、孫と一緒に出掛け、嬉しそうな祖父母。
男女に分かれて、楽しい入浴……そして入浴後、合流しての食事。
身体を綺麗にするだけじゃないんだ。
安全で清潔、そして楽しく美味しい! をコンセプトにした、
今までにない公衆浴場――『銭湯』を造る事で、
ボヌール村に『新たなコミュニティ』も創り、雇用も生み出したいのだ。
傍らのリゼットは反対意見が出ても、ずっと微笑んでいる。
実は彼女は最初、公衆浴場建設を猛反対したした嫁ズの中のひとりでもある。
それが俺の説得により、今では『大賛成派』となった。
「旦那様」
「おう!」
「この世界の公衆浴場事情を考えたら、6人が反対するのは良く分かります。私もそうでしたから」
「ああ、分かるよ」
「こういう時は、レイモン様、オベール様ご夫妻同様、論より……証拠、ですわ。今夜にでもアンリさん達6人へ、私に見せてくれた夢と同じ光景を見て貰いましょう」
「ああ、そうだな」
「タバサ、レオ、イーサン、そしてジョアンナにも一緒に見せましょう」
「タバサ達にもか」
「はい! 旦那様が頃合いだと大人と同じ扱いをして、カミングアウトした4人は、今回の村営会議に参加出来ない事を少し不満に思っています。共有する事で不満が和らぐはずですわ」
「うん、そうしよう」
「では先に敷地の利用方法について、詰めましょう」
というわけで、
「皆さん、では公衆浴場の件は一旦ペンディングです。拡大した村の敷地には農地、宅地、公園、そしてトレーニング場を造ろうと思います。これらに関し、意見のやりとりを致しましょう」
こうして……
リゼットの進行で拡大した敷地の利用方法が決められて行った。
こちらは、反対意見が殆どなく、問題は村民への『割り振り』である。
農地、宅地とも良い場所が欲しい! というのはごく自然な欲求だから。
いろいろなアイディアが出たが……この場では拙速に決めず、じっくり練った方が良いという結論となる。
多分全員が満足するという『割り振り』の方法は存在しない。
ここで、俺が挙手。
拡大した村の敷地はほぼ原野。
基本的には草原であり、大きな岩もあちこちに「ごろごろ」している。
このままではいかんともしがたいので、人間が利用出来るよう『整地』しなければならない。
嫁ズ以外の参加者6人は、村民総出で作業すると認識している。
しかし、それではとんでもない負担となる。
既存の農作業等と並行して作業をしたら、
整地だけで、最低数か月はかかるだろう。
という事で、ここはまた『謎の魔法使いスフェール様』の出番だ。
既に6人にはスフェールがサキ、ロヴィーサが擬態した姿であり、
魔法自体は「俺が行使している」と伝えてはある。
その時、6人は大いに驚いたが、今回もまた驚いた。
「地の魔法、ゴーレム召喚でゴーレムを呼び、整地させる。複数召喚出来るからあっという間さ」
そう、俺は少し前に地の高位魔法、『ゴーレム召喚』を習得した。
ふるさと勇者の仕事遂行、深夜の魔物退治のついでに稼働の練習もしている。
「ゴーレムですか!?」
「人間の代わりに働かせるって!?」
「それなら整地もあっという間ですね!」
「大きな岩も簡単に排除出来ます!」
「道も造れますね!」
ここで懸念を示したのが、マチルドさん。
「でも、ケン様。ゴーレムを使うと、村民の働く意欲がそがれませんか?」
マチルドさんの言う事はもっともだ。
しかし、その懸念は想定済み。
「マチルドさん、ゴーレムは使い過ぎない」
「使い過ぎない?」
「ああ、過度に使うと、人間が楽をしてしまうという懸念は俺も持っている。だから正門と同じ方法を取るよ」
「正門と同じ方法?」
「ああ、夜中にゴーレムを使い整地だけこっそりやる。スフェール様がやったという事にして。その上で農地、宅地その他、仕上げは人力、マンパワーで村民が協力し合って行うんだ」
「うふふ、素敵ですね! ならば納得です」
という事で俺の提案に対し、マチルドさんも納得。
敷地の利用方法と、整地の手段が決まり、村営会議は終わり。
残った課題は時間もあるから、持ち越しとなる。
「公衆浴場に関しては改めて、魔法で説明する。今夜この場の全員と、夢で逢おう」
柄にも合わない俺の言葉に、
アンリ、エマ、デュプレ3兄弟、マチルドさんは、不可解な顔付きをしながらも、
大きく頷いたのであった。
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