第49話「意外な伏兵」

 午後3時30分過ぎ……

 ジョアンナとマチルドさんの大空屋の手伝いは終了となった。

 接客をこなすのは、まだまだこれからというレベルだが……

 品出しとあいさつだけは、ほぼ完璧だ。


 ここで俺とタバサは、ジョアンナとマチルドさんを連れて帰宅する。

 閉店まで残るのは、店舗部門の本日の担当者、ミシェルとソフィである。

 

 特別な事情がない限り、大空屋店舗部門の閉店時間は午後5時である。

 ちなみに、24時間営業の宿屋部門は午後5時を境にし、ウチの家族から夜勤の男子村民チームが引き継ぐ。

 そして朝8時に交代という事となる。

 

 話を戻すと、店舗担当のミシェルとソフィは閉店後の後片付けも含め、後2時間仕事をし、午後5時30分に帰宅する。

 王都では考えられないくらい早い閉店時間だが、その代わり朝の開店時間が早い。

 午前8時までには開店している。

 その上、週3回は、午前5時過ぎに早起き開店もあり……

 早朝、農作業する村民の為、朝食用の特製弁当を販売している。

 通常は自宅で朝食を摂る村民達も、この弁当を楽しみにして、買いに来る人が結構多いのだ。

 

 という事で、本日、通学の為行えなかった全村民達への紹介も兼ね……

 ジョアンナとマチルドさんにも、 俺が以前経験した早朝の弁当販売に参加して貰う事となった。

  

 家への帰り道……

 歩きながら、タバサが悪戯っぽく笑う。


「うふふ、パパ。らっしぇ! ……だよね?」


「ああ、そうだな」


 俺が同意すると、手をつなぐジョアンナが首を傾げる。


「タバサ姉の言う、らっしぇ? って何ですか、ケン様」


「ああ、俺が弁当を売る時に出すかけ声だ。いらっしゃいませが訛っているんだよ」


「お弁当を売る時の掛け声?」


「そうよ、ジョアンナ! 私もパパと同じように、らっしぇ!って、売ったよ! 凄く楽しいよ!」


「ホント? タバサ姉?」


「うん! お弁当を売る日はとっても楽しいよ! 30分くらいで、あっという間に売り切って、帰ってから、家族皆で朝ごはん食べるんだ。明日はスペシャルで、そのお弁当がイコール朝ごはんだって!」


「わお! 楽しみぃ! 早く明日が来ないかなっ!」


 姉タバサから、弁当販売の盛り上がりを聞き、目を輝かせるジョアンナ。


「ダメダメ! ジョアンナ!」


「え? ダメって?」


「うん! まだまだ1日は終わらないよ。ウチへ帰ったら、3人の子守りが待ってる! ベル、アンジュとローランの世話を、私と一緒にするのよ! 手が空いてる弟妹も居れば、多分手伝ってくれるよ!」


「わお! 忘れてた、ごめんなさい! そうだった。私、子守りも生まれて初めて! タバサ姉いろいろ教えてっ!」


 楽しそうに話すタバサとジョアンナを……

 俺とマチルドさんは、そっと見守っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ユウキ家へ帰ると……

 2歳のベルことベルティーユを連れたグレースが、1歳のアンジュ、ローランを連れたレベッカが待っていた。

 場所は、女子達の部屋に隣接する大きめの部屋。

 この部屋で良くグレース、レベッカは子供達を遊ばせている。


 甘えん坊のベルに、まとわりつかれたグレース。


「旦那様、みんな、お疲れ様」


 労わりに対し、俺が代表で応える。


「おう、ここまでは無事に終わった。ジョアンナもマチルドさんも、全く問題なしだ」


 レベッカは、アンジュとローランをあやしながら、ジョアンナへ尋ねる。


「どうだった、ジョアンナ。学校と大空屋」


「はい、学校は勉強が面白かったです。友達もアメリーちゃん始め、たくさん出来ました。大空屋は品出しを覚えました。お客様への挨拶も出来るようになりました」


 8歳にしては、完璧すぎる答えに、尋ねたレベッカを含め、その場の皆が驚く。


「へえ! ジョアンナ、幸先よくスタートダッシュが決まったね!」


「はいっ! 頑張りますっ!」


「よしっ! 良い返事よ。じゃあ、次は子守りに挑戦だね。マチルドさんは慣れていると思うけど」


「いえいえ」


 謙遜するマチルドさん。

 ここでグレース、レベッカが注意をする。


「じゃあ、ジョアンナ、マチルドさん。ウチの子供達と遊んでくれる? いきなりだと、びっくりするかもしれないし、特にジョアンナは子守りが初めてだから、無理にだっこはしないでね」


「私達、少し離れた場所から見ています。何かあったら声をかけますよ」


 という事で、俺がジョアンナとマチルドさんの背中を押す。


「じゃあ、ふたりともママふたりの注意を心がけて子守りを頼むぞ。特にベルは早くも反抗期だから、要注意だ」


「はい!」

「はいっ!」


 こうして……

 ジョアンナとマチルドさんは、ユウキ家の子守りへ挑戦した。

 

 ベテランのマチルドさんは、アンジュとローランへのケアをそつなくこなしたが……


「ベ、ベルティーユちゃん」


「ベル、ママがすき! よそのおねえちゃん、キライ!」


「え?」


「あっち、いって!」


「そんなあ、ベルちゃんん!」


「いやだあ! ママあああ!!」


 ジョアンナは、第一次反抗期のベルに振り回されて大苦戦。

 最後は半べそをかいてしまったのである。

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