第47話「お店を手伝おう①」

 給食が終わった後は、全員で下校。

 各自が一旦、自宅へ帰る。

 

 ボヌール村では大人達は勿論、子供達も手伝いレベルから一人前に近いレベルまで、一家の戦力として働く。


 子供達の手伝いは、家事と農牧畜作業が殆ど。

 タバサ以外、レオとイーサンを含むお子様軍団は、畑仕事と牧畜の手伝いだ。


 さてさて!

 本日が労働デビューのジョアンナは、村唯一の商店『大空屋』の店番補助に挑むのである。

 今後の事もあるし、心強いだろうから……

 俺とタバサ、そしてマチルドさんも同行する。


 皆さんには常識だろうが、村唯一の商店大空屋は万屋。

 念の為、補足説明。

 万事屋とは漢字で万屋と書いて『よろずや』と読む。


 よろずとは全てのもの、もしくはあらゆるものという意味であり、すなわち何でも扱っている小規模な店の事をそう言うのである。

 分かり易く言えば、現代のコンビニみたいな店だ。

 この万事屋に大幅改築した宿屋部門を併設した店舗が『大空屋』なのだ。


 この大空屋は、嫁ズのひとりミシェルが領主のオベール様夫人、母のイザベルさんから受け継いでの現オーナー。

 ソフィとともに取り仕切っている。

 

 ちなみに宿屋の方はグレースとアマンダが管理運営という態勢だ。

 俺は他の嫁ズとともに手伝いレベルだが、何故か商人達には『大空屋の旦那』と呼ばれている。


 さてさて!

 俺が来た頃の大空屋は、前世日本の駄菓子屋のような趣きであった。


 しかし、宿屋の大改築の少し後にこちらも新築に近い大改築を行った。

 店舗面積は5倍以上に広がり……

 大型倉庫&氷室、キングスレー商会が作った大型冷凍庫、デモンストレーション用のスペースも備え……

 イメージとしては店舗型の小さな市場という雰囲気となっている。


 取り扱う商品も、衣食住その他もろもろ、まさに何でもありの状態だ。

 陳列も以前よりはずっと見やすく、お洒落に並べられている。


 ジョアンナは歓声をあげ、興味深そうに辺りを見回した。


「わお! わあお! ミシェル様、このお店で、私がお手伝いをするのですか?」


「そうよ、でもジョアンナ。『様』はナシだって、クラリスから言われたでしょ? 婚約者の貴女が旦那様の妻を目指すのなら、私はミシェルねえよ」


「そうそう、ミシェル姉の言う通りよ。さっき学校では私をソフィ先生と呼んだけど、この店はミシェル姉の家でもあるし、私達は家族だもの。私はソフィ姉で構わないわ」


「わ、分かりました。ミシェル姉、ソフィ姉」


 さすがのジョアンナも、百戦錬磨の嫁? ふたりには圧倒されていた。


 と、いうことで、ここは店主ミシェルがリーダーとして仕切る。


「ジョアンナ、しばらくマチルドさんと一緒に見学してて、私、ソフィ、そして旦那様とタバサで品出しと接客をするから」


「品出し? 接客?」


「ええっと、品出しは、奥の倉庫から不足した商品を補充する事。接客は買い物に来たお客様の相手をする事だよ。後は、余った作物の買取りもあるけど、ジョアンナとマチルドさんには、まだまだ先ね」


 ミシェルの説明が終わると、ソフィが手を挙げる。

 何か、意見があるようだ。


「ねえ、ミシェル姉、提案! ただ見学するより実践する方が有意義よ。私が指示を出すから、ジョアンナとマチルドさんには、旦那様、タバサがフォローして、4人で一緒に品出しして貰ったら」


「おお、ナイス提案よ、ソフィ。じゃあ4人さん、宜しく! あ! ジョアンナとマチルドさんは勝手に氷室へ入っちゃダメだよ、外から閉められると危ないから」


 と、いう事で、ジョアンナとマチルドさん、俺とタバサは、ソフィの指示で品出しをする事となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ソフィの指示した品出しは、農作業着、じゃがいも他野菜数種、掃除用のほうきである。


 農作業着とほうきは、倉庫に。

 野菜は氷室ひむろへしまってある。


 まずジョアンナとマチルドさんには倉庫の品出しを覚えて貰う。

 俺とタバサはふたりを倉庫へ連れて行く。


 倉庫へ入ったジョアンナとマチルドさんは、店内同様、きょろきょろ見回した。

 大きな倉庫の中には、衣食住の範疇別はんちゅうべつに数多の商品が置いてあった。


「凄い! 商品がいっぱいっ!」

「本当ですねえ、お嬢様」


「ジョアンナ、マチルドさん、服はこっちよ」


 タバサが誘導して行った先は……

 服がいっぱい収納されている区画である。


「男子用の農作業着はコレ。女子も着るけどね」


 タバサが示したのは、この世界ではポピュラーな、ジャーキン、ボーズという農作業着の改良版、クラリスが手を加え、動きやすく丈夫にしたものだ。

 男子が着る事が多いが、ボヌール村では一応共用である。


「女子用はこっち」


 女子用は、カートルをクラリスが改良したもの。

 元の商品よりも、農作業がしやすく、更に可愛くお洒落になっている。

 着ていて楽しいという趣きだ。


 女子用の農作業着に、ジョアンナが反応する。


「わあ、カートルって可愛い! ケン様、私、これ着て農作業してみたいです」


 ここでタバサが質問。


「ねえ、ジョアンナ」


「はい?」


「貴女、ミミズとか、毛虫って見た事ある?」


「いいえ、タバサ姉。見た事はありませんし、どういうものですか、それは?」


「じゃあ、いきなりショックを受けないよう、事前にちゃんと教えてあげるね」


 かつて、クッカを始めとして……

 数多の女子達が洗礼を受けて来た農地の強敵?ミミズと毛虫……


 首を傾げる王都育ちのジョアンナを……

 苦笑するタバサは、しっかりと気遣っていたのである。

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