第27話「一緒にいろいろやりたい!」
翌日の、ホテルビュッフェ形式朝食は、最初から全員で仲良く食べる。
俺、ジョアンナ、レオとイーサン、ジャン、そしてマチルドさんだ。
ジャンだけは途中参加。
だが、昨日からずっと一緒に過ごしているから、もう和気あいあいである。
ジョアンナは相変わらず甘えん坊全開、俺にぴったりくっついていた。
そんな主を目を細めて喜ぶマチルドさん。
ジョアンナの事情を聞いたレオとイーサン、ジャンも、ジョアンナを優しく見守っていた。
レオとイーサンは普段から、妹達にはとても優しい。
それは新たに出来た『妹』ジョアンナに対しても変わらない。
否、それ以上かもしれない。
食べたい料理を聞くのは勿論、新たに追加された料理をスタッフに聞き、先んじてジョアンナの為に確保したり……
『兄達』から労わられ、ジョアンナはますます笑顔が可愛くなる。
朝食を食べる中、俺は改めて全員へ告げる。
「皆も認識しているように、このたびジョアンナとマチルドさんを、ボヌール村へ新たな住民として迎える事となった。ちなみにリゼットにも、もう連絡済みだ。今頃はユウキ家の全員に伝わっているだろう。
この旅行が終わり、村へ帰る際、ジョアンナとマチルドさんも、当然同行。
そのまま村へ移住する。そう認識しておくように」
ここで軽く息を吐いた俺は息子ふたりへ、
「レオ、イーサン、旅行中に申しわけないが、これからマチルドさんの自宅へ行き、ふたりの荷物をまとめて、全員で引っ越しの準備をするぞ。手伝ってくれ」
「分かったよ、お父さん! 俺、ジョアンナを助ける!」
「うん! 可愛い妹の為だもの! 俺達、頑張るよ!」
そして従士のジャンにも。
「ジャンにも手伝ってもらうぞ。ジャン、良いな?」
「は~い。女子の為なら、がってんだあ!」
はは、ジャンの奴、そう来ると思ったよ。
俺は次にマチルドさんへ言う。
「という事で、マチルドさん」
「は、は、はいっ」
俺の話を聞きながら、朝食を摂る手を止めていたマチルドさん。
移住が決まったといっても、普通はすぐ引っ越しなどありえない。
どうやら完全に想定外だったらしく、だいぶ戸惑っているようだ。
「ホテルから馬車で、ジョアンナと暮らしているマチルドさんのご自宅まで行きます。だから、道案内と引っ越し作業の指示ををお願いしますね」
「は、は、はいっ!」
「念の為……荷造りをして荷物を運び出す為に、マチルドさんの家の中へ入らせて頂きますが、構いませんね?」
「は、は、はいっ! そ、それはもう! ケン様達にお手伝い頂けるなんて、あ、ありがたい事です。すぐにお引っ越しが出来るなんて! ね、ねえ、お嬢様」
「え、ええ! う、嬉しいわ。早くケン様達とボヌール村で暮らしたいですもの!」
「でも、お嬢様、ボヌール村は遥か南と聞いております……とても長旅になりますよ」
「ええ! 当然覚悟の上よ!」
いや、長旅にはならない。
ほんの一瞬の旅だ。
俺の転移魔法でひとっ跳びだから。
真実を知り、未知の転移魔法を体感したら、ジョアンナとマチルドさんは、どんな顔をするだろうか?
俺とレオ、イーサン、ジャンの男子4人は……
ジョアンナとマチルドさん主従のやりとりを見聞きしながら、顔を見合わせ、ニヤリと笑ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食を終え、部屋へ戻って、支度をし、俺達はホテルを出た。
キングスレー商会チャーターの馬車で、マチルドさんの自宅へ向かうのである。
マチルドさんに聞いた、彼女の住所は市民街区のはずれである。
ホテルから、馬車で20分といったところ。
到着してみれば、長屋のような古い共同住宅のひとつである。
馬車の御者へ、2時間後に迎えに来るよう伝えた俺へ、
「あの、ケン様のご自宅に比べて……お恥ずかしいです……」
マチルドさんが消え入りそうな声で言うので……
俺は笑顔で、首を横へ振る。
「いや、ウチも同じです。やたら広いだけで単なる古い家ですよ。王都の貴族の屋敷とは全然違います」
レオとイーサンも追随する。
「お父さんの言う通りだよ、マチルドさん」
「ユウキ家は農家だもん、古くて広い家に、大家族で住んでいるんだ」
「そ、そうなんですか?」
「だって! 田舎の村だもん! 村の周りはさ、大草原に、森や林だし!」
「改めて思うよ、人がいっぱい居る王都とは全然違うって!」
「はあ……」
ため息を吐いたマチルドさん。
自分の事はともかく、箱入りのジョアンナの事を心配しているのだろう。
「ジョアンナ、マチルドさん。改めて言っておきます。俺はオベール男爵家の宰相といっても、本業は畑仕事や狩りをする農民です。鍛冶師をやったり、魔法を使ったり、必要とあらば何でもやりますがね」
ジョアンナは昨夜、俺から話を聞いている。
なので、マチルドさんへ言う。
「マチルド、私ケン様からいろいろお聞きしました。心配する事はありませんし、ケン様を信じましょう」
レオとイーサンはここでもフォロー。
「お父さんは、ママ達とお店や宿屋、エモシオンではカフェもやってるよ」
「お父さんとお母さん、ママ達は、学校の先生もやってるし」
息子ふたりの言葉に、ジョアンナが反応する。
「わあ! 凄い! 面白そう! 私、ケン様と一緒にいろいろやりたいです!」
ああ、良かった。
実際にやってみないと何とも言えないけど……
前向きなこの子なら、かつてのサキのように、自分の人生をたくましく切り開いていくはずだ。
期待に胸をふくらませるジョアンナの笑顔を見て、俺はそう確信していたのである。
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