第26話「ファーストキス?」
ボヌール村へ来る事を決めたジョアンナと、抱き合ったまま、いろいろ話す。
旅立ってから……
俺が15歳のリゼットをゴブリンから救い、村へ来て住むようになった事、何人もの嫁ズと出会い、暮らして来た事を、ざっくりとだ。
但し、俺が転生者である事、管理神様達天界の事、女神クッカと魔王クーガーを含めたクミカ転生の詳細等は、おいおい話す事に決め、まだ言わない。
ボヌール村、エモシオンに住まう領主オベール男爵家との関係。
俺の家族構成、村の様子などを中心に伝える。
何故、ここでジョアンナへ話すかといえば、そもそもマチルドさんには、ふたりがこれから暮らすボヌール村の環境を細かく伝えてはいないからだ。
商業ギルドへ出かける直前だったし、ジョアンナの事情を聞き、やりとりし、受け入れを決めるまで時間がなかった。
俺達ユウキ家とボヌール村の話を聞き、ジョアンナは驚き、可愛い目を丸くする。
「わお! ケン様のご家族って、そんなにいらっしゃるのですか?」
「ああ、レオの母、イーサンの母はそれぞれ違うし、生まれ変わった初恋の人を含め、今は12人の嫁、10人の子供が居る」
「す、凄い! では私、13番目のお嫁さんになるのですねっ!」
ジョアンナはそう言うが、やはり俺は、自ら進んで彼女を『嫁』にするつもりはない。
日本の戦国時代や、この国の貴族家のように、超が付く8歳の『幼な妻』を迎える事はしない。
16歳でこの異世界へ来た、自ら『幼な妻』を名乗ったサキ、そして結婚前のリゼットやクラリスの15歳くらいが、結婚を真剣に考える年齢の限界レベルである。
でもここで、初恋の相手である俺が頭から結婚を否定すれば……
幼いジョアンナは、心のよりどころを失い、イコール生きて行く気力を失いかねない。
そんな事は絶対にあってはならない。
それゆえ、沈黙は金……
とりあえず成り行きにして、8年後に、ジョアンナが16歳になった時……
彼女が俺と結ばれる意思があった場合、結婚するかどうなのか、判断すれば良いと思っている。
そんな事を「つらつら」考えながら俺は言う。
「ははは、そうなるか。でもさ、ジョアンナもマチルドさんも、ボヌール村の事を全然知らないだろう」
「え、ええ、王都の遥か南にある村としか、……知りません」
「王都に住んでいる人から見れば、ボヌール村は、とんでもなく不自由な田舎なんだ。行ったら、ジョアンナはとても後悔するかもしれないぞ」
「私は、絶対に後悔なんかしません。こんなにたくさん人が居る王都でも、私が頼れるのはマチルドだけ……ママが亡くなり、パパからは見捨てられ、とても不安で寂しかった」
悲しみに染まるジョアンナの表情は見ていて、辛い。
俺が「そっ」と抱き締めると、ジョアンナの身体はひどく頼りなく、きゃしゃだった。
「ジョアンナ……可哀そうに」
頭を優しくなでると、ジョアンナは喜ぶ。
「うふふ、ケン様は優しいから大好き!」
「そうか、俺が優しいから大好きか」
「はい! ケン様は優しいから大好き! いえ、違いますね。ケン様の全部が大好きなんです。ママが亡くなって、とっても寂しかったけど、ケン様と巡り合って、ぎゅっとして貰ってるし、もう大丈夫です」
「ああ、もう大丈夫だ、ジョアンナ」
「はいっ! 大好きなケン様が居るっ! 元気になったマチルドもついて来てくれるし、レオ兄とイーサン兄も居る。ジャンさんも私を守るとおっしゃってくれました。そしてそして! ボヌール村へ行けば! 新しいママもお姉さんもお兄さんも妹も弟もいっぱい出来る! とっても楽しみですっ!」
ジョアンナは、母が亡くなってから、誰にも甘える事が出来なかった。
マチルドさんに対しては、
幼い8歳の女の子なのに。
でも、これからは俺が守る。
絶対、幸せにしてやろうと思う。
そんなこんなで……いろいろ話していたら、だいぶ時間が経ってしまった。
部屋にある魔導時計の針は、11時30分を回ってしまった。
もう日付が変わってしまう。
良い子はとっくに寝ている時間である。
「さあ、もう夜も遅い。寝よう、ジョアンナ」
と、俺が就寝を促すと、ジョアンナはとんでもないお願いをして来る。
「はい、寝ましょう。……じゃあ、ケン様、お休みのキスを……妻たる私の唇へ」
「え? キス? 唇へ?」
「はい! 私のファーストキスを差し上げます。頬やおでこは嫌です。ジョアンナはもう大人ですから! 唇に優しくキスして頂かないと、絶対に眠りません!」
頬やおでこは嫌?
もう大人?
唇に優しくキスして頂かないと、絶対に眠りません?
おいおい、それはちょっと……
仕方がない。
俺はジョアンナを優しく抱き締め、無詠唱、神速で魔法を発動した。
深い眠りへ誘う、睡眠の魔法だ。
即座に「かくん」と脱力、眠ってしまった、ジョアンナ。
「おやすみ、ジョアンナ……良い夢を」
俺はそっと、ジョアンナを横たえると、彼女のおでこへ優しくキスし、自分も眠りについたのであった。
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