第18話「ジョアンナの事情」
という事で……
俺、レオとイーサンは一旦部屋へ戻ったのだが……
くっついて来たジョアンナとマチルドさんは、俺達が泊っている最高級のスイートルームを見て仰天していた。
「な、な、な、何っ!? こ、こ、この部屋はっ!?」
「何って、スイートルームだけど」
「分かっているわよ! そ、そんなの! な、何で、ケンさんがこの部屋に!? 私だって泊った事がないのにっ!!」
「まあ、いろいろとあってな。詳しい事は内緒だ」
「王族や限られた上級貴族が泊まるような、こんなに凄い部屋に泊まってるのが内緒って! ケンさんは何か、悪い事してお金をたくさん儲けたの?」
「いやいや! 悪い事なんか、してないっつ~の」
ここで……
ジョアンナお付きのマチルドさんが、
「ケ、ケン様! ちょ、ちょっとお話が……で、出来れば、私とふたりきりで話したいのですが……」
ふたりきりで話すと言っても、変な話ではないだろう。
俺はすぐにピンと来た。
多分、ジョアンナの持つ特別な事情についてだ。
「分かりました。……レオ、イーサン、着替えて支度しておけ。俺はマチルドさんとちょっと話しているから」
俺がそう言うと、ジョアンナが目を輝かせる。
どうしたのかと、思ったが……
「じゃあ、ケンさん! 私、その間、探検してて良い? このスイートルームを!」
何だ?
俺とマチルドさんの話に入る気はない?
どうしてだろう?
「あ、ああ……構わないよ」
「やったあ!」
ガッツポーズをして喜ぶジョアンナは、目当ての場所があるらしく、とことこ駆けて行った。
これでよし! ……か。
「じゃあ、マチルドさん、行きましょう」
俺は近くの空いている部屋へ、マチルドさんを誘った。
親子3人で何部屋か使っても、空き部屋はたっぷりある。
応接のある部屋へ入り、俺は
長椅子に座るやいなや、マチルドさんは深々と頭を下げる。
「ケン様、初対面の貴方様にここまで甘えてしまい、誠に申しわけありません」
「いや……そんなのは構わないんですけど……お話ってジョアンナの事ですね」
「はい、人見知りのお嬢様がケン様とご子息様達にあんなに懐かれるとは……信じられないです」
「はあ……で、じゃあ時間もないのでズバリお聞きします。何故ジョアンナのお父上のサミュエル・ブルゲ伯爵と、ジョアンナの姓が違うのですか? ジョアンナはジョアンナ・ボレルと名乗っていましたね」
「はい……ケン様のご指摘の通り、伯爵閣下とお嬢様は姓が違います。お嬢様のお母上、ミリアン・ボレル様は、正式なご結婚をされていないのです」
「正式な結婚をしていないって……ジョアンナのお母上は、第二夫人でも側室でもない、籍を入れていないブルゲ伯爵の愛人という事ですか?」
「そうです……ちなみに伯爵閣下はブルゲ伯爵家の生まれではありません。生家のご意向でブルゲ伯爵家のご令嬢ニネット様の婿として伯爵家に入ったのです」
「成程」
「私も伯爵家の使用人ですから、分かります。入り婿の閣下は、ニネット奥様から常日頃、高圧的にふるまわれ、いつも針のむしろでした。私は閣下にご同情し、こっそり愚痴を聞いておりました」
「そうだったんですか」
「はい、でも閣下の心は、私の慰めなどでは癒されませんでした。それで……たまたま知り合った心お優しいミリアン様に身元を隠して、許されぬ恋に落ち、愛し合い、ジョアンナ様をもうけられたのです」
「ふうむ」
「伯爵閣下は正室のニネット様に隠れ、王都に屋敷を購入し、ミリアン様とご密会されておりました。ジョアンナ様の事も、とても可愛がっておられました」
「成程」
「ですが、ミリアン様が急に『はやり
「…………」
「長年にわたる不倫の事実を知ったニネット様はひどくお怒りになり、ミリアン様の為に購入した家を処分し、庶子であるジョアンナ様ときっぱり縁を切り、どこかへ放逐するよう命じられたのです」
「…………」
「でもジョアンナ様に罪はありません。まだ幼いジョアンナ様をおひとりにするなど、絶対に出来ないではありませんか」
「…………」
「それで、閣下は私にすべてを打ち明けられ、いくばくかのお金をお渡しになられました。閣下に命じられた私は、伯爵家のお勤めをやめさせていただいたという名目でお屋敷を出て、自宅へジョアンナ様をお引き取りしたという次第なんです」
「…………」
「……このホテルは、閣下と亡きミリアン様、ジョアンナ様が親子3人でこっそりお会いする形で良くお過ごしになっておりました。私はジョアンナ様がお可哀そうで、お金が心もとなかったのですが、最後に1回だけというお約束で、思い出づくりに一緒に泊まりに来たのです」
予想していたとはいえ……
涙を浮かべ、切々と語るマチルドさんの話は、とても衝撃的だった。
俺は子供の頃味わった『辛い記憶』を思い出し、ひどく心が重くなってしまったのである。
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