第5話「男子の旅立ち、墓参り」
レオとイーサンからはいろいろな希望が出て、「けんけんがくがく」だったが……
結局、相談の結果3泊の予定で王都見物。
日程はトータル5日取っているから、後の2日は成り行きで……というアバウトな旅行スケジュールとなってしまった。
という事で1週間後……
俺、レオ、イーサン、そしてジャンは王都の街中を歩いている。
仕方がないとはいえ、レオとイーサンはおのぼりさんモード全開。
見るもの聞くものが物珍しいらしく、あちこちを「きょろきょろ」眺めていた。
王都へ来るのはいつもと同じ方法。
門番担当の村民へ外出のことわり、素知らぬ顔でボヌール村を出て、普通の馬に擬態した妖馬ベイヤールとグリフォンのフィオナの牽く馬車で村道経由で街道をしばらく走る。
適当なところで、街道脇の雑木林へ入り、ベイヤールとフィオナをハーネスから外し、解放。
馬車を収納魔法で仕舞い、身軽になったところで、転移魔法で王都正門まで跳ぶ。
徒歩で長旅をして来た風を装い、「しれっ」と入場手続きをして王都内へ入るという段取り。
夢で俺の魔法やスキルを事前に見せていたとはいえ……
第三者的に見守るのと、実際に体験するのは全く違う。
また嫁ズ、タバサから話を聞いてもいたとはいえ……
俺の魔法を見て「うわ!」とか「おお!」とか、驚嘆する声の連続であった。
更に巨大な街壁が取り囲む大都市、王都の威容に圧倒されるふたり。
普段住んでいるボヌール村が約100人強の人口。
今まで見た最大の街が人口が2,000人となったエモシオン。
王都は人口が5万人を超えたから、ボヌール村の約500倍、エモシオンの約25倍の規模であり、無理もない。
実は今回の旅行を王都に決めた大きな理由がいくつかある。
まずは一番大きな理由が……それは亡きオディルさんのお墓参り。
「お父さん、早速オディルさんのお墓参りに行こうよ」
「うん、レオの言う通り。俺も早くお参りしたい」
俺の子でオディルさんを慕っていたのはタバサだけじゃない。
全員が実のおばあちゃんのように慕っていた。
もしも子供達が望むなら、いずれ全員に王都でお墓参りをさせたいと考えている。
オディルさんのお墓へ行くのは今回で2回目。
もう道順は憶えた。
嫁ズと違って10歳の男子ふたりにナンパの心配はないだろうが、いろいろな目的で子供を狙う悪党も大勢居る。
だから油断は禁物。
俺が先頭に立ち、タバサの時同様、周囲を注意しながら、最後方に人間に擬態したジャンを守りにつかせ……
俺達4人はオディルさんが眠る墓地へと向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
記憶をたぐり、俺が先導。
到着したオディルさんの眠るこじんまりした墓地は……
前回来た時と同じく、誰も居らずシーンとしていた。
レオが軽く息を吐く。
「お父さん、何だか……切ないね」
イーサンもため息を吐く。
「うん、レオの言う通りだ……寂しい感じのするお墓だね」
「ああ、オディルさんのお墓を含め、お参りする人があまり居ないんだろう」
俺が言うと、レオもイーサンも、
「オディルさんが可哀そうだよ。お父さん、綺麗に掃除しよう!」
「お父さん、持って来た村のハーブを供えようよ……オディルさん、きっと喜ぶから」
と言い、俺の手を引っ張り催促した。
ジャンを加えた俺達4人はオディルさんのお墓へ行く。
オディルさんのお墓は泥で汚れていた。
俺達は、タオルを出し……
水属性魔法を俺が行使。
湿らせた上で、丁寧に拭き清掃を始めた。
オディルさんの親友シャンタルさんも来ていないようだし……
お元気にされているだろうか。
そんな事を考えた俺はふと思い立ち……
オディルさんのお墓の清掃を3人に任せ、他の墓の清掃も始める。
タバサと来た時に清掃し、コツは掴んでいた。
ちなみに、オディルさんのすぐ隣にある少し古いお墓は、彼女の旦那さんのお墓だとシャンタルさんから聞いている。
生前仲睦まじい夫婦だったふたりは、並んで永遠の眠りについているのだ。
死んでも転生した俺が、永遠の眠りというのは違和感があるけど……
まあ、そんなこんなで……
てきぱきやったら、あっという間に終わった。
ハーブもたくさん収納魔法でたくさん持参したから、オディルさん以外の墓にも供えて行く。
約1時間ほどで清掃と花付きのハーブを供える作業は終わった。
魔法の香を焚き……故人の冥福を祈る。
オディルさんのお墓の前で俺達は手を合わせる。
まず俺が言う。
「オディルさん、どうぞ、安らかにお眠りください」
「「「オディルさん、どうぞ、安らかにお眠りください」」」
親子3人が復唱。
次にレオが言う。
「優しかったオディルさん、いっぱい遊んでくれてありがとう! 俺、お父さんに弟子入りして、鍛冶職人になります。ボヌール村ではオディルさんの孫になりましたけど、職人として、孫弟子にもなりますから!」
そしてイーサンも、
「オディルさん! 俺の妹アンジュの名を付けて頂きありがとうございます! 本当に素敵な名前です。妹の名を呼ぶたび、幸せになれます! そして俺のお母さんがナイフの鞘職人として、新たな人生を歩む事が出来るのも、貴女のおかげです!」
目を閉じ祈るジャンは無言だったが……
村に遊びに来たオディルさんの事を憶えているに違いない。
再びレオが口を開く。
俺へ尋ねて来る。
「お父さん」
「ん?」
「オディルさん、先に天国へ
その問いに対し、俺の答えは当然ながら決まっている。
「会えているさ。俺も、クミカに会えたんだから」
「そう……だよね。お父さんも『お母さん』に会えたんだもん!」
同意するレオに、
「もう、絶対会えているよっ!」
イーサンも力強く、追随したのである。
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