第44話「帰りたくない!①」
王都におけるレイモン様との打合せ、及び市内観光で得たモノは秘書役となったサキとロヴィーサにとってとても大きかった。
特に……
レイモン様から『人魔族のパイオニア』だとエールを送られ、気合を新たに入れ直したロヴィーサにとっては大きなターニングポイントとなったのである。
この日最後の訪問場所、キングスレー商会にて魔導冷却器を始め、数多のモニター商品を受け取り、その場で空間魔法を使い、全てを収納。
俺の魔法を目の当たりにし、改めて驚くマルコさんに礼を言い、辞去して『隠れ家』へ……
戸締りをしっかりした上で、転移魔法を発動、ボヌール村へ帰還した。
さあ、これからが大変だ。
通常業務に加え、『新たな仕事』まで引き受けてしまったから。
しかしサキとロヴィーサの顔は浮かない。
何故なら1週間が終わり、明日はアヴァロンの人魔族入植地へ赴くが、
ロヴィーサは、そのまま、戻らねばならなくなるかもしれないからだ。
一旦、解散し、クラリスはアトリエへ、グレースは愛娘ベルティーユの下へ。
俺の部屋にはサキとロヴィーサのみが残った。
サキが切ない目をして、俺を見つめて来る。
言わんとしたい事はすぐ分かる。
「ねえ、旦那様」
「おお、何だ、サキ」
「ロヴィ姉、本当に明日帰っちゃうの?」
「うん、一応な。そもそも当初の予定では、地上滞在は数日のはずだったからさ」
「そっか! じゃあ、ロヴィ姉本人がまだ、このボヌール村に居たいと言えば、希望は通るよね? 私もっとロヴィ姉と一緒に暮らしたい! 秘書の仕事もしたい!」
うんうん!
サキはロヴィーサに対し、家族とはまた違った思いがあるに違いない。
ロヴィーサの方が年上で種族は違う。
だが、親友と感じているようだ。
タバサと妖精アルベルティーナのように……
「ああ、俺は構わないぞ。後は……お父上のアガレス殿次第だな」
「成る程ね!」
サキの要望を聞き、俺は条件付きでOKした。
俺の一存だが、ユウキ家のメンバーは反対しないと思う。
後はロヴィーサ本人と彼女の父アガレスの意思と判断である。
元々アガレスは娘大好き父。
目の中に入れても痛くない愛娘を自分の秘書にした上、溺愛していたが……
管理神様の神託を受け、一族の為、心を鬼にして地上へ送り出した。
何も言って来ないけど、あれから心境の変化等はあったのだろうか?
一方、ロヴィーサもウチの娘達同様、パパッ子だった。
地上に慣れて来て、ボヌール村と秘書の仕事を楽しんでいるようだけど本音はどうなのだろうか?
そういえば、気になって……
今日、秘書の代役を引き埋めた女神スオメタルに念話で連絡をした際、
「任せて! 万事OK! 順調でございます!」みたいな事言ってたけど大丈夫だろうか?
いくつもの疑問が浮かんで来たが、まずはひとつを解決しよう。
「……と、サキは言っているが、ロヴィーサはどうだ?」
さっきから、黙って俺とサキの会話を聞いていたロヴィーサだが……
俺から尋ねられ、口を開く。
「私、帰りたくない! 帰りたくありません! もっと地上でいろいろ経験し、勉強したい! ケン様に認められたい!」
成る程。
ロヴィーサの意思と希望は理解した。
俺への承認欲求はともかく、明日アヴァロンへ行き、ロヴィーサから直接アガレスへ伝えて貰うのがベストだ。
さあて、俺達も解散。
夕食まで、各自の仕事をこなそう。
俺は、サキとロヴィーサへその旨を告げ一旦、散会したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後6時。
全員で夕食。
念の為、いつも俺達は豪勢な食事をしているわけではない。
ハーブ料理オンパレードは、来客がある時くらいなのだ。
今日は通常運転メニュー。
硬めのライムギパンやチーズ、はちみつはあるものの、獣肉、鱒が少々入ったハーブ入りの豆スープ。
とろみがつくと食べやすいから、どろどろに煮込む。
硬いパンもスープに浸して食べると美味しい。
サラダなどの野菜、特に、ニンニクやたまねぎも良く食べる。
初めて我が家を訪れる人は、ニンニクくさいと良く言う。
食後はお茶を飲みながら、俺は子供達と遊ぶ。
これも日常の光景。
室内で行える「あっちむいてホイ」や「福笑い」などが中心だ。
以前から考えていたが……
タバサに続き、何人かの子供達と旅に出るつもりでいる。
俺が転生者でふるさと勇者である事、クッカとクーガーの秘密等々、カミングアウトを兼ねた旅になると思う。
まずはレオ、そしてイーサンの順となる予定。
それ以外の子供達も幼いベル、そして生まれたばかりのアンジュ、ローラン以外は、おいおい話して行く事になると思う。
先日、打合せをして子供達の母、つまり嫁ズ全員からは了承して貰っている。
さあて!
今夜も嫁ズ全員と会議だ。
引き受けて来た仕事の話をし、情報を共有。
実行をしなければならない。
その後は、人魔族担当のクーガー、ベアーテも交え、明日に向けてこれまた打合せだ。
当然サキ、そしてロヴィーサも同席する。
「おうい、打合せするぞ。俺の部屋へ集合」
「「「「「はいっ!」」」」」
俺の言葉に即、反応。
嫁ズ、そしてロヴィーサは元気良く返事をしたのである。
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