第45話「帰りたくない!②」

「凄い! これが魔導冷却器ですか!」

「室内用の氷室って事ですよね?」

「これからは、このような魔道具が、一家に一台って時代が来るのかしら?」


 予想通り……

 モニター商品の目玉『魔導冷却器』は嫁ズ達は興味津々。

 ひとしきりチェックが入った後、前世日本の家電生活を知る俺とクーガー、そしてサキは質問攻めとなった。


 一度に「どっ」と言われても、到底さばききれない。

 なので、ひとりずつ質問し、3人が答える形を取る。


 最初に質問して来たのは、第一夫人であり、村長でもあるリゼットだ。


「ズバリ! これが冷蔵庫というものなのですか?」


「ちょっと違う」

「ええ、違うかも。言っておくけど氷室イコール冷蔵庫ではないからね」

「うんうん! 大昔の冷蔵庫ならともかく、サキがマルコさんへ提案した冷蔵庫は、冷蔵と冷凍の使い分けが出来るモノだから、違いますね」


 次に質問したのは、狩人として獲物の保存に苦労して来たレベッカだ。


「氷室より、この魔導冷却器ってさ、便利なのかな?」


「実際に使ってみないと分からないが、多分便利だろう」

「旦那様の言う通りね。氷室は氷や雪の補充、それに手入れが大変でしょ? これは魔力を充填じゅうてんするだけだから、遥かに便利」

「はい、クーガー姉の言う通り、メンテナンス作業が簡単なんです。氷室のように戸外や地下ではなく、室内、それも厨房に置けるメリットもあります。但し、内部の仕組みが複雑で壊れたらお手上げかもしれません」


 続いてはミシェルが……


「ねぇ、サキ。貴女が言った冷蔵と冷凍って? 意味はなんとなく分かるけど」


 ご指名だから、ここはサキ単独で答えて貰おう。


「シンプルに言えば、保存するのに凍らせる、凍らせないかの違いです。つまり温度の差です。0度からマイナス15度までで保存するのを冷蔵、マイナス15度以下が冷凍なんです」


 ミシェルに続き、質問したのはソフィ。


「冷蔵と冷凍の使い分けが出来た方が良いのかしら?」


「ああ、食材によって、冷蔵冷凍の向き不向きがあるんだ」

「ええ、野菜や果実といった農産物は、冷やし過ぎて品質が劣化する低温障害を起こしやすいのよ。だから農産物は冷凍ではなく、冷蔵した方がベストなの。飲料も冷蔵の方が良いわね。凍ると飲めないでしょ?」

「更に補足すれば、冷凍して保存する野菜もありますから、例外はあります。まあ肉や魚は冷凍の方が保存がききます。本当はもっと細かい温度設定が出来ればベストです」


 うんうん!

 サキの言う通りだと、俺も思った。

 冷蔵、冷凍、そしてチルドと3つは温度設定が可能ならばとても便利だと。 


 続いて、グレース、そしてベアーテからも問いかけが……

 なんやかんやと質問が飛び交い、話は大いに盛り上がった。

 魔導冷却器だけで、モニター商品に関して設定した時間は瞬く間に終了。

 そのせいで他の商品までは全く手が回らなかった。


 どちらにしても、魔導冷却器を早速使ってみようという話になった。

 話が終わったら、厨房の一画へ設置すれば良いだろう。

 俺の魔力をたっぷり充填じゅうてんしてね。


 うん!

 嫁ズが全員揃って良いタイミングだから、ここでロヴィーサの件についてだけ話をしておく。

 ロヴィーサの地上残留に関してである。


 俺は嫁ズ全員へ、ロヴィーサが自分の『意思と希望』を明確にした事を伝えた。

 改めてロヴィーサ自身からも、語って貰う。


「ロヴィーサ、良いかい、さっき俺に言った事を、皆の前でもう一度繰り返してご覧」


「はい! ケン様!」


 ロヴィーサは、「はきはき」と返事をし、きっぱりと言い放つ。


「皆様、明日アヴァロンの人魔族入植地へ、父の下へ行きますが、私はまだ帰りたくありません! もっと地上でいろいろ経験し、勉強したい! ケン様と皆様に認められたい!」


 対して、予想通りにその場の全員から、残留賛成の声が出る。


「ロヴィ、貴女、前向きで素敵よ!」

「頑張って! ロヴィ!」

「サキとロヴィで良いコンビじゃない!」

「このままずっと村へ住んでもOK!」


 サキを始め、嫁ズ全員からエールを送られ、ロヴィーサは思わず涙ぐんでいた。

 さあて、本当に時間だ。

 一旦、お開きにして人魔族の打合せを始めないと。


 とりあえず、ここでロヴィーサを含めた嫁ズ全員の打合せは終了で、解散へ。


 俺は一旦、魔導冷却器を空間魔法で仕舞い、改めて厨房へ行き、出して設置したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 再び明日木曜日、人魔族の入植地『アヴァロン』へ赴く者達だけ、

 つまり俺、担当のクーガー、ベアーテ、秘書役のサキとロヴィーサは、俺の私室へ戻る。

 

 まず俺は転移魔法を行使し、「さくっ」と朝一で、エモシオンへ行く事を伝える。

 レイモン様から託された男爵陞爵しょうしゃくの辞令を、

 オベール様当人と奥様イザベルさん、愛息フィリップ、家臣一同、そしてエモシオンの町民も、今か今かと待っているはずだから。

 

 ここから改めて、対人魔族についての打合せである。

 いくつかすり合わせが行われ、明日アガレスとやりとりする課題等、

 内容は固まった。


 クーガーとベアーテが聞いて来る。


「旦那様、現在アガレスさんの現状は? 女神様が来てたよね?」

「ええ、女神スオメタル様が秘書役を引き受けてくださって、そのままですよね?」


「だな。今日念話が通じたから聞いてみたが、万事順調だと言っていたよ」


「そもそも、スオメタル様って、ぱっと見クールビューティって感じだったけど、どういうタイプの女神様?」

「うんうん、結構、厳しそうでしたけど」


 ここでサキが口をはさむ。


「ええっと、私が以前、違う世界でお会いした戦女神いくさめがみのヴァルヴァラ様に似てるって思った」


「戦女神? ヴァルヴァラ様?」


 サキのリアクションに対し、ヴァルヴァラ様を知らないクーガーは?マーク。


 しかし魔界での決戦の際、ヴァルヴァラ様を見たベアーテは「うんうん」と頷いた。


「ああ、魔界でお会いしたあの方ね。戦いの女神って仰っていて、厳しそうな方だったわ」


 ふむ、スオメタルが、ヴァルヴァラ様に似ている……か。

 容姿は全然似ていない。

 けれど、両名とも自分にも他人にも「びしっ」と厳しい、スパルタタイプかもしれないな。


 明日行けば、アガレスの状況は分かる。

 とりあえず、スオメタルの言葉を信じ、期待して行ってみよう。


 という事で、今度こそ本日の打合せは終了。

 全員が就寝したのである。

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