第41話「王都見物⑥」

 オディルさんのお墓参りを終わらせ……

 今日最後に訪問するのは王都の大商人キングスレー商会である。


 この商会とはひょんな事で知り合った。

 元々はエモシオンへ行く際、同行した商隊のクライアントだった。

 護衛の冒険者クランを俺がサポートしたのが縁。


 そして、取引が始まり、クラリスの絵を買った商隊経由で……

 絵を見て惚れ込んだ商会の会頭が、大得意のレイモン様に献上。

 献上された絵をレイモン様も大いに気に入り、作者との面会を希望した。

 何と!

 クラリスをお抱えの画家にしたいとまで……

 そして俺と絵の作者であるクラリスがレイモン様に直接会って……

 親しい付き合いをするようになったという次第。


 確かそう。

 間違っていたら、申しわけない。


 さてさて!

 キングスレー商会は王都の商業街区にある。

 この地区は貴族街区とはまた違った意味で、趣きのある地区。

 俺の前世における大都市の、某有名時計店みたいな建物がいっぱい並んでいる。


「わあ! 凄い! 私の知ってるピー!みたいっ!」


 サキのコメントは放送禁止用語が入っているのでNG。

 俺はすかさず教育的指導を行う。


「こらこらサキ。NGワードが入ってるぞ」


「うっわ! ヤバ! 旦那様ぁ、ごめ~ん」


 てへぺろしながら、上目遣いで俺を見るサキが可愛い。

 そんなサキを見てロヴィーサは、柔らかく笑っている。


「サキは甘えん坊なのですね」


「うん! 自覚してる。だって旦那様に甘えるの超大好きなんだも~ん!」


「うふふ、仕方がないですね」


「でもでも、ロヴィ姉! ウチの奥様ズは皆、超甘えん坊だよ! グレース姉もクラリス姉も! いつも落ち着いた大人って感じなのに、ふたりきりだと子供みたいに、旦那様に超デレデレしてるんだよっ!」


 サキの声がひと際大きくなった。

 後ろからついて来るグレースとクラリスに聞こえたのは確実だ。


 これは絶対に教育的指導が来ると思ったら。

 案の定来た。


「こら! サキ! 往来でそういう事大声で言わない!」

「個人情報ダダ漏れでしょ!」


「うわ! またまたヤッバ!」


 グレースとクラリスに叱られたが……

 サキはいつものように、天真爛漫てんしんらんまん

 ひまわりのように明るく笑っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなこんなで、やがてキングスレー商会に到着した。

 今日はマルコさんから「相談したい用事があるからお会いしたい」と言われ、

 やって来た。

 

 良い機会だから秘書となったサキを改めて、そして新顔のロヴィーサを紹介。

 ついでに何か買い物がしたいと思っている。


 入り口に居た社員へ来訪を告げると……

 すぐマルコさんがやって来た。

 マルコさんは30代半ば、商会の幹部社員。

 中々のやり手で、会頭のお気に入りである。


 マルコさんには少し前に、アマンダの兄アウグストの商人修業の件で凄くお世話になった。

 それどころか、今や伴侶となったノーラさんをアウグストに引き合わせてくれた恩人でもある。


「ケン様、皆様、いらっしゃいませ。いつもお世話になっております」


「マルコさん、こんにちは! こちらこそいつもお世話になってます」


 サキ、ロヴィーサの紹介は改めてと言われ、あいさつが終わると……

 俺達一行は、早速VIP室へ通された。

 ちなみにVIP室とは、懇意で特別な上客とサシで商談する専用のサロンである。


 VIP室の豪華な内装に驚き、きょろきょろしているおのぼりさん状態のサキ、ロヴィーサを早速紹介する。


「マルコさん、今回から俺の秘書となったふたりです。妻でもあるご存じのサキ、それと新顔で、知り合いの身内であるロヴィーサです」


「マルコさん、改めまして。ケン・ユウキの妻兼秘書のサキでっす。宜しくお願い致します」

「ええっと、マルコ・フォンティ様、初めまして。ケン様の秘書ロヴィーサです。今後とも宜しくお願い致します」


「これはこれはご丁寧に。改めまして、キングスレー商会のマルコ・フォンティです。こちらこそ、宜しくお願い致します」


 無事に挨拶が終わった。

 以前から相談したいと言われていた件で商会へ訪問したけど、その前にまずはお詫びを伝えねばならない。


「マルコさん、そちらからのお話に入る前に、こちらからマルコさんへお詫びを致します」


「何でしょう? 私にお詫びとは?」


「事後報告で申しわけありません。……実はクラリスの新作の絵、ボヌール村の風景画なのですが、先ほどレイモン様へ直接お届けしてしまいました」

「ごめんなさい、マルコさん」


 俺とクラリスが深く頭を下げると。マルコさんは明るい言葉で応えてくれた。


「おお、それは! とてもお喜びになったでしょう」


 安堵した俺は、先ほどレイモン様が取った行動を伝える。


「はい、それはとても。すぐ執務室の壁にお飾りになりました。しかし基本は商会経由でお売りするという話だったのに、飛び越えてしまい申しわけありません」


「何を仰います。ケン様は日々、世界の平和にご尽力されている御方。そのようなお気遣い、嬉しいですが、無用です」


「いえ、本当に申しわけないです」


「いえいえ、クラリス様の絵は、今後もレイモン様へ直接お持ち頂いて構いません」


「え? 良いんですか?」


「はい、当商会は王家の御用達で、あの御方には特にたくさんお取引をして頂いておりますから。それにご気分よくお牡事が出来るようにと、ウチの会頭がクラリス様の絵をお届けしたのがそもそもの趣旨ですので、全然構いません」


「そうですか、ありがとうございます」


「では、ケン様。話を変えます」


「話を?」


「はい、本日ご足労頂いた趣旨、ご相談したい件について話をしたいと思います。……実はケン様が考案し、お作りになった便利なモノを、当商会でも作らせて頂けないかと」


 え?

 俺が考案して作った便利なモノ?

 それをキングスレー商会も作る?

 ライセンス生産って事?

 一体、何だろうか?

 とりあえずマルコさんの説明を聞こう。


 俺達は言葉を返さず……

 じっとマルコさんの次の言葉を待ったのである。

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