第40話「王都見物⑤」
露店で買い込んだ串焼き、パテ、ラグーなど料理を食べ終わり、
「じゃあ食後のデザートは」と周囲を見回したら……
生フルーツを売る店がすぐ傍にあった。
その店は俺達が座るテーブル席から近い。
なので、何かあったらすぐ俺が駆け付けられる。
という事で、サキとロヴィーサを出撃させた。
何を買うのかはお任せと、銀貨数枚を渡したら、わいわい大騒ぎして、い~っぱい買って来た。
クラリスとグレースは苦笑したが、サキとロヴィーサは別腹とばかりにガツガツ食べ始める。
4人ともフルーツは大好きなので多くを譲り、俺はひと口だけ貰った。
という事でランチ終了。
ナンパ騒ぎに時間を結構取られてしまったので、ちゃきちゃき行く。
頼まれていた食材等を市場でさくさく買い、オディルさんのお墓参りへ……
記憶を手繰り、しばし歩くと……ビンゴ。
こじんまりとした墓地に出る。
ここがオディルさんの眠る墓地だ。
そう広くない敷地には、十字架の墓標が並んでいた。
墓地へ入り、更に歩くと……
オディルさんの墓標があった。
お墓は、タバサと来た時とあまり変わっていなかった。
しかし……
以前に来た時同様、お参りする人は殆ど居ないらしく、誰かに供えられた花は完全に枯れていた……
俺達は全員でオディルさんのお墓を綺麗に清掃し、市場で買って来た新たな花を供え直した。
少し間を置き……
俺が声をかけ、全員で黙とう、オディルさんの冥福を祈った。
過ぎ去りし、楽しかった日々の記憶が甦り、切ない思いが胸を満たす……
オディルさんが亡くなってから、時は流れた。
もう彼女は愛する旦那様と再会を果たす事が出来たのだろうか……
否、とっくに再会して、どこかへ転生。
またふたりで仲睦まじく幸せに暮らしているはず……
そう、信じたい。
オディルさんの墓参りが終わると……
次は商業街区のキングスレー商会へ行く。
墓地を出る時、サキが話しかけて来た。
唇を「ぎゅっ」と噛み締め、しんみりした表情である。
傍らのロヴィーサも暗い顔付きでホッとため息を吐いた。
俺は一旦、歩みを止めた。
「旦那様、哀しいね……」
「ああ、哀しいな」
「ねえ、私達、一旦死んだじゃない」
「ああ、死んだな」
「いつか、また死ぬんだよね?」
「ああ、死ぬよ。確実にな」
「私……交通事故で死んで、気が付いたら変な世界に居て、神様から転生したって言われて、あっというまにひとりぼっちになって……怖かったよ」
「そうか……俺もそうだったよ」
「でもでもっ! 今は怖くないっ! 旦那様が居るもん!」
「だな、俺もお前達が居るから、大丈夫だ」
「だよねっ! サキは死んでも生まれ変わってまた旦那様と会うんだもん! そして再び結ばれるの! 絶対にね!」
サキは左手を伸ばし、ぎゅっと俺の右手を握った。
そんな俺とサキのやりとりを、黙って見ていたロヴィーサであったが、意を決したように右手を伸ばし、空いている俺の左手を握る。
「わ、私も! 死んでも生まれ変わって! ま、また、ケン様とお会いしたいです!」
亡きオディルさんの事情は、サキからロヴィーサへ伝わっているのだろう。
優しいロヴィーサの事だ。
限りある人生の
不死の悪魔族は、創世神様の
人間と同じく、確実に死ぬ運命を与えられ、人魔族の死生観は確実に変わったはずだ。
無言でついて来るクラリスもグレースも……
サキやロヴィーサ同様、切ない想いを抱いているのだろう。
でも俺は信じている。
死しても嫁ズとはまた会えると。
仲間となったロヴィーサだって、どういう形であれ、再会出来ると思う。
何故なら、サキを含め、3人のクミカ、初恋の想い人と、俺はこの異世界で再会したから。
アマンダことフレデリカも、ベアーテことベアトリスとも再び会う事が出来た。
死さえ、ふたりを分かつ事は出来ないという……愛の言葉はありうる。
論より証拠。
俺と嫁ズとの運命的な出会いはその物言いを実証している。
固く握られているふたりの手を、軽くきゅっと握り返し……
俺は再び歩き出したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次に俺達が到着したのが博物館。
美術館か、どちらにするか大いに迷ったが……
ロヴィーサが人間の文化について学ぶという趣旨を優先した。
サキは改めて美術館へ連れて来よう。
そう伝えてあるから、彼女から何も不満は出ない。
却って、ロヴィーサの為にというスケジュールで喜んでいる。
さてさて!
王都の博物館は古代遺跡から出た魔道具を中心に展示する施設だ。
これらの魔道具や遺跡から出た出土物を絡め……
綿々と連なる古代文化の紹介をする事に重きを置いていた。
ここはクラリスを始め、嫁ズの何人かと来ている。
そうそう亡霊だったベアトリス、現ベアーテともね。
俺も考古学は興味津々とまではいかないが、結構好きである。
古代のロマンという響きも良いし、ベアーテとの一件で、ガルドルド魔法帝国の事をいろいろと学んだ。
展示物は以前と多少変わっていた。
入れ替え、配置換えがたまに行われているらしかった。
展示物を順次見て行くと……
何だか、ひどく懐かしい。
帰ってみやげ話をしたら、嫁ズの何人から、また連れて行ってくれとせがまれるに違いない。
「ケン様、人間文化の変遷について、とても勉強になりました。ありがとうございます」
やがて、見学を終わったロヴィーサは、俺に向かい、笑顔で深々と頭を下げたのである。
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