第39話「王都見物④」

 王都の中央広場。

 ランチを摂りに、露店を物色していた俺達。


 サキ、ロヴィーサ、クラリスを襲ったナンパ男どもを撃退したら、今度はグレースがナンパされていた。

 グレースをナンパしていたのは、貴族風の男であった。


 ふるさと勇者たる聴力抜群な俺の耳へ、奴の口説き文句も入って来た。


 何と!

 「俺の愛人になれ。楽させてやる」だと。


 対して、グレースは「自分は人妻。結婚しています」と、きっぱりお断り。


 ここでロヴィーサが飛びこみ、

 「駄目です! お誘いなんか、きっぱりとお断りです! 私もこの方も結婚しております! 人妻なんですから!」

 と、猛抗議したのである。


 しかし貴族男はどこ吹く風。

 ロヴィーサが抗議を申し入れた後も「亭主と別れ、ふたりまとめて愛人になれ」などと抜かしていた。


 ここで俺が飛びこんだ。


 貴族男はふてぶてしい。

 俺をじろりと一瞥いちべつ


「何だ、てめえ」


「何だじゃない、ふたりの亭主だよ」


 と、俺が返せば。

 これまた、何と。


「はあ、平民かよ。金貨100枚くれてやるから、とっとと別れろよ」


 と、抜かしやがった。


 おいおい!

 何ちゅう言い草。

 

 その上、これまた何ちゅう、やっすい手切れ金だ。

 これで分かった。

 コイツは超ドケチ。


 愛人女子を楽させてやるだなんて。

 絶対に大ウソ。

 寝言は寝てからほざきやがれ。

 

 こいつも容赦なく戦慄のスキル。

 ドラゴンアイで攻撃だ。


 俺が「ぎろり」とひと睨みすれば、王都の害虫はイチコロ。


「ひゃああああああああああああ~~っ!」


 と奇声を発し、さっきのナンパ男ども同様、遁走してしまった。

 とりあえず、これで一件落着。

 サキとクラリスも加わった。


 全員が無事なのを見て、俺はホッと一息。

 グレースとロヴィーサをいたわる。


「グレース、ロヴィーサ。大丈夫か」


「はい、ロヴィがすぐ助けに来てくれましたし、旦那様も来てくれましたから」


と、グレースは笑顔で言葉を戻してくれたが、


 ロヴィーサは……

 緊張が解け、脱力。


「うわあああああああん! こ、怖かったですぅ!」


 安堵して、泣きだしてしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺はロヴィーサに礼を言いつつ、鎮静の魔法をかけ、落ち着かせた。

 またクラリスへ、グレースと一緒にテーブル席へ座り、待っているよう指示をした。


 そして、サキとロヴィーサを連れ、先ほどの串焼き屋へ行き、銀貨1枚の金を払って、オーダーしていた鶏と豚の串焼き各5本ずつ計10本を受け取ったのだ。


 サキは前世の経験から充分理解しているだろうが、ロヴィーサへ商品購入のロジックを教え、金という対価と引き換えに得る事も改めて教えた。


 泣きやみ、落ち着いたロヴィーサは「うんうん」と頷き、サキと共に熱心に聞き入った。


 よし、これでまた経験を積んでくれた。

 商品購入のロジックと、懸案事項のナンパもね……


 おっと!

 あまり「ぐずぐず」していると、残して来たクラリスとグレースがまたもナンパされてしまう。


 俺はサキとロヴィーサを促しながら、急ぎ戻りつつ……

 途中で数種のパンに紅茶も人数分購入しておいた。


 改めて全員集合。

 ようやく落ち着いて、お待ちかねのランチである。


 グレースが買っておいてくれたのは、数種類のパテと肉と野菜のラグー。

  

 以前、紹介したが改めて。

 パテとは肉をミンチより更に細かく刻み、ペースト状に練り上げる料理だ。

 お手軽な、豚や小魚のパテが安い。

 そしてラグーは簡単にいえば、シチューに近い煮込み料理だと思えば良い。


 ユウキ家恒例、「いただきます」の声と共に露店ランチ開始。


 ああ、今日も天気が良い!

 風も爽やか。

 こんな気候の良い日は、外で摂る食事は最高なのだ。


 全員、串焼きをかじり、パテを頬張り、ラグーを味わい、パンを食べ、紅茶を楽しむ。 

 飲み物はホントはワインがベストだが、万が一酔っぱらったら、いろいろな意味で危ういから、残念ながら今回はナシ。


「ロヴィ姉、とっても美味しいね!」

「ええ! 凄く美味しいですっ!」


 そんなロヴィーサへ、グレースが改めて礼を言う。


「ロヴィ、本当にありがとう。私を守ってくれて」


「そ、そんな! わ、私、必死だったので……でもナンパって、やっぱり怖いし、声をかけて来た男の人全員から邪悪な波動を感じました」


「うふふ……邪悪な波動ねぇ」


「はい、グレース様。ナンパは……サキが教えてくれた通りでした。こ、断り方も真似しました」


 ここで、サキが会話へ入る。


「ロヴィ姉!」


「は、はい」


「凄いよ、ロヴィ姉は、初めてナンパを経験したのに勇気あるよっ! たいしたもんだよっ!」


「そんな事は……ないです」


「うふふ、でも次は他の言い訳も考えないとね」


「他の言い訳……今回はケン様の妻……でしたものね」


「うん、時と場合に応じてね。ナンパの断り方っていろいろあるのよ」


 サキの話に頷きながら……

 ロヴィーサの視線はずっと、俺へ注がれていたのである。

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