第37話「王都見物②」

 午前11時を少し過ぎた……

 出掛ける準備も完了、ロヴィーサの『心構え』もバッチリ出来た。

 

 なので、俺達一行は王都市内へ出撃する。

 

 レイモン様の執務室の窓から見て既に認識していたが……

 本日は市内見物には絶好の快晴。

 

 しっかり戸締りをし、『隠れ家』から外に出れば、全員へ温かい陽がさんさんと降り注ぐ。


 見上げれば空は真っ青。

 ちぎれ雲が飛んでいる。

 吹く風はさわやかで気分が良い。


 俺が先頭に立ち、さりげなく四方を見回し、野外さながらに索敵。

 ふらちな奴らが女子達へ近寄らないか、魔法も併用しながら注意して歩く。

 

 直後に秘書役のサキとロヴィーサが続く。

 その後ろをクラリスとグレースが着いて来るという並び。


 しばし歩いたが、何とか大丈夫。

 ときおり、裕福な身なりの貴族とすれ違うが、あっちもスルーだった。

 

 改めて周囲を見回せば、さすが貴族街区。

 清掃が行き届いた道には綺麗な石畳が敷き詰められ、緑鮮やかな樹木が等間隔に植えられている。

 夜になっても暗くならないよう、最新型の魔導灯も等間隔で立っている。


 ロヴィーサは勿論だが、サキも王都に来た事はあるけれど、貴族街区は初めて。

 周囲に豪奢ごうしゃな屋敷がいくつも立ち並ぶ光景を見て、ふたりともびっくり。

 『おのぼりさん』さながらにキョロキョロしている。


「わあ! すんごいウチばっかり!」

「本当ですね」


 そんなふたりに俺は補足説明。


「ここいらは貴族、特に上級貴族の屋敷ばかりだからな」


 俺の説明を聞き、サキとロヴィーサは大いに納得。

 ますます話に花が咲く。


「ロヴィ姉、凄いね、王都の上級貴族って。でも先ほどお会いした王国宰相のレイモン様はその上を遥かに行くエリート王族。王様の弟にあたるお方なのよ」

「ええ、サキ。王都へ来る前、ケン様からお聞きしました。気さくでしたけど、凄いお方なのですね」


 サキとロヴィーサの会話を聞きながら……

 ふと気が付き、振り返って見やればグレースが、遠い目をして貴族街区を眺めていた。

 彼女は上級貴族ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサだった。

 

 ヴァネッサはこの王都セントヘレナで生まれ育った。

 しかし父は修道院に押し込まれ、余生を暮らし……

 兄ふたりが「失踪」し、ドラポール家は王家の命によりお取り潰し。

 彼女が生まれた屋敷は、取り壊されもう無い。


「おうい、グレース、おいで」


 いきなり俺から呼ばれ、ハッと我に返ったグレース。

 とことこ歩き、俺の傍らへ来た。


 即座に俺は右手を差し出し、つないで歩こうと提案。

 グレースも満面の笑顔で応え、手をつなぐ。


 王都は生まれ故郷ではある。

 だが今は、愛する俺と娘ベルティーユ、家族が居るボヌール村のユウキ家が自分の家であり、よりどころ。

 そんなグレースの熱い想いが強い波動で俺へ伝わって来る。


 負けじとサキがロヴィーサと手をつなぐ。

 俺と手をつながないのは、グレースを気遣ってくれたのだろう。

 サキは更に「ひとり」となったクラリスを呼ぶ。

 茶目っ気たっぷりに、呼ぶ口調も俺を真似ている。


「おうい! クラリス姉、私達と手をつなごう」


「うふふ、サキったら。ええ、つなぎましょ」


 こうして全員が手をつなぎ合い歩く。


 ああ、家族って良い。

 本当に素敵だな!

 

 こんなささやかな行為でも、俺は幸せを実感する。


 先ほど、ロヴィーサが語った言葉を思い出す。

 「励まし合い、支え合い、慈しみ合い、感謝して生きて行くのが愛なのだと実感したのです」


 至言しげんである。

 確かにそうだ。

 

 愛とははっきりしている反面、曖昧あいまいであり、決まった形はないと人は言うだろう。

 しかし、俺にとってはロヴィーサの告げた通りだ。


 励まし合い、支え合い、慈しみ合い、感謝して生きて行くのが愛なのである。

 愛により人は心の絆を結び、その絆は死がもたらす永遠の別れさえ、超越する。

 死んで転生した俺は、死別したクミカに遠きこの異世界で再会し、心のふるさとボヌール村で大切な家族を得たからだ。


 つらつらと考える俺へ……

 手をつなぐグレースから、ランチの提案というかリクエストが出る。


「旦那様、天気も凄く良いし、お昼ご飯は中央広場の露店へ行きましょ」


「了解」


 俺が快諾すれば、グレースは声を潜め、ささやいて来る。


「壁がなく、オープンな露店は、ナンパだけには要注意ですね」


「だな!」


「でも、旦那様。かつての私と同じ、箱入りおじょうのロヴィには一回くらいはナンパを経験させておくのもありですよね。今後の事もありますから」


「確かにそうだな」


「以前にナンパされたサキは、勿論注意するでしょう。けれど、私とクラリスもしっかり見張ってますから」


「ああ、悪いけれど頼む。でもお前達自身も注意してくれ。人妻でもナンパ男は見境ないから」


「はい、重々気を付けます。でもロヴィは特に、ナンパが絶対トラウマにならないよう、要注意ですね」


「ああ、そうだ。強引すぎる奴には特に要注意だな」


 俺は笑顔で返し、一同へ念話で宣言。

 周囲に他人は居ないし、気配もないから、聞かれる心配はないけど、念の為。


『お~い、ランチは露店へ行くぞ。好きなものを食べよう。その後は予定通り、市場で買い物、オディルさんのお墓参り、博物館見学、最後はキングスレー商会で打合せだ』


『『『『了解っ!』』』』


 打てば響くという言葉がぴったり。

 全員が大賛成。


 俺達はまず、中央広場へと向かったのである。

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