第32話「王都王宮へ①」

 翌朝……

 朝食を終えたユウキ家はタバサを始めとして子供達が学校へ出撃。

 わいわいがやがやしていた大広間は静まり返り、俺と教師担当以外の嫁ズ、幼子が残った。


 さあて、俺も出撃準備。

 今日は王都セントヘレナへ赴き、王国宰相レイモン様と会う。


 相変わらずレイモン様は多忙。

 魔王アリス騒動の前も後も変わらない。

 一日中執務をこなし、睡眠時間は3時間少しだと聞いた。

 はっきりいって働き過ぎ。

 ずっとこのペースでやっているといっても無理がある。

 だから、いつか倒れるのではないかと心配だ。


 あれだけ、頑張っているのだから、レイモン様の悲願、亡き奥様との再会……

 ぜひぜひ叶えてあげてください、管理神様お願いします。


 って……

 あれ?

 俺も一応、神様だっけ。

 

 全然、実感がないや。

 これまでやった俺の神様的な仕事って、新人女神の研修くらいだものなあ。

 

 そういえば、臨時の秘書として……

 人魔族リーダー、ロヴィーサ父アガレスをフォローしているのは、俺が指導した後輩女神のスオメタル。 

 彼女は上手くやっているだろうか?

 

 後で、念話連絡でもしておこう。

 ロヴィーサの研修報告も兼ねて。


 という事で、着替え完了。

 今日の俺は王都市民風。

 着込んだのはクラリス特製のお洒落なブリオーである。

 部屋で待っていると、まずは秘書役のサキとロヴィーサがやって来た。

 着ている服はといえば、サキはエメラルドグリーン、ロヴィーサは濃紺のうこんのブリオーである。


「旦那様、改めておっは!」

「改めておはようございます、ケン様」


「おお、改めておはよう! ふたりとも服、良く似合っているぞ」


「ホント? これサキのお気になんだ!」

「ケン様! ほめてくださり嬉しいです。ありがとうございます。レベッカ様からお借りしました」


 そんなやりとりをしていたら、クラリスとグレースも現れた。

 クラリスは萌黄色もえぎいろ、グレースは青紫あおむらさきのブリオー姿である。


 おお、皆、素敵だなあ。

 

 今日、王都でこの美女4人を連れ歩くと……

 俺の存在そっちのけで絶対にナンパされる。

 断言しても良い。

 

 もしくは「リア充爆発しろ!」と、王都の男どもからガンガン陰口を叩かれる事だろう。

 陰口は仕方ないしてもナンパは困る。

 まあ、魔王の威圧と同じ効果のある『戦慄』のスキルで撃退するけどね。


 全員揃ったところで、サキとロヴィーサが予定を読み上げる。

 ふたりとも最初に比べると随分余裕があり、落ち着いていた。


「これから転移魔法で移動。午前8時50分王都王宮着。場所はレイモン様執務室の隣室従者控え部屋。打合せは隣室の執務室にて午前9時開始、打合せの終了は午前11時予定となっております」

「打合せ内容は各種族の状況報告及びすり合わせです。それとクロード・オベール様の男爵陞爵しょうしゃく辞令のお預かりがございます」


 おお、凄いというか秘書として物言いや仕草が板について来た。

 ちらっと見れば、クラリスもグレースもうんうんと頷いていた。

 サキとロヴィーサは誰もが認める秘書となりつつある。


「よし! じゃあ出発するぞ」


「「「「はい!」」」」


 俺の合図に4人が応えた瞬間。

 全員が王都の王宮へ跳んでいたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 跳んだ先は昨日のオベール様の城館と同じパターン。

 サキが告げた通り、レイモン様執務室隣室の従者の間である。


 オベール様の城館以上に王宮に俺達が居る事が露見したら大騒ぎ。

 王国宰相のレイモン様が執り成してくれても、誤解を解くまで時間がかかる。

 第一、レイモン様に大迷惑をかけてしまう。

 それはまずい、絶対に避けねばならない。


 俺はまずこの部屋と執務室へ防音の魔法をかける。

 これで護衛の騎士には何も聞こえない。


 クラリスとグレースは見覚えのある部屋へ無事到着という事でにっこり笑う。

 しかしサキとロヴィーサは、やはり緊張気味。

 さすがに王宮は受けるプレッシャーが全然違う。


 こういう時は魔法使いなら定番の呼吸法で気持ちを静める。

 魔法が行使不可の常人なら深呼吸が得策であろう。


「サキ、ロヴィーサ、落ち着け、呼吸法だ」


「はい、旦那様」

「ケン様、了解です」


 すーはー。

 すーはー。


 俺も付き合い、ふたりと一緒に呼吸法を行う。


 3人の様子を見たクラリスとグレースも深呼吸で付き合ってくれた。


 すーはー。

 すーはー。


 静かな部屋で、5人の呼吸音がやけに大きく聞こえた。


 そんなこんなで懐中魔導時計を見れば、午前9時少し前。

 まもなく……午前9時となる。


 ……そして午前9時となった。


 俺は4人に目くばせし、レイモン様の執務室にある扉を、軽くノックしたのである。

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