第28話「勉強になります!」

 俺と一行は、更にエモシオンの街を巡り……

 各所を見た後に、2軒目の店舗候補へとやって来た。


 ここも飲食系の店だったらしい。

 内装がそのまま、調度品のテーブルとイスも残っていた。


 しかし前の店よりもこじんまりとしているのと、残ってる内装に調度品もやけに豪華。

 カウンターに止まり木っぽい椅子もある。


 ひと目で分かった。

 ここは元居酒屋ビストロ、それも前世にあった高級なクラブに近い居酒屋ビストロだ。


 俺はこの店舗でティターニア様が店を開店し、営業する様子を想像してしまった。


 高級なクラブ……そして妖艶なティターニア様がママ。

 美しい妖精侍女達がスタッフ……


 はまるというか、ピッタリに思えなくもない。

 大繁盛の予感がする。

 しかしオベロン様の憤怒顔も目に浮かぶ。


 念の為、職業に貴賎はない。

 しかし妖精王は人間の男にもてはやされる美貌の妻を見て、けして喜ばないだろう。

 となれば、怒りの矛先は必ず俺に来る。

 どうして、このような店をオープンさせたのかって。

 ヤバイ!

 世界平和の危機だ!


 え?

 お前が副業で、そういう店をやってみろって?

 人間にアールヴ、多士済々の美人妻11人を使えば大繁盛間違いなし?


 いやいや!

 愛する嫁ズが他の男から口説かれる!?

 そんなの嫌だ!


 俺もオベロン様同様に耐えられない。

 という事で、却下としよう。


「お父様」


「な、な、何でしょう? ティ、ティファナ様」


「あれ? 何故、噛んでいるの?」


「い、いや、何でもないです」


「変なのぉ……それより、ここも飲食店よね?」


「え。ええ、飲食店です。お酒中心の飲食店ですね」


「うふふ、良いじゃない。ねぇ、一杯どう? お客さん、ボトル入れる? って感じかな」


 何、何?

 ティターニア様ったら、変に良く知ってるじゃないですか!?


 と思ったら、すぐに種明かしされた。


「うふふ、以前ケンの心を読んだ時、記憶にあったのよ」


「あ、ああ……そうですか。俺の記憶っすか」


 良かった!

 って……心が読まれてただけ?


 ちなみに俺はそんな店へ行った事がない。

 多分、その記憶は前世で見たテレビドラマのワンシーンか、何かだろう。


 ならば、まあ……良いか。

 ホッとしたような、しないような微妙な感じだ。


 つらつら考えていたら……

 俺の複雑な表情を見て、ティターニア様はすぐ分かったらしい。


「ねぇ、お父様は……この店は……反対みたいね?」


「ええ、ちょっと……」


 口ごもりながら、意思を伝えたら、今度こそズバリ来た。


「うふふ、人間の男に私がちやほやされたら、ウチの夫がやきもきするからでしょ?」


「ええ、俺もですから」


「え? 俺もって? もしかして私を心配してくれてる? うれしいっ!」


 俺は……もしも自分がオベロン様と同じ立場だったら、口説かれるウチの嫁ズが心配。

 だから嫌だと言ったつもりであったが……曲解されたらしい。


「うん! お父様がそう言うのなら、この店舗は候補から外すわ。チェックも完了したし」


「あ、ありがとうございます」


 何とか2軒目の下見は終わった……


 俺は何とかティターニア様へ礼を言い、全員で店舗を後にしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 3軒目の店は、普通の商店だったらしい。

 食料品か、雑貨を売る店だったのか……

 

 でも内装も調度品も皆無。

 「からっぽ」だから分からない。


 ティターニア様とベリザリオとアルベルティーナは熱心に見ながら、メモしていた。

 これは1軒めから、ずっと同じだ。

 店の中だけではない。


 俺は以前、下見をした際、嫁ズへ教えた事もレクチャーした。


 まずは店の前の人通り。

 人が居ないのは論外。

 多いに越した事はないし、店の前の道路の幅も、ある程度広い方がベスト。

 

 次、付近には人が利用する大きな施設があると◎

 エモシオンならば中央広場と市場、商店街、そして創世神教会とか。


 次、店は路面店が基本、それもパッと見、目立つのが◎

 路面店とは、道路に直接面している店の事。

 逆に空中店舗、または階上店舗という店もあり、例えば2階以上の店なんかはそう呼ぶ。

 また地下の店も路面店とは言わない」

 そして路面店のメリットとは、目立つ事。

 はっきり店だとお客様が判別出来るの。

 比べて2階や地下の店は、看板を出したりして工夫をしないと、そこが店だと分からない事も多い。


 最後に……

 店の雰囲気も重要である。

 入り易い店とそうではない店ってある。

 当然、入り易い店が◎。

 

 具体的に言うのなら、入り口が広くて、中の品ぞろえがはっきり見えるとか、

 店員の接客が元気が良くて丁寧とか、

 他のお客さんがたくさん入っているとか、

 全体的に見て、雰囲気が良いと入り易いのだ。


 俺の説明を聞き、妖精軍団は勿論……

 サキとロヴィーサも熱心にメモを取っていた。

 良い事だ。


 ティターニア様達が妖精同士で話し込んでいるから、俺はそっと離れ、サキ達の下へ行く。


「サキ、ロヴィーサ。頑張ってるな」


「うん、旦那様! いろいろ勉強になるよ。私だって将来、店もやりたいから!」

「はい、ケン様。私もサキと同じです。それに秘書業務以外、いろいろと為になります。凄く楽しいです」


 ふたりとも晴れやかな笑顔を向けて来た。

 確実に将来への糧となっている。

 そんな気持ちがはっきりと表れていた。


 そんなこんなで昼が過ぎた。

 ランチタイムが終わったら……

 昼営業の終わったエモシオン&ボヌールのカフェを、俺達一行の貸し切りにするよう予約してある。


 しばし経ち、頃合いと見た俺は再び全員を促し……

 3軒目の店舗を後にしたのである。

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