第3話「想定外の出会い②」

 俺はキッとメフィストフェレスをにらみつけた。


『おい! こちらの都合も考えず、またも、いきなり現れたな……メフィストフェレス。用件は何だ?』


『ふふふ、お仕事中失礼します。しかし今夜急に伺ったのは大事な用件だからなのですよ。今夜はケンさんにいろいろとご紹介をしたいと考え、参上致しましたので』


 相変わらず一気に慇懃に……

 コイツの喋り方は変わらない。


『大事な用件? いろいろとご紹介?』


『は~い、まずは私の上席を紹介致しましょう』


『上席?』


『うむ、宜しくな』


 メフィストフェレスに促され、応え、闇の中からぬっと現れたのは……


 やはり複雑な文様の刺繍が施された。濃緑の法衣ローブをまとう、

 金髪の老魔である。


 こいつも……

 放つ強烈な魔力から分かるが、ただ者ではない。


『ケンとかいう小僧はお前か……わしは悪魔公爵アガレス。お見知りおき願おう』

 

 悪魔公爵アガレス……中二病の俺は名前だけは知っている。

 確か、ソロモン72柱の上位に位置する悪魔だ。

 巨大なワニに跨っている姿が記憶にある。


『……ふん、超が付く上級悪魔ふたりが、俺に何の用だ?』


 と、俺が再び鼻を鳴らすと、

 相変わらずメフィストフェレスは慇懃いんぎんに言う。


『ふっ、その前に、とうとう神になったとの事で、ケンさんへお祝いを申し上げたいと思います。おめでとうございます!』


 うっわ!

 こいつ、心にもない事をぬけぬけと!

 それにしっかり俺の現立ち位置を知ってやがる!


 続いてアガレスも俺に向かって祝いの言葉を述べるが、

 こちらは分かりやすく、高圧的この上ない。


『ふむ! 聞いていた通り、くそ生意気な小僧だ! でも致し方ない。儂も祝辞を述べるとするか……良かったな、小僧!』 


 超上から目線で小僧と言われても、俺は全く平気だが……

 まずい理由があるらしく、メフィストフェレスがたしなめる。


『おやおや、アガレス様。それでは祝辞になっておりませんよ』


『ふん! ほっとけ』


『そういうわけには行きません。これから大事な会談が控えているのですよ。ケンカを売るような言い方で、この場の雰囲気を悪くしてはいけませんね』


 重ねてメフィストフェレスがたしなめると、さすがにアガレスも矛を収める。


『むう……そうだったな。ならば、言おう、めでたいものだ……』


 無理くり言わされた祝辞より、俺はメフィストフェレスの言葉が気になった。


『これから? 大事な会談?』


『はい! 実は……』


 尋ねた俺に、メフィストフェレスが返そうとしたその時。


『ちょ~っと、待った! そこから先は自分で言うわ!』


 俺とフィオナの目の前で、いきなり蒼い炎が煌いた。


 そして炎の中から、3人目の悪魔というか、

 一見10歳未満という雰囲気の少女が現れた。


 少女は、長いさらさらな流れるような金髪に美しい碧眼。

 可憐な顔立ち。

 

 ちょっとだけ、家出したてのテレーズに似ているかも……

 まあ、はっきり言って超が付く美少女。

 だが、所詮は仮初かりそめの姿だろう。


 俺が「誰だ?」と聞く前に、メフィストフェレス達は、主君の名を呼ぶ。


『偉大なるアリス様!』

『我が主、魔王アリス様!』


 えええっ!?

 こいつが!?

 

 悪魔だとは認識しているけど……

 まさか!!

 この子が魔王!?

 大いなる主!!


 アリスと呼ばれた美少女の服装はといえば、鮮やかな青いドレス。

 フリル付き&襟付きの白いエプロンを組み合わせたピナフォア。

 黒いストラップシューズを履いていた。


 おいおい!

 この姿は……

 何となく前世の某有名な物語の主人公に見覚えがある。

 だけど……沈黙は金。

 敢えて余計な口出しはしないでおこう。


 まあ、メフィストフェレスとアガレスへの物言いや態度からすれば、

 彼女が『大いなる主』確定であろう。


『魔王? アリス? もしや!』


 と、俺が言いかけると、アガレスから突っ込みが入る。


『こら、小僧! 軽々しくアリス様を呼び捨てにするでないっ!』


 何なんだ?

 俺は呆れて言葉を返す。


『アガレスと言ったな、上級悪魔の癖にあほか、お前は?』


『何! あほだと! ぶ、無礼な!』


『何が無礼だ、良く考えてみろ! いくら名誉職だと言っても、俺は神。魔王を敬う神など聞いた事がないぜ』


『むぐぐ!』


 正論過ぎる正論に沈黙のアガレス。


『ふん、納得したか』


 と、俺が念を押すと、アリスは爆笑した。

 

『きゃはははははは! それって道理。よってケンの勝ちぃ! 良いわよ、私の事はアリス、と呼び捨てで!』


『おお、さすが魔王アリス様、寛大なるお心で』と、メフィストフェレス。

『大いなる主アリス様がそう仰るなら……』と、アガレス。


 あ~あ。

 良い年した、悪オヤジふたりが年若い美少女に頭が上がらないとは……

 3人は多分、お嬢様、じいやの関係なんだろう。

 

 まあ、良い……

 大いなる主――アリスの機嫌はすこぶる良いようだから。


 ならば、腹を割って話せるやもしれない。

 俺は大きく息を吐くと、魔界の王に相対したのであった。

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