第7話「ぜひ! お願いしたい!」

 魔王アリス降臨という大事件……

 それもボヌール村へ住むという、想定外の事態も発生……


 オベロン様へ一報を入れ、ティターニア様の件等々、交通整理をした俺は、

 続いてイルマリ様へ連絡を入れた。


 伝え方はオベロン様と全く同じ。

 ただイルマリ様は熱くなりやすい方。

 なので、出来る限り淡々と事実のみを伝えた。


 しかし……

 やはりイルマリ様は興奮し、燃え上がった。


『ケン! どうする!』


『いえ、ティターニア様の時と同じです。普通に暮らして貰いますよ』


『おいおい! 普通にって、お前!』


『いえ、下手に騒いで、いたずらに相手を興奮させる事は得策ではありません。いきなり侵攻されるより、全然マシですよ』


『それは、そうだが……悪魔は信用出来ん』


『まあ、確かにそうです。油断は出来ません。なので先日取り決めした事は継続しましょう』


『むむむ……』


『でも魔王が単身、乗りこんで来るという事実を冷静に考えましょう。一種の人質ですからね』 


『そうとも言えるが……分かった、レイモン様にも相談してみよう』


『レイモン様? オベロン様ではなく?』


『ああ、レイモン様だ。オベロン様のお考え、ご判断はお聞きした。敢えて私が意見する必要はない。それよりもレイモン様と話をしたいから、先に今の件を伝えておいてはくれないか』


『了解です』


 イルマリ様の考えは見えて来る。

 主筋のオベロン様が決めた事に、反対を述べ、角を立てたくない。

 そもそも意見を言い難いのだろう。


 それより近しい関係になったレイモン様に相談し、意見を仰ぎたいというのが、

 本音に違いない。


 でも嬉しい点もある。

 ……イルマリ様は本当に変わった。

 謙虚になったし、他者の意見を聞く耳も持つようになった。


 だが何よりも、見下していた人間のレイモン様と、

 信頼関係を築きつつあるのが嬉しい。


『了解です! では1時間後に、魔法水晶を使い、レイモン様へ連絡を入れてください。レイモン様と話が早く終わったら、その時点で、すぐイルマリ様へご連絡しますよ』


『分かった!』


 というわけで、最後にレイモン様へ連絡を入れた。

 いろいろと経緯を説明した。


 すると……

 レイモン様は確かに驚いたのだが、結構冷静だった。

 俺に近い考えかもしれない。


『ケン、少なくとも魔王が目の届く場所に居て、コミュニケーションが取れるならば、私はその方が良いと思う』


『同意です』


『うむ! 私達の知らないところで、何かを企み、突発的に攻め込まれるより全然マシかもしれない』


『ですね』


『ただひとつ確認したい。ケンよ……魔王アリスは……傀儡かいらいではないのか?』


 傀儡かいらいとは操り人形の事……

 つまり自分の意志や主義を表さず……

 メフィストフェレスやアガレスの言いなりに動き、

 利用されている偽りの魔王ではないか? という尤もな疑問だ。


 そして俺に「判断して欲しい」と言う問いかけでもある。

 対する、俺の答えは……


『違うと思います』


『ふむ、その根拠は?』


『アリスの詳細な能力は不明ですが、彼女から感じた魔力が桁違いでした』


『魔力が桁違い……そうか』


『はい! アリスの魔力はメフィストフェレスの数倍とか、そんなレベルじゃありません。抑えているフシはありますが、少なくとも数十倍かと』


『そんなにか!』


『はい! 悪魔は力を信奉します。主従のやりとりも聞いていましたが……完全に、上から目線の《お嬢様》と、下僕のような《じいや》そのものでした』


『そうか! では魔王アリスの……彼女の意思がイコール魔界全ての意思と判断して、間違いないな』


『はい! そしてアリスは、はっきり言いました。これから新たな時代が始まると』


『新たな時代……』


『はい。私達魔族も混ぜて欲しいと……遂に人間が、私達魔族と共存する時代が到来するのだと』


『成る程……魔族との共存か……難題だし、いろいろ乗り越えなくてはならぬ壁はありそうだが……戦いが避けられるのなら、それに越したことはない』


『はい!』


『当然、降伏などはしないがな』


『御意! その通りです』


 やっぱりレイモン様は頼もしい。

 そして優しい。

 俺をいつも気遣ってくれる。


『ふむ……またケンと家族達に負担をかけて申しわけないが……魔王アリスと折り合い、未曽有の危機を回避、新たな未来を切り開く大任を、ぜひお願いしたい!』


『了解しました!』


『ありがとう! 本当にありがとう!! ケンには深く深く感謝する!!』


『何、言ってるんですか? 今更……ですよ、兄貴!』


『ははは、いつも苦労をかけるな、我が弟よ!』


 最後に俺は、イルマリ様の願いを伝えた。

 レイモン様は、自分を頼ってくれると受け止め、大いに喜んでくれた。


 それからすぐにイルマリ様からも連絡が来た。


 お前に任せたい!

 全面的に協力するという、前向きな回答だった。


 これで心置きなく、魔王アリスと向き合える。


 そんなこんなで……

 「待ちくたびれた!」という雰囲気いっぱいなアリスを促し、

 俺はふたりでボヌール村へ戻ったのである。

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