第8話「これからも」

 イルマリ様と交歓した翌日の晩、同時刻……

 最後に夢で会うのは妖精王オベロン様である。

 

 何度も繰り返すが……

 今回も、前々回のレイモン様、前回のイルマリ様同様に、趣旨は全く同じ、

 4者会談前のトライアルである。 

 

 周囲は相変わらず、真っ白な異界、異次元、虚構の世界。


 これまた昨日同様、目の前には、既にオベロン様が居る。

 そしてトライアルだから、オベロン様はひとりではない。

 奥様の……テレーズこと、妖精女王ティターニア様も一緒なのである。


 これまでのレイモン様、イルマリ様と同じく、

 妖精王ご夫婦も、周囲を見回している。


 3回目ともなれば、もう完全にパターン化したが、とりあえず挨拶をしよう。


『オベロン様、ティターニア様、こんばんは。お変わりはありませんか?』


『ケン、また会えたな、このような機会を設けてくれ、嬉しいぞ』

『本当に……お父様、相変わらずお元気そうね』


 ここでひと言。

 ティターニア様が俺をお父様と呼ぶのは、少女のテレーズ化した際に、

 ボヌール村で父親代わりとなったからだ。


『ええっと、人化したオベロン様にはもう慣れましたが……大人のティターニア様から、そう呼ばれると……あまりピンと来ませんね』


『はははっ、そうか!』

『うふふふ』


『……実はこの異界から移動する前に、スペシャルイベントがありまして』


『この異界から移動する前? スペシャルイベント?』

『どういう事なの、お父様』


『ええっと……』


 俺が口ごもった瞬間!

 お約束通り、管理神様の声が全員の心に響く。


『妖精王オベロン、その妻ティターニア、いや、テレーズと言った方が分かりやすいな、私が誰なのか、分かるな?』


 うむむむ~、先のふたり同様に、

 俺と話す時と管理神様の口調が全く違う。

 

『な!? だ、誰だ! も、もしやっ!』

『ええ、そのお声は!!』

 

 対して、オベロン様とティターニア様は驚いているが、

 声の主がすぐ分かったようだ。

 

 例の『家出騒ぎ』の際、ふたりは直接、管理神様と話している。

 その時も管理神様は姿を見せず、やはり『声だけの出演』だったのか……


 俺がしょうもない事を「つらつら」考えていると、

 管理神様はさっさと名乗る。

 

『オベロン、ティターニア、久しぶりだな、管理神だ』


『や、や、やはり管理神様!?』

『そ、その節は! お、お世話になりましたっ!』


『うむ、夫婦喧嘩は、もうしていないだろうな?』


『は、はいっ! 全く! 皆無ですっ!』

『オ、オベは! い、いえ夫は、以前とは違い、とても優しくなりましたっ!』


『宜しい! これからも夫婦ふたり仲良く暮らせ、そして遥かなる境地アヴァロンを平和に治めよ!』


『は、ははっ!』

『かしこまりましたっ!』


『うむ! ケンとお前達が邂逅かいこうしたのは、他の者同様に運命である。あわや離婚の窮地を救って貰ったであろう』


『はい! ケンには、いろいろと救われました!』

『管理神様の仰る通りです!』


『よし! ならばその身を投げうって、世界滅亡の危機を打ち払い、救え! ケンに共感し、ともに歩け!』


『はい! そのつもりですっ』

『御意でございますっ!』


 ここまでは、ほぼ同じパターンの会話。

 まあ、おふたりの場合は、痴話喧嘩だけだから、

 話も早いし、分かりやすい事この上ない。


 となれば、そろそろ来る!

 いよいよ、来るぞっ!

 「ど~ん」と、直球のカミングアウトがっ!


『オベロン、そしてティターニアよ。ケンに従う事に臆し、遠慮する事はない。ケンはもはや、神となった』 


『おおっ!? ケ、ケンがあ!? か、神様、なのですかっ!?』


 うわ!

 オベロン様ったら、すっごく噛んでる。

 そしてイルマリ様とほぼ同じセリフだ。


 更に、ティターニア様も、


『まさか! お、お父様が! 神……様!?』


 さすがの妖精王夫婦も、驚愕&絶句。

 俺が神様というのは、やはりとんでもなくギャップが大きすぎる。


 ここからはまた、レイモン様、イルマリ様と同じパターンである。


『そうだ、ケンは今や神である。しかし我々のような天界の神とは違う』


『ケンは……いえ、ケン様は違うのですかっ?』

『ど、どのようにですかっ! お父様は見た目が全然変わっていませんが!』


『うむ! ケンは人の子の姿のまま、これまでと同じ考えで動く。だが普通の人の子と決定的に違うのは……つまらぬ垣根を超え、違う種族の価値観も受け入れる寛容さを持っている事なのだ』


 ああ、管理神様のマニュアルセリフさく裂。

 いちいち変えるのがめんどくさいから、一部のみ修正。

 でも……

 管理神様に突っ込むなど、さすがにヤバすぎる。

 

 俺がちらっと見やれば、先のふたりと同じく、オベロン様も、ティターニア様も納得して、

 大きく頷いている。


『管理神様の仰る通りですっ!』

『はい! 私も夫と全く同意でございますっ!』


『ふむ、オベロン、ティターニア、お前達もわずかな時間だが、ボヌール村に住み、変わったらしいな』


『はい、管理神様! 百聞は一見に如かず。人の子と交わる事で、誤解と偏見が解けました』

『私もです。妖精と区別する事無く人の子と深く接し、心を通わせました。思わず童心に帰り、完全に目覚めました』


『宜しい! 妖精王夫婦よ! お前達はようやく理解したようだ。ケンや他の者と、上手くやるのだぞ、さらばだっ』


 という事で、最後に管理神様が念押し、やはりカッコよく去って、

 カミングアウトの会話は終わった。


 管理神様が去った後……

 オベロン様とティターニア様は、しばらく呆然としていたが……

 やがて、ふたりとも真剣な顔付きで、俺へと向き直る。


 そして……


『ケン様……これからも私達妖精族と、よしなにお願い致します』

『はい! 夫の言う通り、寛大な御心で妖精族を愛し、助けてくださいませ!』


 ふたりはそう言うと、深々と頭を下げたのである。

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