第4話「フラヴィとリゼット」

 ミシェルとシャルロットの母子おやこも、クーガー母子に続いて、

 仲良く手をつなぎ、部屋から出て行った。

 

 そうかあ……

 シャルロットは、ハーブを作りたいのか……

 それも仲良し姉妹のフラヴィと固く約束して……

 

 ふたりが仲良く、村のハーブ園で作業するのが目に浮かんで来る。

 ハーブを作ったら、またいろいろやる事が広がるに違いない。

 料理?

 お店で売る?

 それとも……

 結果、また家族内の交流が増え、心の絆が深まって行く……


 ああ、楽しみだ!

 

 という事で、さあ、次の母子である。


 とんとんととん!

 鳴らされたのは、先ほどのミシェルとはまた違うノックだ。

 

 うん!

 今度はリゼット。

 やはりノックの音ですぐに分かる。

 彼女は愛娘のフラヴィを連れているだろう。


「入ってください」


 俺が入室を了解すると、

 扉がやはり、ゆっくりと開いた。


 完全にお母さんのフロランスさん化し、

 「きりっ」としたリゼットがきびきびと。

 そしてこれまた、リゼットそっくりになりつつある新たなしっかり者、

 でも、まだまだ甘えん坊のフラヴィが入って来た。


 俺は先ほどと同じく椅子を勧め、ふたりに座って貰った。


「旦那様、今日は宜しくお願い致します」

「パパ、よろしくねっ!」


「ああ、こちらこそ宜しく」

 

 リゼットはやはり笑顔である。


「うふふ、ミシェル姉とシャルロット、相変わらず仲良いよね」


 そして、フラヴィも母に同意。


「うん、シャルロットちゃん、ママがだ~い好きだもんねえ~」


 しかし俺は、


「いやいや、お前達も全然負けていないって」


 と、突っ込みを入れた。

 するとフラヴィは、さっきのレオみたいに……


「パパもだ~い好きだよぉ」


 とリゼット優先のコメントを言うから、

 これは『パパッ子』卒業かと、俺はちょっとだけ拗ねて……


「おいおい、フラヴィ。俺は『も』かい?」


 と言えば、今度はリゼットがにっこり。


「焼かない、焼かない、その分私が旦那様大好きだからっ!」


 すると、慌ててフラヴィが反論? 


「ち、違うよっ! 私、同じくらいママもパパも大好き! ホントだよっ」


「おう! ありがとうな、ふたりとも」


 このような会話は、ユウキ家ではエンドレス。

 幸せもエンドレス。


 だけどこのままでは、肝心の親子面談が始まらない。


「そろそろ、お話の始まりっ!」


 と、俺が無理やりクロージングし、フラヴィの希望するであろう、

 将来の話が開始されたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 これまでの経験から俺は学んだ。

 会話というのは、きっかけが重要。

 つまり導入時が大きなポイントとなる事を。


 ファーストインプレッション。

 つまり会った時の第一印象と一緒。


 話しかける際の態度、話の内容により、

 相手が好意を抱いてくれれば会話は弾む。

 逆もまた然り。


 という事で、先ほどシャルロットから聞いたハーブの話はあるが、

 こちらから、いきなりその話題はふらない。

 相手にもよるが、最初は『聞き役』に撤するのがベストである。


 どんな話題で、気持ちを引き出そうかなと考えていたら、

 フラヴィが、リゼットへ向かって言う。


「ねえ、ママ。パパへあの話をお願いしても良い?」


 あの話?

 ハーブの話かな?


 と思い、俺が見守っていたら……


「ええ、良いわよ。ママも一緒に聞くから」


 と、リゼットがOKを出した。

 すると、フラヴィがせがんで来る。


「パパ、今まで何度も聞いたけど、またお話しして! お願いっ!」


 今まで何度も聞いた……

 愛娘からそう言われて、俺にはすぐ分かった。


 フラヴィは……

 俺とリゼットが『出会った時の話』を聞きたいのだと。


 リゼットは「俺との出会いが一生忘れられない」っていうのが口癖。

 事あるごとに言う、『運命の出会い』なんだと。


 まあ、俺だってそう。

 ボヌール村は一番の最寄りだったけど、

 リゼットに出逢ったから、住む事を確定させた。


 ソフィが入って3人で話す時、

 リゼットが、あの日薬草を取りに行かず、

 原野に放たれた俺と、もしも出逢わなかったらというイフの話に良くなる……

 

 俺の最初の『不時着』がボヌール村を通り越して、

 もしもエモシオンだったらとか……

 

 万が一そうなったら、最初に出会う女子がリゼットではなかった。

 全くの別人に変わり、それに伴い、現在の運命は大きく変わっていたかもって、よく笑い話となるのだ。

 

 まあ話の『落ち』は出逢えて良かったね、めでたしめでたしと、

 お互いの笑顔で終わる。


 閑話休題。

 

 あの運命の日、リゼットが今は亡きおばあちゃんの為に、

 西の森へ内緒で行って、ゴブリンの大群に見つかり、襲われた。

 もう駄目、絶体絶命という時に、俺が現れて危機ピンチを救った。


 その時の様子を話す時のリゼットは、身振り手振り付きのオーバーアクション。

 瞳に星がいっぱい宿った夢見る乙女。


 素敵な王子様が可憐な王女様を助けたかの如く、

 ロマンティックな童話のように話すのだ。

 たまに村内で紙芝居をやる際、語り部を担うから、

 その影響もリゼットに出ているかもしれない。


 さらにその話を具現化したのが、クラリスが描いた『奇跡の邂逅』

 俺がリゼットを救った『奇跡の邂逅』が、彼女の部屋に飾られてから、

 俺は愛娘のフラヴィから何度も話をするようせがまれたのである。


 面談の時間は限られていたが、俺は愛娘の要望に応えてあげた。

 パパとママの運命、否、宿命と言える邂逅の物語を……

 フラヴィは勿論だが、リゼットも一緒になって、嬉しそうに聞いていた。


 話が終わり、フラヴィが言う。


「パパ、ママのラッキーアイテムはハーブなのよ」


 成る程、確かにそうだ。

 ハーブがあったからこそ、リゼットは俺と出会い、

 彼女はライフワークも見つけ、その夢は叶いつつある。

 

「ああ、そうだな」


 俺が同意すると、フラヴィは、


「パパ、私もママにあやかる。大好きなハーブを育てて、いっぱいいっぱいラッキーを運んで貰うの! シャルロットちゃんと一緒に、必ず幸せになるわっ!」


 と、母リゼットそっくりの夢見る瞳で熱く語った。


 リゼットは大人になって、初めて出会った少女の頃よりも、

 ずっと現実的になった。

 夢ばかりを見なくなった。

 それは仕方のない事で、俺だってそうだ。


 しかし、愛娘のフラヴィがリゼットの夢をしっかり引き継いでくれる。

 いろいろな意味で……


 とても嬉しくなった俺は、


「頑張れよ」


 と、張り切るフラヴィを優しく励ましたのであった。

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