第11話「証言から告白へ①」
やがて……
ノーラさんが社員寮へやって来た。
通常なら研修が開始される時間である。
俺、アウグスト、不良社員の3人、
そして寮母のサンドラさんだけがラウンジに残っている。
事件の
関係のない他の社員達は一旦自室へ戻って、待機して貰っていた。
普段とは全く違う、ただならぬ雰囲気を感じ取り、
ノーラさんは訝し気な表情で、サンドラさんへ問う。
「何か、あったすか?」
「ええっと……」
いかにも言い難そうに口ごもるサンドラさん。
「では」と、俺が代わって説明する。
俺の治癒魔法により、既にアウグスト及び、絡んで来たレミネン商会不良社員3人のアールヴは回復。
意識も戻っており、無言で俺とノーラさんのやりとりを見つめていた。
無駄な話はしない。
あまり脚色せず、俺は簡潔にありのままを伝えた。
ラウンジにおいて、不良社員3人と兄アウグストが話していたところ、
会話の中で、彼の妹――つまり俺の嫁アマンダがひどく侮辱された事。
アウグストは口頭で抗議した事。
不良社員3人が、卑怯にも全員がかりで、ひとりのアウグストに対し暴行した事。
争う声を聞きつけた俺もラウンジへ駆けつけ、抗議をしたが、
逆に「アマンダを乱暴するぞ」と脅された上、実力行使され、
やむなく反撃した事。
「残念ながら3人を説得出来なかった、暴力に訴えて申しわけない」
俺が謝罪すると、血相を変えたノーラさんは硬く厳しい表情で、
首を横に振った。
「とんでもないっす。お詫びしなければならないのはこっちっす」
ノーラさんはそう言うと、不良社員3人組へ向き直った。
「お前達、今、ケン様が仰った事に相違はないっすか?」
「いえ、相違はありますよ、お嬢様。この人間が言う事はデタラメ、全くの事実無根です」
「私達3人が研修出発前にラウンジで談笑していたら、アウグストが来て、いきなり暴力を振るい、俺に従えって」
「お嬢様、こいつの言う事は大嘘です。私達は完全に無抵抗でした」
おいおい!
とんでもない奴らだ。
俺が回復魔法でケアまでしたのに……
自分達の犯した罪を、完全にしらばっくれる気満々だ。
不良社員達の弁明を聞いても、ノーラさんは無表情だ。
将来の経営者として……
このような時、感情を簡単には表に出さぬよう訓練しているのかもしれない。
淡々と言う。
「……ではアウグスト様、ケン様に続いて証言をお願いしまっす」
「はい」
と返事をし、アウグストは大きなため息をついた。
そして言う。
「私は悲しい」
「いきなり……悲しいって……一体どういう事っすか、アウグスト様」
「ノーラさん、性根です。彼等3人にはアールヴの真の誇りがない」
アウグストからきっぱり言われ、不良社員3人は血相を変える。
弱く薄っぺらな癖に、プライドだけは山のように高いようだ。
「何言ってるんだよ! 俺達に真の誇りがないって?」
「あ~? 真って、どういう事だぁ」
「具体的に言ってみせろ」
叫ぶ不良社員達。
だが、ノーラさんは手をさっと挙げて制止する。
「……シャラップっす。……アウグスト様、続けてくださいっす」
「はい、アールヴは誠実であれ、嘘をつくな。世界で最も貴き優れた種族として、高き誇りを持ち、他の種族の上に立ち、行動せよという初代ソウェルの教えがあります」
「ええ……アールヴなら誰でも知っている教えっすね」
「はい。でも彼等は誠実ではありません。真っ赤な嘘をついています。それもたくさん……アールヴの高き誇りなど皆無なのです」
アウグストの証言――告発を聞き、不良社員3人は相変わらずいきり立つ。
「あんだと!」
「お前こそ、嘘付きだ」
「お貴族の軟弱野郎!」
不良社員達の口汚い言葉を聞き、不快そうに眉をひそめるノーラさん。
「お黙りなさいっす。……アウグスト様どうぞ」
「でも、私だって彼等の事を言えた義理ではありません。アールヴ族こそが世界で一番優れた種族だと威張り、人間を含め他の種族は著しく劣っていると馬鹿にしていましたから」
「…………」
「それ故、人間や他の種族を奴隷の如く扱い、意味もなく
「どういう事っすか?」
「妹を侮辱する彼等を見て私は思い知りました。まるで鏡の中の自分を見ているようでした。私は誤解していたのです。何も分かっていなかったのです。根拠も裏付けもなく、人間は愚かで下等だと信じ込んでいました」
「…………」
「そして実を言えば……人間のケンと結婚したアマンダを心の底から
「アマンダさんを?」
「はい、ケンと仲睦まじく暮らすアマンダはいずれ彼の子を産むでしょう。でもそんな事、認めたくはなかった」
「…………」
「誇り高きアールヴの血に卑しい人間の血が混じるなど、絶対に許しがたいと思っていたのです」
と、ここで不良社員3人がまた吠える。
「その通りだろ!」
「極めて正常だ!」
「お前はけして間違っていない」
こいつら……
人間を蔑視していたアウグストの過去を、立派だと擁護していやがる。
ノーラさんも腹立たしいようだ。
彼女は不良社員達をキッと、鋭い視線で睨み付けたのである。
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