第3話「新人女神登場!」

 管理神様のうっかりミスで俺はいつの間にか、神様にされていた。

 でもそれだけじゃない。

 新たな仕事を頼みたいと言われたのだ。


 全くの想定外。

 管理神様が俺に頼みたい仕事とは……

 何と!

 新人女神の研修指導教官だった。


 さすがに無理ゲ―だと、

 俺は必死に抵抗したが……

 管理神様はどこ吹く風。


 仕方がない……

 何度も繰り返しになるけれど、管理神様の加護無くして今の俺はない。

 

 自分のポリシーに反したりしなければ、受けるしかない。

 最終的に管理神様の深謀遠慮で全てが結果良し! 

 丸く収まって、ちゃんちゃん……となるはず。

 そう、信じよう。


『分かりました、管理神様。女神様への研修指導なんて自信は全くありません。だが、管理神様のご依頼です。喜んでお引き受けし、全力を尽くしましょう』


『おお、ありがとう! ではケン君へ新人女神達の研修指導を依頼する理由を話そう』


 あれ?

 管理神様の口調が急に変わった。


 ……俺には分かる。

 管理神様が砕けた口調を一変させる時は、

 真面目且つ真剣な話をする際の癖というか、傾向だ。

 

 では、こちらも姿勢を正して、真摯しんしに臨もう。


『はい、お願いします』


『以前、ケン君へ伝えた話の続きなんだけど……』


『は、はい』


『実はね、ケルトゥリとヴァルヴァラが来月以降、正式に後方支援課から異動となる。ふたりが悪魔共との戦いに専念する為だよ』


『成る程、それで後方支援課にふたり欠員が生じるから、代わりに新人ふたりを補強するのですね?』


『まあ、そんなところだ』


 俺と近しい女神様ふたりが、悪魔と戦う。

 一見、世界の為という名目はある。


 だが、俺には分かる。

 ふたりは愛、そして友情の為に身体を張ってくれるのだと。


 本当は俺だって、参戦したい。

 悪魔共との戦いへ身を投じたい。

 しかし、敢えてこの俺なんかへ、研修指導教官を頼むという、

 管理神様の気持ちに報いたい。


『話は分かりました、精一杯頑張りますよ』


『じゃあ新人女神達を呼ぶ前に概要を簡単に説明しようか』


『よ、宜しくお願い致します』


『まずは彼女達の呼び方だが、ケン君も今や経験豊富な中級神、新人ちゃんに遠慮はいらない。名前を呼び捨てで構わない。逆に彼女達は君に対し、敬語で喋って来るだろう』


『は、はぁ……分かりました』


『昼間ケン君はいろいろあって多忙だろう? それ故、研修は今まさにこうしているように、ケン君の夢と違う異世界をつないで行われる。つまり君が寝ている間に夢の中で行うと理解してくれ』


『了解です。お気遣い頂きありがとうございます。 ……助かります』


『それで毎回、この異界へ一旦集合し、そこから研修先の世界へ向かう』


『成る程』


『それと安心してくれ、ケン君の負担を考えてあるから、基本的にふたり同時の指導はない。研修は君と新人の1対1、マンツーマンで行われる。但しケン君が望めばふたり一緒でも構わない』


『分かりました』


『新人女神の指導方法もケン君に全て任せる。結果さえ伴えば、優しくしても厳しくしても可だ』


 うわ!

 それって、丸投げ?

 ……俺に全て任せるって、大事な新人育成なのに……良いのかなぁ?


『りょ、了解です』


『それと、こちらから与える研修環境、及び課題は様々だ。与えられた場所でふたりを指導して欲しい。悪いが、具体的な概要は伏せさせて貰うよ』


『な、成る程。突発的な案件に対する俺の指導教官としての評価、及び研修生の女神としての適応力も試されるのですね?』


『だな! それとケン君の力は現状のレベルとスキルが異世界でも発揮可能だ』


『それも助かります』


『うむ、以上。……では改めて新人女神達をここへ呼ぼう』


『は、はい!』


 俺が返事をした瞬間。

 目の前の地面というか、床がまばゆく輝き始めた。

 転生したての頃、このような亜空間へ連れて来られた時を思い出す。


 ……あの時は、

 ケルトゥリ様、ヴァルヴァラ様、そしてクッカのいずれかが、

 俺の担当になると言われたっけ。


 世間知らずというか、異世界の作法を全く分かっていなかった俺は、

 ケルトゥリ様とヴァルヴァラ様をひどく怒らせ、クッカを赤面させてしまった。


 後に、魔王クーガーの指摘で……

 それらがすべて仕組まれたものであり、

 女神達も知らなかったと判明し、苦笑いしたものだった。


 転生してからはいろいろとあった……

 リゼットをゴブリンから助け出し、ボヌール村へたどりつき……

 嫁ズと次々に知り合い、親しくなり愛し合うようになる。


 勿論、女神だったクッカとはずっと愛を温めて来た。

 そんな中、魔王だったクーガーが軍団を率いて来襲。


 クッカとともに戦いへ赴いた俺は、信頼すべき従士の加勢を得た上、

 管理神様の助力もあって、死闘の末に何とか勝利する事が出来た。


 俺が転生した秘密は明かされ、クッカとクーガーは人間となり、

 翌年、皆一緒に結婚。


 ……そこからも紆余曲折あり、やがて子供も生まれ、

 多くの出会いと別れを経て、何とか幸せに暮らして来た。


 全員でコツコツ苦労して作り上げた小さな幸せを、

 非道な悪魔共が粉みじんに壊そうとしている。

 そんな事は……絶対にさせない!


 改めて決意した俺がつらつら考えていたら、

 輝いていた床からぼん!と異音がし、「もくもく」と煙が吹き上がった。


 はは……さすがに言えないし笑えないけど、

 相変わらず管理神様の魔法演出はベタだ。


 思わず笑うのを我慢して、じっと見つめていれば、

 煙の中にふたりの人影が浮かび上がった。


 やがて……煙が晴れ……

 ふたりの少女が現れる。

 

 ひとりはすらりとして、法衣ローブ姿をした金髪碧眼のアールヴ女子である。

 どことなくケルトゥリ様に似ている。

 結構な美人。

 

 でも?

 何か、軽いノリで、俺に手をぶんぶん振っているぞ。

 どうやら……

 性格的にはケルトゥリ様と真逆のタイプみたいだ。


『はぁい! 私はヒルデガルド、D級女神でっす。ケン様、よっろしくぅ』


 ええっとヒルデガルドさんね。

 

 そしてもうひとりは……と。

 

 シルバープラチナの美しい髪を持つ、

 小柄で少し冷たい雰囲気の女子。

 見かけは人間族なのだが、どことなく違う雰囲気。

 独特な黒色ゴスロリ風のドレスを着ている。

 彼女は雰囲気通り、淡々と抑揚のない静かな声で挨拶して来た。


『……D級女神のスオメタルです。ケン様、宜しくお願い致します』


 う~ん、スオメタルさんは礼儀正しいけど、

 見かけは不思議系のファッションこだわり女子?

 じっくり話してみないと分からないけれど……

 第一印象と挨拶で、何となくふたりのキャラは見えて来た。


 ま、初対面だし、まずはこちらも丁寧に行こう。


『ケン・ユウキです。こちらこそ宜しくお願い致します』


 俺はふたりの新人女神へきちんと敬語で挨拶し、深々と頭を下げていた。

 と、ここで管理神様が仕切ってくれる。


『ヒルデガルド、スオメタル、今日は挨拶のみで、本格的な研修は明日からだ。ケン君の指示には必ず従い、しっかりサポート女神の心得を学んでくれ』


『はぁい、管理神様』

『かしこまりました』


『という事で、ケン君、まず明日はどうする?』


『ええっと』


 うわ!

 どうするって、勝手が全く分からない。

 ……まあ、良いや。

 開き直っちまおう。

 俺に任せるって事だから。


『まずはふたり一緒で、その次から各自ひとりずつという形を取りたいと思います』


 と、俺が提案すれば、管理神様は相変わらず、軽い……

 否、ノリが良い。


『という事だって、ふたりとも異存はないね?』


『ありまっせん』

『御意……でございます』


『という事で、また明日ぁ』


『ばいば~い』

『ケン様、失礼致します』


 管理神様の挨拶と共に、女神達の挨拶も聞こえて来て、

 その瞬間。

 俺は自室で目を覚ましたのだった。

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